202X年X月XX日――この日、地方都市で大災害が起きた。
被害の大きさから、ヒーローや救急隊だけでなく。
雄英の仮免所得したばかりの生徒たちも駆り出されていた。
「各々の持ち場は先ほど話した通りだ。指示に従い、迅速に救命に当たれ!」
「お前たちがこの場にいるのは、存分に力を発揮できると判断したからだ。自信をもって行動しろ!」
「「はい!!」」
担任である相澤とブラドキングの言葉に大きく返事をする生徒たち。
彼らは自分にあてられた持ち場へと急いだ。
「チャージズマ!君はトリアージ区分Vの軽傷者をこっちに誘導して!」
「っはい!」
指示通り、軽傷者を誘導していく上鳴。
「大丈夫だよ。お母さんもきっとすぐ見つかるって!」
「本当に……?」
「おう!」
その際、不安そうな子供を持ち前の明るさで励ます。(それぐらいしか、今の俺にはできねえ…!)
「――病院から連絡があって、電力システムが故障したって……!予備の電力じゃ間に合わないわ…っ!」
「入院患者の中には延命装置を付けてる方もいるのに……!!」
近くの病院から駆けつけていた看護師と医師の焦燥する会話が耳に届いて、上鳴はそちらに向かう。
「あのっ…俺!」
「…!」
「電気の"個性"です!!」
「「!」」
――必要最低限の電力で。
電力システムが直るまで、俺の電気で繋ぐんだ……!!
「うしっ……!!」
気合いを入れて。コードを手に取り、"個性"を発動する上鳴。
30分…1時間…2時間……
朦朧として来た意識。
体内の電力が失われていき、限界が近づいてきた。
それに反して顔も緩んでいく。
「ウ…ウェ……」
――っだめだ!だめだ!!アホになるんじゃねえ!!
上鳴は顔をブンブンと横に振って、我に返る。
(今ここで踏ん張らねえで、どこで踏ん張るんだ……!!)
今――自分のこの電気は、たくさんの命を繋いでいる。
何の為に、雄英に入学した。
何の為に、今まで学んできた。
何の為に、仮免を取った。
(全部、ヒーローになるためだろうが……!!)
ヒーローに限界なんてものは存在しない。
彼らはいつだって、その一歩先を乗り越えて行くんだ。
「プルスウルトラーーー!!!」
その言葉と共に――……
「…………んぁ」
次に上鳴が目を覚ますと、簡易テントの中のベッドに寝ていた。
……俺、どうしたんだっけ……。
「……!!」
今まで自分が何をしていたか思い出し「いて…っ」上鳴はベッドから転げ落ちながら、テントから飛び出す。
(俺、まさか……途中で……)
「…上鳴!!起きたんだな!!」
彼に気づいた切島が、笑顔を浮かべてそちらに駆け寄る。
その声に、他の生徒たちも「上鳴!」と彼の元へと続いた。
「あ…あのさ、俺……」
俯く顔は青ざめ、恐る恐る口を開く。
「上鳴、あんたよくやったじゃん!」
笑顔で労う耳郎に、上鳴は「へ」と顔を上げた。
「電力システムは修復して、今は元通り動いてますので安心してください」
八百万。
「お前のおかげで多くの人が助かったんだぜ!」
瀬呂。
「うん!上鳴くんの"個性"がたくさんの患者さんの命を繋いだんだ!」
出久。
「頑張ったじゃーん上鳴!!」
芦戸。
「あんなに数時間もすごいな!」
尾白。
「よくやりきったな」
障子。
「腹減っただろ?スイーツ食うか?」
砂藤。
「もしかしたらハーレムが待ってんかも知れねえぜ〜」
峰田。
上鳴は彼らの言葉をぽかーんと聞いたあと、腰が抜けたように地べたに座り込む。
そして、そのまま地面に仰向けになった。
「上鳴くん!?」
「上鳴ちゃん、大丈夫?」
驚くお茶子に、心配そうに梅雨が声をかける。
「はは……良かった。俺、てっきり途中で意識飛ばしたんだと思ったからさ」
上鳴は笑ったが、その声は湿ったものだった。
「……安心してくれ。君は最後までやりとげた。立派だ」
「そうそう。最後はアホになったみたいだけど、電力だけは送ってたって駆けつけた電気"個性"のヒーローが言ってたよ」
飯田に続いて耳郎が言う。
上鳴は、目を腕で隠しながら。
「俺……怖かったんだ。自分の"個性"に、たくさんの人たちの命がかかってるんだって」
抱えきれず。本音を溢した上鳴に、皆は優しく微笑む。
「それでも、逃げずに君は立ち向かったんでしょ。……お疲れさま、上鳴くん」
腕をずらし、見ると。
しゃがんだなまえの、にっと眩しい笑顔が目に飛び込む。
――彼女だけじゃない。
「上鳴くん、お疲れさま…!」
「男だぜ!」
「今日のきらめきは君に譲るよ☆」
口田も切島も青山も――みんな、自分に向けて、労いの言葉と共に笑顔を向けている。
「上鳴、泣いちゃってる?」
「な、泣いてねえ!これはアレだっ…ただの水だ!」
葉隠の言葉に、腕でゴシゴシと乱暴に目をこする上鳴。
「勲章の涙ってやつだな」
本人の言い分を無視する常闇に、
「上鳴、泣いちゃっタ。カワイソウ?」
おちゃらけたように言うダークシャドウ。
「泣いてねーって!!」
起き上がり抗議する上鳴。
多くの人々の活躍によって、希望が見えてきたこの場に、ドッと明るい笑い声が起きた。