「うおおお……!可愛い〜〜!ほんまに小さいなまえちゃんやー!!」
「本当ね、なまえちゃんがそのまま小さくなったみたい」
その小さな背丈に合わせるように屈みながら、お茶子と梅雨は彼女に言う。
「……だれ?」
そこにいる幼女――小さくなったみょうじなまえは、不思議そうに二人を見上げていた。
「――みょうじさんがこうなってしまったのは敵の仕業ってことなんだね?」
「たぶん……。アタシもよく分かんないんだけどさー……」
考えるように言った出久の言葉に、うーんと悩ましげに答えたのは芦戸だ。
「敵通報を受けて、現場に向かったらこの子がいたってわけ。ヒーロースーツもだけど、どー見たってちっちゃいみょうじじゃん?」
それに……と芦戸は続ける。
「記憶も小さい頃になったのか分かんないけど、名前を聞いたら……」
そう言って、芦戸は屈んで小さいなまえ?に「あなたの名前は?」そう尋ねると……
「おかあさんがしらないひとになまえをおしえちゃだめっていってた。おとうさんはかわいいこはねらわれるからきをつけろって……」
返ってきた言葉は、幼さとは裏腹に随分としっかりしていた。皆はほ〜と感心して頷く。
「――ね?」
「た、確かに……」
「ああ、その逸話はまごうことなきみょうじくんだな……」
「そんな小さい頃から言い聞かせてたんだな、みょうじの父ちゃん」
「こんな可愛いなまえちゃんに、お父さんはさぞかし心配だったんだねー!」
納得する出久と飯田、それに続く切島と葉隠。
卒業してよもやすぐに元1−Aのクラスメイトがこの場に集合しているのは、もちろん芦戸が「緊急事態発生!1−A全員集合!!」と呼びかけたからである。
「けどよ、あのみょうじが敵の攻撃を受けたってのも珍しいよな……」
砂藤。
「卒業まで爆豪の爆破を一度も喰らわず逃げ切って「皆勤賞だーっ」て喜んでたみょうじがなぁ」
「うっせえ」
瀬呂。(と、爆豪)
「よっぽど手練れた敵だったのかも知れない」
尾白。
「緑谷、"個性"とか詳しいけどさ、何か思い当たることはないの?」
耳郎。
「うーん、ヒーローの方ならともかく……。まずみょうじさんが小さくなったというのは、単純に年齢を操作する"個性"か……もしくはみょうじさんに僕らの記憶がないことからまったく別の……ブツブツ」
お決まりにそう思考する出久の隣で「あ」と、飯田が何やら思い付いたように声を上げる。
「みょうじくんに何か分かることはないか聞いてみたらどうだ?」
「うんっ、小さくてもなまえちゃんは賢そうやから何か分かることがあるかも知れへん!」
「そうだね!」
三人は小さななまえに近寄る。
「なまえちゃん、分かったらでええんやけど」
「何かこれまでのことで知ってることはないかな?どうしてあの場にいたのかとか……」
「どんな些細なことでもいいぞ!」
にこやかな笑顔で質問するお茶子、出久、飯田の三人組。
「こじんじょうほうをききだそうとするのはわるいひとたち……!ももおねえちゃん、けいさつよんで!」
そう言って、八百万の後ろにさっと隠れる小さいなまえに。グサっと三人の胸にナイフが刺さったようにショックを受け、仲良く撃沈した。
「緑谷ちゃんたち、なまえちゃんととても仲良しだったから余計ショックね」
「子供って正直だよな〜」
梅雨と上鳴は落ち込む三人に同情の目を向ける。
「……しっかりしているな」
「っ、っ」
「末恐ろしい子……☆」
その様子を見て、再び感心するような驚くように言ったのは障子、口田、青山だ。
対して八百万は「あらあら、皆さんは悪い人じゃないから大丈夫ですよ」そう微笑ましく笑っている。
「みょうじくん!俺たちは決して個人情報を聞き出そうとしているのではなく……!!」
「八百万さんには心を開いてるんだね……?」
「ええ、何故か!」
「(めっちゃ嬉しいそうや……!)」
八百万の後ろに隠れる小さいなまえに、今度は別の二人が近寄る。
「まあまあ、ここは子供に人気ヒーロー、チャージズマにまかせてくれよ」
「ガキんちょみょうじには興味ねーけど、オイラも一肌脱いでやるぜ!」
上鳴と峰田だ。
「なまえちゃん、お兄ちゃんと遊ぼうぜ!んで、教えてほしいことがあるんだ!」
「ほーら、オイラのボールだぜ〜」
「やだ。しょーとくんがいい。あとそのボール、キモい」
トタタ、と小さいなまえは走って、今度は轟の後ろに隠れる。今度は二人がショックを受けた。
「大丈夫だ。あの二人は……ヒーローだ」
「おい待て轟!なんだその間はっ!」
「ヒーロー?」
「ああ、俺もヒーローだ」
「ヒーローしょうとくんかっこいい!」
「オイラ別にくやしくねーもん。ガキんちょにモテてても困るだけだからなぁ……!」
「「(負け惜しみ……)」」
恨めしげな二人の視線をまったく気にも止めず、轟は小さいなまえに優しげな笑みを浮かべている。
「轟さんにも心を開いているみたいで……」
「あ、なんか分かった気がする」
「顔か」
「子供って正直だよなァ」
「無邪気故の残酷さ……!!」
「でも、ダークシャドウちゃんも大丈夫みたいよ」
「一緒にアソボ」
「あそぶ!」
「フ……幼いみょうじも闇に魅入られたか」
ダークシャドウに高い高いをされて、なまえはきゃっきゃっと喜んだ。
「めんどくせえ。どうせすぐに元に戻んだろ。敵の"個性"にかかったこいつが悪ィ」
次に口を開いたのは爆豪だった。協調性がない彼が何故この場にいるのかは、例のごとく切島に強引に連れて来られたからである。
「爆豪。みょうじが怖がってる」
「知るか」
「……しょうとくん。あのひとぜったいろくなおとなにならない」
「アァ!?」
「ヤンキーがにんきなのはコミックだけ……」
「ぶはぁ!!」
「ヤンキーじゃねえわ!!てめェらなに笑ってんだ!?」
「小さいみょうじにボロクソ言われる爆豪!!」
「アホ面ぶっ殺すぞ!?」
「やめろ、爆豪。小さいみょうじの教育に悪い」
「てめェは保護者かよ鳥野郎!」
「小さいみょうじはどこでそんな言葉覚えたんだ!?」
「恐るべし……なまえちゃん!」
「小さい頃からなまえさんは賢かったのですね!」
「あとね、すぐキレるひとはひととしてレベルがひくいんだって」
「よく知ってるな。えらいぞ」
良い子良い子、と小さいなまえの頭を轟は撫でる。
「おい、あいつぜってー元の記憶あんだろ!?」
吐かせてやる!ついでに半分野郎も爆破する!という爆豪を「ち、小さい頃からみょうじさんはみょうじさんなんだよっ……」「相手はみょうじとはいえ、今は子供だから!な?」と、出久と切島が慌てて止めに入った。
「しょうとくんはかっこいいし、やさしくてすき!わたし、おおきくなったらしょうとくんのおよめさんになりたい!」
エヘヘ、と無邪気な笑みを浮かべて小さいなまえは言った。
その様子を複雑そうに困惑する男子たちと、女子たちは「かわいい〜」と微笑ましく見守る。
轟は一瞬、驚いたように僅かばかり目を見開くが、ふっと笑みをこぼして。
「じゃあ、……なまえが大きくなったら俺と結婚しよう」
「うんっ、やくそく!」
「ああ、約束だ――」
指切りをする二人に「少女コミック的展開……!!」と、さらに悶える女子たちであった。
――さて、事の真相は。
「敵襲撃の際に、助けた子の"個性"が暴発しちゃったみたいでああなったみたい」
そう隣を歩く耳郎に説明するなまえは、すっかり元の姿に戻っていた。
「この私が敵の攻撃なんて受けないよ〜」
そうあっけらかんと笑う姿は、紛れもなく元のなまえだ。耳郎は「ああ、そう」と、毒気を抜かれたように言葉を返す。
たまたま会った二人は、カップコーヒーを片手に街を歩きながら話していた。
「その時の記憶はあんの?」
「それがまったくない」
なまえはけろりと答えた。その答えに耳郎は「あー……」と、なんとも言えない目を向ける。
「え、何かあったの?」
「あったと言えばあったし、なかったと言えばないというか……」
珍しく歯切れの悪い耳郎の言葉に、なまえはえー?と怪訝そうな顔をした。あれをどう話せばいいのか、耳郎も説明が難しい。
「小さくなったあんたさ、轟に――」
その時、なまえのスマホの着信が響く。
「焦凍くんからだ。これから会えないかって」
なんだろう?というなまえに、耳郎はますます複雑そうな顔をして。
「まあ、頑張れ」
なまえがその耳郎の言葉の意味を知るのは、この後すぐだ――。
「急にわりィ。式はいつがいいか早めに決めたいと思ってな」
「式……?」
「結婚式」
「け、結婚式……!?」
ちょっと待って、となまえはいつもと変わらない涼しい顔の轟に制止する。
「焦凍くん、結婚するの……!?」
唐突な!エンデヴァーの息子にして、イケメン新人ヒーローがデビューして間もなく結婚だなんて、ビッグニュースだ。
「約束しただろ」
「約束……?」
まったく話が分からない――なまえは首を傾げて困惑する。
「みょうじが幼くなったときに、俺のお嫁さんになりてえって言ってくれたから……」
「……。ん?」
「大人になったら結婚しようって約束して、元に戻った今、果たすときが来た」
……………………。
「まさか、覚えてねえのか?おまえ……そりゃあねえぞ」
轟の驚愕の視線に、なまえは必死に思い出そうとするが何も思い出せない。
そもそも自分が幼くなった事でさえ、元に戻ってから知ったのだ。どうしよう。
(まったく、記憶にございません……!!)
「その場にいた1−Aのクラスメイト全員が証人だ」
!?
「一度口から出た言葉には……責任が伴う、と思う」
「……………………」
――ちなみに。なまえにとっては「記憶にございません」だが、轟から言わせれば「記憶にないとは言わせねえ」である。
「………まずは、交際から始めませんか?」
「……分かった。俺はみょうじのことがずっと好きだったから、また俺と結婚したいと思ってくれるよう努力するよ」
「〜〜〜っ!」
案外、この二人が結ばれる日も近いかも?知れない。