7月23日──この日、私たちは召集をかけられた。
「あの、太宰さん。僕、今日はせっかくの非番なんですけど… …」
「僕はパトロール中であったが、太宰さんのご要望なら如何なる時も馳せ参じる所存」
「ていうか、なんで私たち集められたんですか?」
理由は聞かされずに。太宰さんは集まった三人の弟子たちを見ながら一言。
「鰻が食べたい」
……と。
「「………………」」
しばしの沈黙が訪れた後、最初に口を開いたのは敦くんだった。
「あぁ……今日は土用の丑の日でしたっけ。スーパーにたくさん売ってるのでは?」
ごく普通な事をにこやかに言った彼に、うんうんと私も頷く。
「私は新鮮で活きの良い鰻を食べたいのだよ。ずばり──これさ」
太宰さんが見せたのはスマホ画面だ。
そこには『盗まれた国産鰻!鰻男の手によって横浜の海に1000匹の鰻が放たれる!!』というニュースの見出しが映し出されていた。
……。え、フェイクニュースとかじゃなくて?
「フフフ、正真正銘の鰻ニュースだよ」
正真正銘の鰻ニュースらしい。
まずは、鰻男。彼は"個性"が《鰻》で、同胞(?)を解放しよう(?)と、今回の事件を起こしたという。
「……。阿呆の極みだな」
「暑くなると変な人増えるもんな……」
呆れた目をしながら二人は言った。
「君たち、注目するのはそこじゃあないよ。横浜の海に、国産鰻1000匹が放たれた!」
「「………………」」
太宰さんが言いたいことは察しがついたけど、念のため聞いてみる。
「太宰さん、まさかと思うんですが……その鰻を私たちに捕まえて来いと」
「さすがなまえ!話が早くて助かるね」
えーーー……
「見たまえ、今日の横浜の海を!あちらこちらに釣り人が集結している!」
「鰻たちはもう大海原に旅立ってますよ〜」
「そもそも鰻は海で生息できるものなのか……?」
「まあすぐ近くに鶴見川もあるし……」
「ちなみに安吾の好物は鰻だよ」
「やりましょう!太宰さん!今夜は鰻重ですっ!」
「私の時とやる気があからさまに違いすぎないかい?」
寝る間も惜しんで働いている安吾さんに、新鮮な鰻を食べてほしい!
私のやる気も出て、鰻を捕まえる方向になったけど……
「私たちも釣りする?」
「う〜ん、釣れてる様子がないみたいだけど……」
「今こそ稀なる人虎の出番ではないか」
「……はあ?」
「よく木彫りの置物であろう。虎が鰻のようなものを狩りをしている……」
「「?」」
……あ、北海道のお土産でよく見るやつ?
「あれは熊だし、鮭だし、川だしで何一つ合ってないぞ!」
「似たようなものだろう」
「全然違うッ!」
「……」
まあ、こんなまとまらない感じで釣りをしたり、泳いで(敦くんが)探したりしたけど、結局鰻は捕まえられず。(たぶんもうどこかに泳いでいったんだと思う)
「太宰さん。僕が奢ります」
「じゃあ橘堂の鰻重(松)がいい」
「「(老舗高級店……!)」」
しかも、松!!
「……人虎、行くぞ。折半だ」
「はあ!?」
「いやぁ、良い弟子を持って私は果報者だね」
「もう太宰さん、ウナギパイでいいじゃないですか」
***
「ただいま〜」
「おかえりなさい、なまえ。今日の晩御飯はお取り寄せしていた鰻が届きましたので、そちらにしましょう」
「……!」
安吾さんが見せてくれたのは、四万十川産という高級そうな鰻。
「土用の丑の日だね!」
「土用の丑の日です」
鰻は捕まえられなかったけど、我が家には立派な鰻がいた。