放課後勝負


 雄英近くにあるゲームセンターにて。

「あ」「あ?」

 ちょっと遊んで帰ろうかなと立ち寄ると、そこで見知った悪人顔に出会した。

「お疲れ〜、爆豪くん」
「んでてめェがここにいんだ」
「爆豪くんはゲーセンにいるとただのヤンキーにしか見えないね」
「うっせ!目障りだからさっさと帰れや!!」
「まあまあ。せっかく会ったんだし、一緒に太鼓の達人でもやろうドン!」
「やるか!!」ムカつく語尾付けんなや!

 ノリ悪いなぁ。爆豪くんもここにいるって事は遊びに来たんだろうに。

「じゃあこれで勝負しようよ」
「…勝負?」

 その言葉に反応した爆豪くんが私が指差す方を見る。
 そこにあるのはエアホッケー。

「私、エアホッケーは得意なんだぁ」
 体力使わないし。
「負けた方が何か奢るってのはどう?」

 不敵に笑って言うと、爆豪くんはにやりと笑ってから「はっ、いいぜ」と食いついた。


 お互い100円を投入し、いざ勝負!!


「さっきの自信は口だけかよ!」

 素早く返された円盤がストレートにゴールに打ち込まれた。さすが、爆豪くん。化け物じみた反射神経がここでも生かされている。

「1点先に取っただけで、勝った気にならないでくれる?」

 私だって負けない。わざと壁に当てて、打ちやすい位置を誘ってからの――カウンター狙い!

「ちっ」
「言ったでしょ、自信があるって」
「その自信、今にへし折ってやる」

 白熱した真剣勝負。

 エアホッケーはディフェンスも大事だけど、いかに相手の反射神経を上回るスマッシュを打てるかだ。
 要は攻撃は最大の防御!

「すっげー!」
「どっちも負けねえ!」

 いつの間にかちびっこたちのギャラリーが増えて来た頃、勝負が決まるマッチポイントに差し掛かった――……「あれ、でっくん?」「アァア!?」「あ、人違いだった」

 ――カラン。

「あら」「んな!?」

 その時、呆気なく円盤はゴールに入った。爆豪くんの方の。

「やったー!勝ったー!」
「っ!てめっ汚ねえだろッ!?」
「さすがに今のは狙ってないよ〜だってほらあの人、本当にちらっと見えてでっくんに似てたから」
「髪型だけだろ!!クソデクはもっとナードが服着て歩いてンような、あのワカメみてェなクソ髪に苛つかつかせるオーラを……」
「…何言ってるの?」

 君から見たでっくんがわけワカメだよ。

「まあ、勝ちは勝ち、負けは負けだよねぇ」「クソが!!」

 約束通り。やって来たのはスタバ。
 気になっていた新味のフラペーチのをおごってもらう。

「よくんな甘ったるいモン飲めんな…」
 爆豪くんがチョイスしたのはアイスコーヒー。
「爆豪くんは甘いの苦手?辛党だもんね」

 ちょうど空いてた隅の席に向い合わせで座る。雄英近くのカフェだからか、ちょいちょい同じ制服を見かけた。
 ヒーロー科以外は、放課後カフェで談話と普通の高校生と変わらないのかも知れない。

 ……………………。

(会話がないなぁ……)
 続く無言。思えば、今まで爆豪くんと普通の会話をした事なんてないかも。

「爆豪くんがヒーロー志望した動機は?」
「あ?面接官かよ」
 確かに。
「……昔から俺が、トップヒーローになるって決めてんだよ」

 つっこんだまま終わるかと思ったら、意外にも爆豪くんは話してくれた。

「んで高額納税者ランキングに名を刻む」
「……。それは実に素敵な夢ですね」
「心にも思ってねえこと白々しく言うのヤメロ!」

 現実的。ある意味夢があるようなないような……。

「爆豪くんって昔から野心家なんだねぇ」
「そういうてめェはどうなんだよ」
「私は――世界一の名探偵にヒーローを目指すと良いって言われたから」

 笑って言うと、爆豪くんは「主体性がねえのかよ」と、もっともな事を口にして呆れた。

「そう思われるのは心外だなぁ」
「だったら本当の理由を話せ」
「それも理由の一つだよ〜」


 ――飲み終わってカフェを出て。

 私は港、爆豪くんは駅までの短い距離を並んで歩く。

「次はゾンビ打つゲームで勝負する?」
「んでまたてめェの相手しなきゃなんねえんだよ」
「また負けたら爆豪くんのプライドへし折れちゃうもんねぇ」
「上等だゴラァ!!完膚なきまでに負かしたるわ!!」

(爆豪くん。君、案外ちょろいよね……)

 放課後の勝負は続くらしい。

 私がそう仕向けたのは、負けず嫌いの爆豪くんをまた負かしたいから――というのは、理由の"一つ"だったりする。


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