次、会うときは

 ヒーローにとって、健康管理も大切な仕事のうち――だけど。

(…熱、上がってきたかも……)

 風邪が流行ってるから気を付けてはいたのに……。さっきより悪化している気がする。(やっぱり、無理して駆けつけなかった方が……いや、応援のヒーロー来るの遅かったし)

 誰か迎えを呼んで――

「……お前、みょうじなまえじゃねえか」
「…………?」

 私の名前を、呼ぶのは………

「は、フラついんてんのか?」

 あれ…?なんだろう……目が、まわ…る……

「――と。なんだ?……すげえ熱。気ィ失ってやがるし……」


 このまま、連れて帰るか……――



 ***



「……………………」

 次に目を覚めると、私はベッドの上に寝ていた。
 頭の上には濡れタオルが乗せられている。

「…………………?」

 私、どうしたんだっけ。
 熱が上がって朦朧としてるまでは思い出せるけど、それ以降まったく思い出せない。(というか、ここどこ)

「――やっと目ぇ覚めたかよ」
「!?」

 死柄木弔――こちらを見下ろし立っているその姿を認識した瞬間、飛び起きる。

「っなんでここに…!」
「おいおい、ここは俺の隠れ家だぜ?」
「は…」
「熱でぶっ倒れたお前を手厚く看病してやったのに、礼の一つもできねえのかヒーローは」
「…………………」

 看病?この男が?

「私を監禁でもするつもり――?」
「まずは自分の状況を確認してみたらどうだ。お前を監禁するつもりなら手足縛り上げ、目隠ししてる」

 熱で頭やられたかとそう呆れたように言う死柄木。
 あっさり論破された気分だ。めっちゃ腹立つ。(いやいや、落ち着け。まずは冷静に状況確認…………)

「……。私のヒーローコスチュームは」
 気づくと、何故かラフな男物の服を着ている。
「寝かすのに邪魔だったから俺の服に着替えさせた」
「………誰が」
「俺」

 そうニタリと笑う死柄木。

「〜〜〜っ!」
 私の裸を見たからには、万死に値……!!

「っ、まさかその隙に…!」
「なんもしてねえよ。反応ねえやつ襲っても面白くねえだろ?」

 ……。そ、そうなの…?確かに下着は着けて…って、ヴィランの言うことを信用は――

「まあ、ヒーローならもうちょい鍛えた方が良いと思うぜ」
「っ余計なお世話!」

 そっちだってそんなこと言える体格してないくせに。

「…ヴィランがヒーローを看病するとか、本当の目的はなに?」
「別に。たまたまお前に会って、目の前で気を失ったから気まぐれで連れて帰っただけだ」
(ヴィランの前で気を失うとか…新人とはいえ、プロとしてあるまじき失態……)
「しいて言うなら、嫌がらせだな」
「嫌がらせ…?」
「お前、ヴィランに助けられるとか自分が許せないだろ?その上、看病されたとか死にたくならねえか?」

 …………………。

「よく私のことをご存じで!」

 確かに、屈辱的……!
 死にはしないけど、時間を戻せる"個性"を探しに行く旅に出たいぐらいには精神的ダメージは大きい。

「写真とか取ってないでしょうね…?」
 嫌がらせというなら。世間にばら蒔くとか脅しも如何様に……。

 死柄木は、その長い前髪の間から目を細める。

「俺が壊したいのは生憎、お前の人生じゃねえよ、みょうじなまえ」

 ――ヒーロー社会。すなわち。

「この腐った世界だ」
「…っ」

 死柄木弔――犯罪者集団ヴィラン連合のリーダー。
 その因縁は雄英時代から。

(こいつだけは、絶対に………)

 でも、今は。

「看病してくれたお礼に今日は見逃してあげる」
「相変わらず可愛くねえな…。そりゃあこっちのセリフだろ」


 次、会うときは――


「お前を殺そう」
「タルタロスにぶち込む」


 熱も下がって動けるし、こんな所、さっさとおさらば………

 ………………………。

(待って。ヒーローコスチュームのポケットの中に紛失したらとってもやばいプロ免許証がっ)


「……私のヒーローコスチューム、返してくれませんか」

 

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