直球少年は恋に悩む


 雄英に入学して、ヒーローをただ真っ直ぐ目指せば良いと思っていた。

 そんな日々に、まさか自分に好きな子ができてしまうとは思わなかった。

 明るくて、優しくて――そんな子は他にもいるけど、一緒にいるだけで楽しいんだ。

 良いなぁという曖昧な思いが、いつしか「好きだ」に自覚していた。

 それなら、まだいい。
 それなら、まだ良かったと思う。


『俺、お前のことが好きだ――』


「うおおおおお!!!」
「ちょっと、鋭児郎!雄叫び上げてうるさいわよ!!」


(なんで俺、あの時、みょうじに告白しちまったんだ!?)

 いくら男は直球勝負とはいえ、唐突過ぎた。
 枕に何度も顔をボフンボフン押し付ける。
 恥ずかしさで死ぬ。

 会話の流れだって、たまたまそういう恋バナっぽくなって――……

『じゃあさ、みょうじは好きなタイプとかあんの?へぇー……なるほどな、そういうタイプが……。え、俺?俺は……』


 俺、お前のことが好きだ――


「そこで告白って、意味不明過ぎんだろ……!!」

 だって仕方ねえ。好きなタイプは、好きになったあいつなんだから。(そんな言い訳言えるわけねえし、言ったところで意味ねえし……)

「みょうじ……驚いてたな……」

 目を見開いて、一瞬固まっているように見えた。

 そりゃあそうか。たぶん、友達だと思ってたヤツからいきなり告白されたんだから。

 しかも……。

『へっ、返事は大丈夫だ!!俺、気持ち伝えたかっただけだから!――じゃあ、また明日な!』

「逃げちまった……」

 あいつの戸惑う姿を見て、そう口走ってた。

(男らしくねえ……)

 俺、中学の頃から変わってねえなあ……。

(つーか、明日どうすんだ!?どんな顔で会えばいいんだ!?)

 何事もないように振る舞えばいいのか?いや、まず俺にそんな器用なことできるかって話だ。

 絶対、意識しちまう。
 むしろ、明日、みょうじがどんな顔しているのか。

(怖え………)

 ……いや、だめだ。切島鋭児郎――そんな弱気になるんじゃねえ!!


「母ちゃん、ちょっと走ってくんわ」
「今から!?」

 俺は変わるって決めたから。
 それは、ヒーローになるって決めたように。

 好きなヤツに対しても、そうありたいんだ――。



 翌日。教室に入る前に、ドアの前で心を落ち着かせる。
 俺よりきっと先に登校しているので、顔を合わせたらちゃんと朝の挨拶をする為だ。

(普段通り「おはよう!」って言うだけだ。普段通り……)

「おーす!切島!」
「うぉ!?」

 いきなり肩を叩かれて、驚いて声を上げた。振り返ると、

「なんだ、瀬呂か……」
「おいおい、お前の驚きに俺は驚いたぞ」

 何してたんだ?と不思議がる瀬呂に、適当に誤魔化しながら教室に入る。

(あ……)

 すぐにその姿を見つけて、目が合った。(は、早くあいさつしねえと…!)

「おっ…はよ」
「お、おはよう、切島!」

 照れ臭そうにはにかみながら返してくれた。(やべ……っすげえ可愛い…!)

 なんだこの感じ。
 初めて見たような表情に朝からドキドキしてしまう。
 浮き立つ足で自分の席に向かい、イスに座った。

「……切島?なんかいつもと違くね?」
「違くねえ。いつもの俺だッ」

 前の席から振り返った上鳴に、そう答える。
 いや、いつもの俺じゃないかも知れない。
 今、決意を固めたからだ。

 もう一度、告白しようと――。

 今度はちゃんと「俺とつき合ってくれ」って言うんだ。

 みょうじのもっと色んな表情が見たいし、俺以外に見せるのはやっぱ嫌だと思ったから。(でも……)

 もし、フラれたら……――

「その時はその時だよな、上鳴」
「え?何?つーか、マジでどうした切島」



 数時間後の俺――健闘を祈る!!


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