「お、テレポートガールいたいた〜」
プリンのフタを開けようとした手が止まった。
食堂で食後のデザートを食べようという時に、ちょうど声をかけて来たのはプレゼント・マイク先生だ。
「私?何かあったんですか?」
「昼休憩中に悪いんだが、テレポートガールにヘルプ案件だぜ」
ヘルプ案件――?詳しく話を聞くと、どうやらどこからか忍び込んだ猫が、隙間から出てこなくて先生たちが困っているらしい。
「鳴き声はするから、イレイザーが懸命に煮干しをちらつかせたりしてんだが、出てこねえんだよ〜」
「うーん…それは私でも無理かも知れませんね」
私の"個性"は基本、視界に入ってないと転移できない。少しでもその猫の姿が見えたら出来るけど……。
「でも、代わりに適材適所の"個性"の持ち主がいますよ!」
「おっ誰だ?」
「口田くんです」
口田くんの"個性"、生き物ボイスなら、猫が自分から出てくるように呼び掛けられるはず。
「う、うん……声が届けば……」
「アニマルボーイの顔を見たらあの日の虫に襲われた記憶が…!」鳥肌カムバック!
「……トラウマになったんですね、マイク先生」
あ、口田くんは気にしなくて大丈夫だと思うよ――オロオロしている彼に言う。
あれも戦略の一つだ。最強の。
トラウマを思い出してるマイク先生には私のプリンをあげて、口田くんと二人でその場所に向かった。
「……相澤先生、本当に煮干しちらつかせてる」
「…相澤先生、猫が好きらしいよ…」
意外……でもないか。
犬派か猫派かだったら先生は絶対後者だ。
「なんだマイクはお前らを呼びに行ったのか。……んであいつは?」
相澤先生にワケを話すと、呆れた顔をし「口田、気にせんでいいからな」と、私と同じようなことを言った。
「それを狙って試験所を森にしたからな」
そしてにやりと笑った先生。マイク先生に何か恨みでも……。
「迷い込んでしまった者よ、こちらに出てきなさい――」
口田くんが"個性"を使って呼び掛けると、隙間からすぐに小さな黒猫が出てきた。
相澤先生が持っていた煮干しを食べる子猫は元気そうで、よかったねと口田くんと顔を見合わせる。
……――ネットニュースを見ていたら、そんな在学中のことを思い出した。
ニュースの見出しは「ふれあいヒーロー、アニマ!被災地で行方不明になったペットたちを救う!」
写真は口田くんが呼び掛けて、飼い主さんと離ればなれになったペットたちを集めている姿だ。
『救助は人命優先というけど、ペットだって家族の一員だから、こんなヒーローもいてもいいと思うんだ……』
そういつだったか話してくれた口田くんの言葉も思い出す。
いてもいいではなく、きっと誰もが待っていたヒーロー。
写真の飼い主さんは、ペットと再会できてとても嬉しそうな笑顔を浮かべている。
有事の際の動物たちの誘導もお手のもの。
先月は絶滅危惧種の密輸敵を捕まえたり、動物関係のことならヒーローアニマの右に出るものなし!
「私も頑張らなきゃ」
活躍している口田くんの姿を見て。
口田くんだけじゃなくて、みんな個性豊かなヒーローとして活躍している。
スマホを閉まって、パトロールと町に出た。