エロは世界を救うのか?

 7月15日――今日はでっくんの誕生日だ。

 同棲を始めて、初めての誕生日。
 料理も彼の好物を作って、ケーキにプレゼントと張り切って用意したけれど………

『大型ヴィランが突如、都会の町並みに現れました!このヴィランは先日指名手配されていた――…』
(これだからヴィランは……!!)

 テレビから流れるニュースを恨めしげに見る。
 今日という日ぐらい空気を読んでいただきたい。
 ヴィランが現れたということは、期待の新人ヒーローの『デク』も駆けつけるというわけで。
 同級生のみんなもいるし、他にもヒーローはいるのに、彼は放っておけないのだ。(まあ、そんな所も好きなんだけど……)

 私も同じヒーローだし、理解はできる。
 でも、それとこれは別だ。
 年に一度の好きな人の誕生日ぐらいゆっくり過ごしたいと思うし、悲しくなるし寂しくもなる。

「はぁ……」思わず綺麗な並べた食器を見つめてため息を吐く。(手こずるようなら私も参戦するけど、結構ヒーロー集まってるみたいだしな……)

『速報です!別の町にもヴィラン3体が出現したらく、計画的な犯行を――』
(あ、これ後処理を含めて今日は帰って来れない的な……?)

 するとテーブルに置いてあったスマホが鳴る。画面に映し出される名前は、今日という日の主役の、

『ごめんっ!なまえちゃん!今日遅くなるっていうか…今日中には絶対帰って来るから!』

 電話を出た瞬間。申し訳なさそうな慌てた声に、落ち込んでた気持ちを忘れて、私は自然とくすりと笑みが溢れる。

「ニュース見たから知ってるよ。怪我だけは気をつけてね」
『うん!本当にごめんっ…!じゃあ…』
「待って、でっくん…!一つだけ、伝えさせて」
『っ?』

 電話を切られる前に慌てて引き留めた。
 一呼吸置いて、私はでっくんに言う。

「今、私。でっくんが着けてほしいって言ってたエッチな下着身に付けてる」『1時間以内に絶対帰るから待ってて!!!』

 速攻返事されて、電話は切られた。

「……。1時間以内……?」

 私は壁時計を見上げた。

『ヒーローダイナマイトが戦ってます!……!?おっと、突如、緑の閃光が駆け抜ける――デクです!!』
(でっくん……!)

 実況するアナウンスの声に、今度はテレビに意識を向ける。


「クソデクっ!!どこからしゃしゃり出てきた!!?」引っ込んでろや!
「ごめん、かっちゃん!!ここはっ、引けないんだっ!!」

 ――男として!!!

「…………………アァ!?」


『デクが渾身の一撃で仕留めました!そしてすぐさまその場に離れます!他の現場に向かったのでしょうか?』

 でっくん、あの爆豪くんから獲物ヴィランを奪うなんて…!(あとが怖いんじゃ…)


「……。おい…今日の緑谷、いつも増して気迫すごくね?」
「オイラたちの活躍奪うなよォォ……!!」


『どこからか現れたヒーローデクの強烈な蹴りに地面に沈むヴィラン!……あれ、彼の姿がどこにも見当たりません!?』
「…………………」


「っデクくん!?」
「緑谷くん!君、今日は誕生日だろ!?ここは俺たちにまかせてたまにはみょうじくんとゆっくり……!!」
「だから…ッ速攻解決する!!終わったらごめんっあとのことは二人にまかせても良いかな……!」
「もちろん!」「当然さ!」
「舐められたモンだ…!!よく見ろヒーロー!こっちには人質が……」

 ――いないっ!??

『目にも見えぬ速さで人質を救出したデク!!』
(神風のごとく……!!)
 
「デラウェア……!」
「っひい!ちょっ待っ…」
「スマッシュ――!――!――!!!」
「ウワアアアァァ!!」



 ――こうして。

 同時多発ヴィラン事件は、ヒーローデク一人によって解決した。

『――いや〜今日のデクの活躍っぷりは凄まじかったですね!まるで、あのNo.1ヒーロー、平和の象徴と呼ばれたオールマイトを彷彿させるような…』

 スタジオのキャスターの言葉をそこまで聞いて、私はテレビのスイッチを切った。

「ただいまー!!」

 でっくんが帰って来たからだ。(本当に1時間以内に帰ってきた!)

「おかえり、でっくん。お疲れさま。活躍すごかったね!」

 笑顔ででっくんを出迎える。
 しかも、彼はヒーロースーツのまま帰ってきた。

「ただいま。――えぇと、それで…なまえちゃん。電話で話してたことは…その、本当にというか…」

 先程テレビで映っていた勇姿と違って。
 でっくんはデレデレ、もじもじ、そわそわしてて……私はおかしくて笑う。


(私だけが知ってるヒーローの姿)


「……本当かどうか、確かめて…みる?」
「!〜〜っ」
「あ、でも〜」

 でっくんに抱きつかれる前に私はテレポートで避ける。スカっと空振りした彼は「おわっ」と前に倒れた。

「まずは着替えて。お腹空いたでしょ?ご馳走いっぱい作ったから、でっくんの誕生日を祝おう!」
 膝をつく彼に手を差し伸ばした。
「今日は最高の誕生日になりそうだよ」

 でっくんは笑いながらその手を掴んで。

「――隙あり」
「っ……」

 そのまま引き寄せられ、ぎゅっと抱き締められたと思えば、唇を塞がれた。

「いつもありがとう、なまえ……」

 おでこがこつんとくっつく。

 至近距離で優しく目を細め、微笑むでっくんに。

 ――生まれてきてくれて。

 出会えて、私を好きになってくれて、好きになって――本当に良かった。
 何度も思う。嬉しくて、溢れてくる。


「お誕生日、おめでとう――でっくん」



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