恋祭り

「おー!!切島じゃねえか!?」
「お前も来てたのか鉄哲!?」


 ――夏祭り。
 クラスの数名で遊びに来ていたら、ばったり会ったのはB組の面々。

 俺ら私服なのにこいつら浴衣でばっちりだなあ……そう眺めていると、後ろの方で控え目に立つ女子の姿が目に入った。

 名前はみょうじなまえ。

 何故、すぐに名前が出て来たのかは少し気になっていたから。

 大人しそうで清楚な見た目。
 控え目でおっとりした性格。

 うちのクラスにはいないタイプの女子だ。
 それだけで単純ながら男は気になるというもの。
 そして、浴衣姿がめちゃくちゃドストライクだった。

「なあ、この二人も意気投合してるし、一緒に回らね?」

 だから、そう提案してみた。
 A組とB組の合同授業なんてないし、交流が少ないなか、これは仲良くなるチャンスだ。

「なんで僕らがわざわざ君たちA組と一緒に行動しなきゃならないんだ」

 さっそく立ち塞がる壁。

 物間というヤンデ男。何故こうもうちのA組を敵視してるかサッパリわかんねえんだよなー……

「別にいいじゃん。人数多い方が楽しいしさ」
「ん」
「勝手なこと言うなよ、拳藤!」
「んじゃあ決定ってことで。行こうぜ」
「あっ!おい、僕はまだ一言もいいとは……!!」

 押しきる形で一緒に行動する。
 物間はぶつさく言ってたみたいだが、やがて諦めたようだ。

「A組!射的で勝負だ!」

 いや、代わりに違う方向へ意識がいっている。

 無論、それは放っておいて。

「…たこ焼き食いてえの?」
「あ……瀬呂くん……だっけ?」
「そう、瀬呂範太」
「私の名前は……」
「みょうじなまえだろ?知ってる」
「うん」

 名前知ってたんだなとか、その口から名前を呼ばれただけで、不覚にも心が浮き上がってしまった。

「屋台って食べたいものがいっぱいあるから、考えて食べないとすぐお腹いっぱいになっちゃうなって」

 どうしようかなぁって迷うみょうじに、俺が言う事は一つだ。

「じゃあ、半分こしね?」

 その提案に、みょうじは一瞬驚いたような顔をしてからすぐに微笑む。

「半分こ、いいね。したい」

 お互いお金を半分出しあって、一つのたこ焼きを交互に食べ合う。

「たこ焼き、おいしいね」
「ああ、うめえ」

 ……すでにちょっと良い感じな雰囲気?

「お――定番の金魚掬いやヨーヨー釣りもあるぜ」

 夏の遊戯に、そういやぁスーパーボール掬いが好きだったなぁと思いだす。
 じゃあ……と、二人でヨーヨー釣りをすることになった。

「何色狙い?」
「んー……赤い色かな」
「赤……って言ってもどれがどれかわかんねえなぁ」

 ここは取ってあげてえと思ったけど、プールに密集して浮かぶ水ヨーヨーにどれがどのゴムに繋がっているのか分からず。
 まあ、それがヨーヨー釣りの醍醐味だけど。

「あっオレンジ!」
「俺は……ピンクかよ!」

 釣り上げたヨーヨーに、お互い顔を見合わせ自然と交換することになった。
 指にかけ、ポンポンとヨーヨーを手のひらで突くみょうじは、大人っぽい見た目とは裏腹に子供っぽい仕草。
 これぞ、ギャップ萌えだ。良い。

「次は何か食うか?」

 ごく自然に二人っきりになって並んで歩きながら。
 まあ、ずっとそういう風に仕向けてたんだけど……。
 
「チョコバナナ食べたいな。夏祭りって感じしない?」
「あー確かに」

 みょうじは無邪気に指差し、下駄を鳴らしながらそちらに向かう。
 じゃあ、俺も買うかな…と言うと「待って」と何故か制止された。

「ジャンケンで買ったら瀬呂くんにあげるね」

 手をグーにして笑顔と共に。
 なんだそれ、きゅんときた。
 屋台のおっちゃんとジャンケンに挑むみょうじ。

「最初はグーでいくぞ、お嬢ちゃん!」
「はい!」
「「最初はグー。ジャンケンポン!」」
「……………………負けちゃった」

 チョキを出してしょんぼりとしている。
 ごめんねと謝ることはないのに、申し訳なさそうな姿に思わず溢れた笑み。

「じゃあ次は彼氏が挑戦するかい?」
「かっ彼氏!?」
「んじゃおっちゃん勝負だぜ」

 慌てるみょうじを遮るように、今度は俺がジャンケン勝負だ。

「「最初はグー!ジャンケンポン!」」
「よっしゃーー!!」

 出したグーのままガッツポーズ。

「やるじゃねえか!彼女に良いところ見せたな!」

 チョコバナナ二本ゲット!

「すごい!瀬呂くんっ」
「はははっでもどうすっかな。みょうじ、もう一本食う?」
「さ、さすがに二本は……」
「だよな〜」

 苦笑いを浮かべていると、横からチョコバナナを掠め取られる。

「じゃあもう一本は僕がもらおうかな」

 ――物間だった。

「ていうか君。いつからなまえの彼氏になったんだい?」
(こいつ、下の名前呼び捨てかよ……!)
「うちのクラスの女子に勝手に手を出さないでくれるかな?」
「も、物間くんっ……」

 それは、おじさんが勘違いして……と誤解を解こうとするみょうじ。

 確かに、俺はみょうじの彼氏じゃないけど――「今は」とも思うわけで。

「…好きになっちまったもんを、手を出すなって言われても無理だろ」
「は……」
「え……」

 シンプルな感情。そう自覚してしまえば、自覚する前には戻れない。
 唖然とする物間をよそに、隣で驚く"なまえ"に話しかける。

「まずは……LINE交換しません?」

 真っ赤な顔で、少し間を置いてからこくりと彼女は頷いた。
 邪魔する物間を払いのけながら、なんとか交換した連絡先。


 恋は夏祭りから生まれた。



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