雄英式エイプリルフール

 なまえたちAチームが仮想ヴィランの大群と戦っていると同様に。


 ――Bチーム。

(入試試験でびびってたのが懐かしいや――)

 出久は自身の成長ぶりを実感しながら、仮想ヴィランを蹴散らしていた。

 そのすぐ近くでは、回原が"個性"で両手足を回転させながら、体全体を使うように仮想ヴィランを破壊している。

「回原くんの"個性"、強いね!」
「対人相手だと加減が難しいけど、ロボ相手ならそれもないからやりやすいぜ!」
「高速回転によって、ロボの装甲も削れるし、攻撃を弾き返すことも可能――攻守ともに万能な"個性"だ!さらに回転数を上げれば壁をこじ開けたりなんてことも出来るだろうし、救助活動としても十分活躍……ブツブツ」
「緑谷どうした!?」
「思考しながら戦ってんぞ…!?ある意味器用だな…!」
「ん」

 出久のいつもの癖を初めて目の当たりにして驚く回原たち。
 驚きつつも、次々と襲いかかってくる仮想ヴィランを破壊していく。

「なあ、緑谷。どっちが多くこいつら倒せるか勝負しない?」
「えっええ!?」

 突然の回原の申し出に驚いた出久は、間一髪ロボの突進攻撃を受けそうになった。
 咄嗟に地面に両手をついて、体を捻るように避ける。

「いや、ちょっとこの状況では……!それに、勝敗をつけるのも難しくないか、なっ!」

 答えながら出久はすぐさま反撃というように、ロボを蹴飛ばした。

 破壊された部品が宙に飛ぶと同時に、回原の腕も仮想ヴィランを貫く。

「破壊した数は正々堂々と自己申告制。スタートは今から」

 はい、スタート!

 流れるような回原の言葉に、出久は再びすっとんきょんな声を上げる。
 反対に楽しそうな彼を見て苦笑い。(回原くん、唐突だなぁ)

 まあ、いいかと出久は1体…2体と数える。どっちにしろ倒すのは一緒だ。

「5体目……撃破!!」

 見ると今度は回原の足がドリルように高速回転して仮想ヴィランを破壊していた。(もう、5体目!早い…!)
 彼の"個性"は手だけではなく、身体のあらゆる部位に及ぶからだ。

 僕も負けてられないや――無意識に口角を上げ、出久は拳に力を込める。

 一方。
 
「そりゃよっと――!」

 後衛の泡瀬は仮想ヴィランを破壊というより、行動不能にしていた。
 その数の多さを逆手に取り、すし詰め状態のロボの上にダンッと飛び乗った泡瀬。

 両手でロボット同士を触れれば、彼の"個性"が発動して隣同士結合されていく。
 入試の時の1Pや2Pは身動きが取れなければ、ただの鉄の塊。

 対して少し厄介なのは、3Pのミサイル。

「小大!」
「ん」

 そこで小大の出番だ。
 結合され、行動不能の3Pの仮想ヴィランに、彼女が触れれば"サイズ"が変化。

 ミニミニサイズの仮想ヴィランだ。
 同様サイズのミサイルを発射されて当たったとしても、痛くも痒くもない。

 逆に。結合した仮想ヴィランを大きくされば、盾にもできる。

 ――そうか、何も破壊しなくても良いのか。

 サポートタイプの二人だったが、上手く自身の"個性"を活用していた。
 出久はその様子を横目に見て、考える。

 このまま戦えば長期戦になってしまう。
 なんとか皆の"個性"を合わせて一気に片付ける事はできないだろうか。

(そうだ……!)

 出久はロボを足蹴に飛び上がり「小大さん!!」彼女の方に着地する。

(――小大さん。みょうじさんと仲が良くて、"個性"は《サイズ》!)

「小大さん、聞きたいことがあるんだけど…っ」
「ん?」
「"個性"のサイズってどれぐらいの大きさまで変化させられるかな!?」
「ん…」
「…えっと、やって欲しいことがあるんだけど…」
「んっ」
「……………………」

 「ん」しか返ってこないぞ…!!(僕だからか!?みょうじさん、どうやって会話を〜〜!)

「…今のところ、ロボの倍ぐらいの大きさまでなら」
(!良かった、ちゃんと会話できた!……それなら、)

 出久の頭の中に生まれた案が固まっていく。

「回原くん!一気に仮想ヴィランを行動不能にする方法を思い付いたんだ!」
「!マジか!?どんな方法だ!?」

 作戦はこうだ――

「まずは僕たちで仮想ヴィランたちを誘導して集めて……」

 作戦の要は小大と泡瀬の"個性"。
 一旦下がるように走りながら、出久は三人に説明する。

「全部倒さなくても閉じ込めてしまえばいいんだ!」

 ――このガードルを使って!

 それは、いつかのオールマイトも利用していたように。

「小大さんの"個性"で大きくして、泡瀬くんの"個性"で地面と結合してしまえば、即席のバリケードになると思うんだ!」
「なるほど!ある物を使うってか」
「これで足止めをしてる間に、外側の仮想ヴィランから倒していけば、それが盾の役目になって、内側にいる仮想ヴィランは動けない」
「確かにな…全部を相手にしなくていいから効率的だ」

 回原に続き泡瀬も納得し、隣の小大を見る。

「――よし。やるぞ、小大!」
「ん!」

 小大も気合い十分に頷いた。


 ――結果的に出久の作戦は成功した。

 道いっぱいに塞いでる仮想ヴィランは他のロボの残骸によって、閉じ込められ行動不能の状態。

 出久や回原の攻撃によって破壊したものと、泡瀬が結合したものたちもある。

 面倒なミサイル攻撃を放つ仮想ヴィランは、主に小大が小さくしていった。

「仮想ヴィランなら他のみんなも大丈夫だと思うけど……。一旦入口に戻ろう」

 出久の言葉に、三人は無言で頷き、その場を離れる。

「そういえば緑谷、何体倒した?」
「ええと…25体かな」
「俺、32体!数は俺の勝ちだな!」

 にっと笑う回原は「けどやっぱすげーな、緑谷」と続けて言う。

「へ…」
「なまえがお前のこと、よく褒めて話すからさ。つい勝負をふっかけちまったけど」
「…!?」
「うんっ、これからはライバルだな!」
「ラララライバル!?」

 出久はなんの!?って言いかけて言葉を引っ込める。それに。(みょうじさんが僕のことを…っ?)

「小大、みょうじと仲良いよな。その辺、なんか聞いてねーの」
「ん。たぶんなまえは……」

 小大が何かを口にする前に「わー!待ってまだ心の準備がぁ!」と、二人そろって声を上げた。


 ――Cチーム。

「てめェが派手に爆破してぶっ壊すから破片が飛んできただろうが!?」
「知るか!避けろや!!」

 勢い良く仮想ヴィランを破壊していく反面、言い合いも激しい爆豪と鎌切の二人。

 その二人も梅雨の提案により、前後に引き離すことでとりあえずは安定した。

 お茶子は爆豪の攻撃に巻き込まれぬよう、注意しながら仮想ヴィランに触れて浮かせては「解除!」と、頭上高くから落として破壊していく。

「バカの一つ覚えかよ」
「いきなしの暴言!?」なんなん!?

 もらい事故のように爆豪から投げかけられた言葉。

「いちいち浮かせたらすぐキャパオーバーになんだろうがてめェは。他に方法があんだろ」

 攻撃の手は止めず、お茶子に言う爆豪。(…もしかして、アドバイスしてくれたんかな)

 他の方法――自分の必殺技はまだ少ない。あるとすれば……

(あ!それなら……!)

 思い付いたお茶子は手前にいた仮想ヴィランに触れて"無重力"にすると。

 そのままガシッと掴み、砲丸投げのように彼女はぐるぐる回り遠心力をつける。

「惑星投げーー!!」

 新たな技名を叫んで投げると、すぐさま指先を合わせて「解除!」
 重力が元に戻ったその塊は、仮想ヴィランたちにつっこみ、その質量で吹っ飛ばした。

「やった!!」

 ガッツポーズをするお茶子の耳に届くBOM!という爆発音。

「丸顔……!!俺の邪魔するたぁ良い度胸してんじゃねえか!?」
「へ!?邪魔しとらんよーー!?」

 運悪く衝撃が広がり、爆豪の妨害をしてしまったらしい。

「あとでぶっ殺す!!」
「理不尽やぁっ!本当にワザとじゃないから!!」

 その感情をぶつけるように次々と爆破して仮想ヴィランを破壊していく爆豪。
 自分も後でああなるのかとお茶子はひぇぇと声を漏らす。その頃には彼の機嫌も直ってるといいが。

(やっぱりなまえちゃんはすごい…!なんやかんやあの爆豪くんと肩並べられるんやもん……!)

 ――一方。

「オラァ!!」

 反対側では、鎌切が腕の鎌を振り、爆豪と似たり寄ったりな勢いで仮想ヴィランたちを破壊する。

「ケロ!」

 近くでは梅雨が飛んできたミサイルを舌で叩き落とし、他のロボたちも巻き沿いにしていた。

「やるじゃねえか!蛙吹!」
「梅雨ちゃんと呼んで。鎌切ちゃん」

 前の二人とは対照的に、順調な二人である。


 ――Dチーム。

「俺がやる――!」

 障子の言葉に前に飛び出した鱗が、腕から"個性"の鱗を飛ばした。
 それにより宙で破壊したミサイルを「わあ〜」とまるで打ち上げ花火を見たように凡戸が歓声を上げる。

「次、二時の方角だ!」
「アイヤー!」
「?アイヤー?」

 右足から氷結を出しながら、鱗の返事に反応したのは轟。

「何かの暗号か」
「(…!?)中国人の口癖みたいなものだが、知らないのか(日本人イメージの)」
「初めて知った。なるほど、中国語か」
「いや、違う」
「アイヤーって面白いよねえ」
「………………」

 轟の氷結と、凡戸による接着剤と広範囲の攻撃と。比較的余裕があるからこそ繰り広げるゆるい会話。
 轟の反応に困惑する鱗に、障子は自分がフォローした方が良いのか悩んでるうちに、この辺りの仮想ヴィランを倒したようだ。

「終わったな」
「一面、氷と接着剤だな…」
「向こうではまだ戦闘中らしい…」
「あ、行くならこっちからだねえ。この辺、まだ接着剤固まってないから〜」

 四人は他のチームの加勢に向かう。


 ――Eチーム。

「取蔭さんっお願いしますわ!」
「ええ、まかせて!」

 八百万が"個性"で創り出した小型爆弾を、上半身を半分に分割した取蔭が宙に浮かび上がり、仮想ヴィランの大群に投げつける。

『ブッ殺ス!!』
「それは勘弁」

 仮想ヴィランのアタックを、下半身を今度は縦に分割して取蔭は避けた。

「入試の時を思い出すね!私、こうやってこっそり近づいてスイッチを切ってたんだ〜」

 小型爆弾を投げながらも、そう言いながら馴れた手つきでロボットの後ろにあるスイッチを切る葉隠。

 黒色には手袋とブーツを脱いで、完璧な透明人間になった葉隠の姿は見えないが、声がする方法で大体の居場所は把握できた。

「…………!」

 それより受けた衝撃。

「……俺も、一緒だ」

 黒色の"個性"は《黒》
 影や物など、それが黒色なら何にでも溶け込め、高速移動できる能力。

 入試試験ではその"個性"を生かして、こっそり仮想ヴィランに近づき、葉隠同様にスイッチを切って回っていた。

「すごーい!黒色くんっ"個性"は全然違うけど、私たち似てるね!」
「…………(あんなに嬉しそうということは……やっぱり俺のことが……)」
「おーい黒色、いいから手を動かして〜」


 ――Fチーム

「っ――峰田、危ねえ!」

 後ろから突撃してくる仮想ヴィランを、円場が吹き出した空気の壁が弾き返す。

「っ後ろから襲ってくるなんて卑怯だろ!?」

 現れた大群に驚きながらも、隣の円場を見上げる峰田。

「助かったぜ!お前、結構良いやつだな!」
「へへ…俺サポートの方が得意なんだよ。それより、来るぜ!」
「大丈夫か!?二人とも!」

 前方の仮想ヴィランたちを次々と破壊しながらも、振り返り、二人に聞いたのは硬化した切島だ。

「ああ、何とか!」
「よし、オイラも戦うぜ!」

 そう言って峰田は頭のもぎもぎをもぎると。
 円場の"個性"で行く手を塞がれたロボの足元に投げつける。

「お!俺たち良いコンビネーションかもな!」
「なあ、円場。この戦い終わったらオイラの勇姿をB組女子に話してくれよ」
「……それ、死亡フラグじゃね」

 峰田が何やらフラグを立てているとは知らずに、二人の様子を見て「向こうは大丈夫そうだな!」と切島は前を向き直る。

「円場の"個性"は、"防御は最大の攻撃"だからな!!」
「なんだそれかっこいいな!!」

 言葉を交わしながらも。金属化した鉄哲の腕と硬化した切島の腕が、それぞれ仮想ヴィランを貫く。

「峰田のもぎもぎも厄介だぜ!」

 砂藤はうおらぁと声を上げ、仮想ヴィランを持ち上げると他の集団に向けて、投げ飛ばし、豪快に破壊した。

「「やるな!砂藤!!」」

 切島と鉄哲がぐっとサムズアップする。
 一見、消耗戦になりそうな状況だが、彼らのテンションは落ちることなく、ロボの大群を次々と破壊していった。


 ――Gチーム

「ふぅん、酸を出す"個性"か。なかなか良い"個性"だね」
「でっしょー!」

 物間がまずコピーしたのは芦戸の"個性"だった。
 手から酸を仮想ヴィランの足元に噴出して、動きを鈍らせる。(あまり濃度を上げると手の方にも影響するか)

 ――フっ…チョロい奴等だ。

 ついでに"個性"を分析して、いつか来るであろう直接対決のために備えてやる…!(真の敵は味方の中にいるってね!)

 そんな若干ヒーロー志望らしからぬ事を物間が考えてるとは知らず「次は俺の"個性"、コピーしてみてくれ!」と上鳴は自分を指差してワクワクしながら言った。(…普通自分の"個性"がコピーされるのなんて嫌だろうに、なんでそんなに嬉しそうなんだ?アホなのか)

「…いいよ。自分の"個性"を自分以上に使いこなせている所を指をくわえて見てるといいさ!」

 物間はそんな嫌味と言える言葉を言いながら、上鳴に触れる。

(――そう余裕ぶってられるのも今のうちだぜ、物間)

 対して上鳴は上鳴で。

(なんつったって、俺の"個性"は使いすぎるとアホになるからな!!)

 これで、俺以外のやつがアホになったところを今度は俺が笑ってやるぜ!!

 ――と、なんともヒーロー志望らしからぬアホな事を考えていた。

 お互いに腹の内は知らないまま、仮想ヴィランの大群に向かう物間。

「最初は軽く、100万ボルト――!」

 コピーした上鳴の"個性"を発動。

 辺り一面、眩い光と共に放電。
 周囲のロボたちを一気に破壊する。

「へぇ…!さすが電気の"個性"。強力な良い"個性"だ!」

 物間はショートしたロボの上にたんっと軽やかに飛び乗ると、他の集団に向けて放電する。

「……………………あ、あれ?」

 ぽかんとその光景を見る上鳴。

「どした上鳴?アホ面になってるよ」
「僕より目立つのはよくないよね!」

 明らかに自分が使う"個性"のキャパをオーバーしてるのに、物間は平然と涼しい顔をしている。

「ふう……電力を使いきったみたいだ。すぐに上限が来るのがネックだな」
「おかしいだろォォ!!なんでアホにならないんだ!!」
「アホ?何言ってるんだ、君。この僕がなるわけないだろ」
 ふっと髪をかきあげる物間。
「イケメン補正かよ!チクショウ!!」

 くやしげに唇を噛み締める上鳴に「まだまだロボはいるから上鳴も戦って!」と、酸で残りの仮想ヴィランを溶かしながら芦戸は言った。

 そして。

「ウ……ウェ〜〜イ」

 やけくそで放電をして一瞬でアホになった上鳴。声を上げて笑う物間。

 ひとしきり笑うと「あとは僕にまかせていいよ!」と、最後は青山に触れて、彼の"個性"をコピーする。

「お手並み拝見といこうじゃん!」
「ウェーイ」
「僕の"個性"はきらめいているから活躍は当然だよね!」
「ついでに君のベルトも借りるよ!」
「ああ!」

 ちゃっかり青山が装着してるサポートアイテムのベルトを奪う物間。
 彼の"個性"を使うにはそれが必要と物間は知っていた。

「一直線にしか放てないのがネックだけど、威力は申し分ないし、君の"個性"もなかなか良いね!」「僕のベルト返して……」

 謎のかっこつけポーズをして《ネビルレーザー》を仮想ヴィランたちに放ち、次々と破壊していく。

 好調と見えた物間だったが。

「う…………………」
「う?」
「ウェ〜イ」
「僕のベルト……」

 彼は急にお腹を抱え込んだ。

「お腹が……痛い………!」
「そこはなるんかーーーい!!!」

 芦戸が突っ込んだ。

「――ハッ!!」
 気づくといつの間にか仮想ヴィランに囲まれている。(待って…!この状況って……)

「ウェ〜〜イ」

 未だにアホ面で両手でサムズアップしてる上鳴。

「いたたた………」

 お腹を抱え、その場にしゃがみ込んでいる物間。

「僕のベルト返して……!」

 必死にベルトを返して貰おうとしている青山。

(――超ピンチじゃん!!)

 戦えるのは自分しかいない……!
 なんてこった!

 なんだっけこれ……四面楚歌に絶体絶命だぁ!と勉強が苦手な芦戸が必死に四文字熟語を思い出すが、それどころではない。(やばっ……!!)

 ズザザザーーー!!

 仮想ヴィランが彼女らに襲いかかる前に。
 そんな音と共に、漂う冷気。
 地面を這う氷結が仮想ヴィランを次々と呑み込んでいく。

「無事か、芦戸!」
「轟〜〜!!」

 現れたのはいち早く自分たちの周囲の仮想ヴィランを倒したCチーム。

「さっすがうちのクラスの公式イケメン!!」
「?」

 まさに、正真正銘のイケメンの登場である。

「こっちはまかせて〜」
「おい、物間どうした!大丈夫か?」

 轟に加勢する凡戸。鱗はしゃがみ込む物間に心配そうに駆け寄る。

「鱗か……くっ」
「何があったんだ物間…!?」
「あ、心配しないで。青山の"個性"をコピーして"個性"使いすぎてお腹痛くなっただけだから」

 芦戸の淡々とした言葉に鱗は、その隣で「僕のベルト……」と半べそで腹を押さえる青山を見た。
 手の隙間からちょろちょろと光が漏れている。

「……………物間が迷惑かけたな」
「っおい!僕は迷惑なんて……!!」

 鱗は物間からベルトを外すと、青山に返してあげた。

「――ah dommageドンマイ!物間くん」
「フランス語かよ!?」
「あとは本家の僕にまかせて☆」
「もう終わってるけどねー」

 青山がベルトを装着して、ポーズを決め、芦戸が呆れてつっこむ頃には。
 轟と凡戸の"個性"によって辺りの仮想ヴィランは一蹴されていた。


 ――Hチーム

「ハッ!」
「ツインインパクト――解放ファイア!!」

 尾白は強靭の尻尾で仮想ヴィランを吹っ飛ばし、その隣で庄田が二段階の打撃を与えて破壊した。

 ――その後ろでは、

「拳藤さん!私が捕縛してますので、その隙に…!」
「サンキュー茨!!」

 塩崎は祈るように手を組むと、"個性"のツルになってる髪を伸ばし、仮想ヴィランたちをがんじがらめにする。

 飛び上がった拳藤は拳を大きくし、眼下の仮想ヴィランたちに撃ち込み、豪快に破壊。

 ミサイルが飛んでくれば、今度は手を扇のようにし、吹き飛ばす。
 その衝撃音は前方の二人には届いていた。

「拳藤さん、すごいな…!」
「対して僕らは少し地味でしょうか…」
「いや、俺らは堅実に行こう!」

 派手さはないが、二人は確実に、一体…二体と倒して行く。

 一番安定したチームは彼らだった。


 ――Iチーム

 索敵に優れている耳郎を中心に、連携をとる四人。
(数、多すぎ……!)
 こうも仮想ヴィランが押し寄せて来たら、索敵も何もないが。

「蹴散らせ、ダークシャドウ!!」
「アイヨ!!」

 一番、ひしめき合ってる方は常闇とダークシャドウが。

THUNDER HORNサンダーホーン!!」

 ポニーが4本の角を飛ばし、その隣で柳が残骸を操り、次々とロボにぶつけていった。

「ハイビートファズ!!」

 手薄になった場所を耳郎が耳たぶのフラグををブーツに差し、大音量の攻撃をする。

 バランスが取れた攻撃をしているチームだったが、

「切りがないね……」

 うんざりする柳の言葉通り、倒しても倒しても次から次へと仮想ヴィランは押し寄せてくる。

「だが、やるしかない…!」
「そうデース!諦めたらそこで勝負は終了デース!」
「(…あ、どこかで聞いたことある言葉だと思ったらちょっと違った)」

 結局は戦うしかない――と、四人が気合いを入れ直したその時。

 BOOOOM!!!

 そう爆発音と共に、仮想ヴィランの大群の真ん中に着地した男。

「ロボだと張り合いねえな」

 ――爆豪勝己だった。

 自分たちの周囲の仮想ヴィランを倒した後、単独で彼は行動していた。

「爆豪…!」突然現れた爆豪に驚く耳郎たち。

「まるで爆心地……」

 常闇の言葉通り、彼が立つ回りは爆破による黒焦げにロボの残骸が転がっている。

「グスン」その際の爆発で、光に弱いダークシャドウは涙を流す。

「登場シーンがヒーローっていうよりヴィランっぽい」
「笑顔がヒーローっぽくないデスネ」
「んだと!鬼太郎女に角!!」
「ちょっとあんたっ、B組にまで…!」

 慌てる耳郎をよそに、残りの仮想ヴィランを倒していく爆豪。

「ご、ごめんね、二人とも…。あいつ、誰に対してもあんな感じだから気にしないで……」
「鬼太郎……嫌いじゃない」
「ツノって、私の苗字からのあだ名デスか!?GOOD!」
「……。気にしてないなら良かった」


 ――Jチーム

 反対側は骨抜の"個性"に任せて、他の三人は反対側の仮想ヴィランを相手にする。

「脆い1Pのロボといえ、肉弾戦はキツいだろ!無理すんなよ、口田!」
「あ、ありがとう…瀬呂くんっ」

 前線に戦う口田を援護する瀬呂。

「ビーーーースト!!」

 獣化した宍田が勢いよく駆けて、仮想ヴィランの大群に突っ込む。

「し、宍田くん…っ」
「あ、おいおい!あんま一人で突っ走ったら危ねーぞ!」

 口田と瀬呂の制止も届かず、暴れる宍田。

「宍田はビースト化すると脇目も振らずにハイになるんだ…!」

 無茶する前に止めてくれという骨抜の言葉に「バーサーカーみたいだな!よし来たっ」と瀬呂は答える。

 腕のテープを宍田に向けて放つが、

「速え!?」

 俊敏な動きにテープがすかっと外れてしまう。

 手当たり次第、ロボに攻撃し、暴走する宍田。

「――宍田、落ち着け」
「私は落ち着いてます…ぞ……!」
「!お前は……!?」

 そんな彼を止めたのは――

「心操!?」

 なんでこんな所に!?と驚く瀬呂たちに「宍田を洗脳したから早くテープで救出した方がいいぜ」と答える心操。

「お、おう!」

 瀬呂はテープを伸ばし、今度こそ宍田に巻き付け、こっちに引っ張りあげた。
 その瞬間、すかっと外れる仮想ヴィランの攻撃。

「…ハッ!私は一体何を……!?」

 宍田の洗脳を解いた心操は、何故自分がここにいるのか説明する。

「相澤先生に言われて、今後の為にと見学してたんだよ」

 ――まさか、こんな事になるとはな。

「なるほどな。とりあえず宍田を助けてくれてありがとな」

 "個性"を使いつつも、笑顔で心操に言う骨抜。

「私、ついついハイになってしまうんですが、心操くんがいれば安心ですな!」
「いや、自覚があるなら自重してくれ」
「お前の"個性"、こういう時も役立つのな!」
「…っうん」

 瀬呂と口田の言葉に、心操は照れ臭そうにそっぽを向く。

「…俺の"個性"は機械相手には効かないからな。協力できるのは――」
「どっかーーん!!」

 心操の声を遮る声。

「ありゃあ吹出だ!」

 骨抜の視線の先には、具現化した擬音が。

 ちょうど入口に向かう途中だったAチームが加勢し、彼らも心操の姿に驚きつつも、無事周辺の仮想ヴィランたちを倒した。



 ***



「平均、一時間ってとこか」
「まあまあじゃないか、イレイザー」

 ――Jチームのみんな(+心操くん)と合流し、とりあえず入口へと向かった私たち。
 程なくして他のチームもぞくぞくと揃って、全員集まると。

 落ち着いた様子の相澤先生とブラドキング先生。(…………………おやおやおや〜?)

「……心操くん。もしかしてって思ったけど、今日なんの日だっけ」
「奇遇だな、みょうじさん。俺も同じことを考えてる」

 怪訝にざわつくその場によく通る声が代表して先生方に聞く。

「外部からハッキングとはなんだったんですか!?状況は無事なのですか!?」

 天哉くんの焦燥する声に、相澤先生は一呼吸置いて。

「飯田、今日は何日だ」
「…?今日は4月1日…………」

 …………………………。

「ま、まさか……!」
「嘘だろぉ…!?」
「はは、雄英がそんな子供じみたこと……」

 その場から唖然とした声やら、乾いた笑いやらどよめきが走る。

「――そう!今日はエイプリルフールさ!!」
「「オールマイトー!!?」」
「最後に私が顔出しに来たッてね!HAHAHA!A組B組、皆力を合わせてよく頑張ったじゃないか!!」

 突然、ひょこっと壁の影から顔を出して現れたオールマイト先生。

「そういうこと。つまり……」

 つまり――?

「合法的虚偽!!」
「「ゴーホーテキキョギィィ!!!」」

 新しい!!じゃなくてっ!

 ――一体。私たちは卒業するまでに何回この虚偽に振り回されるのか。(それにしても相澤先生、すごく良い笑顔ですね……)

「ヒーロー科の授業って毎回こんな感じじゃないよな……?」
「心操くん。それが概ね毎回こんな感じだよ」
 早くおいでよ、ヒーロー科に。楽しいよ。
「……。ああ、確かに楽しそうだ…」


 私たちは、4月1日を迎える度に、この日の出来事を思い出すのだろう。


「安吾さん…?大丈夫?」
「なまえ……またしても私は太宰くんにしてやられました……!!」
「……お互い、今年はしてやられたエイプリルフールだったね〜……」



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