それは雄英近くのゲームセンターにて。
(わぁ!この大きなうさぎのぬいぐるみ!すごく可愛い!鏡花ちゃんにプレゼントしたら喜ぶだろうな〜!)
よーし――……
「我こそは〜!UFOキャッチャーが得意という人がいたら、今日の放課後、私に付き合って!」
「「……?」」
帰り支度をしていた生徒たちの視線は、その妙な発言をしたなまえに一斉に集まる。
「えっなになにUFOキャッチャー?」
「また唐突だなぁ」
「俺、得意だぜ!」
芦戸と瀬呂の言葉の後に、手を上げ自己申告したのは上鳴だ。
「取りたいぬいぐるみがあるんだけど、昨日全然取れなくて…」
「OK!まかせとけ!」
喜ぶなまえに、これは放課後ゲーセンデートか!?と喜ぶ上鳴だった――が。
「みんなでプリクラ撮ろうよー!」
「私、プリクラを撮るのは初めてですわ…!」
「太鼓の達人やろうぜ!」
「ここはレトロゲーで勝負だろ!」
「オールマイトガチャ!あと一種類出たらコンプリートなんだけど……」
「!5種類は集めたのか…すごいな、緑谷くん」
「ああ、一体どんだけ回したんだろうな」
「最近のガチャって三百円なん!?特売のお餅買えるやん……」
「いやいやいや〜………なんでお前らもいんだよ!?」
てっきり二人でデートだと思っていた上鳴は落ち込んだ。
「上鳴くん!これこれ〜!」
そんな様子を気にも止めずなまえはマイペースにお目当てのUFOキャッチャーに向かうと指差す。
「へぇ〜うさぎのぬいぐるみかぁ。うさぎ好きなん?」
「うさぎ大好きな子がいて、可愛いぬいぐるみだし、プレゼントしたいんだー」
本当は自分で取って驚かせたかったが、うさぎの特徴的な長い耳とバランスが難しくて叶わなかったため、こうして助っ人を募集したというわけである。
「よしっその子のためにもバシッと取るぜ!」
「上鳴くんが頼もしい…!」
彼女の言葉に、へへっと上鳴は気を良くする。
――俺の好感度、急上昇中じゃね?
「まずは店員さんに取りたいぬいぐるみを言えば、取りやすい場所に置いてくれるんだ」
「へ〜そうなんだ!知らなかったなぁ。…あ、すみませーん」
早速、なまえは近くを通りかかった店員を呼び止める。
「このぬいぐるみ、取りたいんですけど……」
「っ!もちろんです!どの子がいいですか!?」
「あ、じゃあ右のその子で…」
「じゃあここに置くので、この位置にクレーンを持ってきて〜〜」
「ふんふん」
…………………………んん?
隣の上鳴など存在しないという風に、なまえに取り方をウキウキとレクチャーする店員。
――つーか。
(ほぼぬいぐるみ落ちかけてるじゃねーか!!)
猿でも取れんわ!!と上鳴が心の中でつっこんでいると、店員に促されるまま彼女はお金を投入し、ちょっとクレーンを動かしただけで――ポトリ。
「取れたぁ!!」
「やりましたね!」
花の咲いたような笑顔で喜ぶなまえにデレデレする店員。
当初の思い描いていた展開を、第三者として、上鳴は今見ている。
「上鳴…出番なかったネ」
「仕方ねえ…あいつは自他ともに認める見た目だ」
アホ面で固まる上鳴に、左右から芦戸と瀬呂が憐れみの目と共に声をかけた。
「ありがとう上鳴くん!おかげさまでゲットできた!」
「あ、ウン…」
――俺、マジで何もしてないけど。
(チクショウ……!!)
恨めしげな上鳴の視線から逃れるように元凶の店員は「あ、あの作業しなくちゃ〜」とわざとらしく呟き、そそくさと退散していった。
「――焦凍くん、どうかしたの?」
その後はゲームをして遊び、最後に皆で撮ったプリクラ。
轟はそれとなまえを見比べていた。
「顔が違う……」
「あはは、プリクラだとみんなこんな風に写るからね」
「元の方がいいな……」
「これはこれで盛れてて可愛いんだよ〜」
その言葉に、じっとなまえを見つめる轟。
「?焦凍くん?」
首を傾げる彼女に、轟が真面目に言った言葉は。
「こっちより、実物のおまえの方が断然可愛いだろ」
「……!!」