思えば、尾白くんとの出会いは入試の実技試験の時だ。
「危ない──!」
混戦状況だった状態に、私の死角から飛んできた仮想敵の残骸を、その大きな尻尾で跳ね返して助けてくれた男の子が尾白くんだった。
「あ…ありがとう」
突然の事にびっくりして、ぎこちないお礼しかできなかったけど、彼は微笑んで「怪我しなくて良かったよ」と、穏やかに答えてくれた。
じゃ……とすぐに去って行ってしまうその後ろ姿と、尻尾のフサフサを見送る。
いい人だったなぁとぼけーと思っていると、プレゼント・マイクの『終了〜〜〜!!!!』という大声が響き渡り……
この時、絶対自分は落ちたと思った。
ぎりぎりでも合格を果たし、雄英に入学出来たのは奇跡に近い。
「あ、あの……!」
「!君は入試試験の時の……」
尾白くんと再会し、同じクラスになった時は嬉しかったな。
雄英に合格したとはいえ、凡人に近い私にとって、顔見知りがいるだけで心強かった。
他のクラスメイトの人たちも思ったより話しかけやすい人たちばかりで……(あ、爆豪くんは除いて……)
楽しいスクールライフを送れるかもと浮かれていた私は、やっぱり頭も凡人であった。
試練、試練の連続の日々。
雄英名物のプルスウルトラ精神だ。
「みょうじ。お前、今んとこ最下位だぞ」
「相澤先生、プレッシャーかけないでくださいっ自分でよく分かってますので……!」
入学式はなく、突然の"個性"使用の体力テスト。
始まったヒーロー基礎学に、USJ敵襲撃事件。心休まる前に体育祭、職場体験……。
私はみんなのように優れた"個性"を持ってないし、学力も身体能力もそこそこだ。
でも、夢であるヒーローになるため、諦めたくないし、努力だけはしたいと思っている。
(というか、努力しか出来ないんだけど……)
「──……さん」
(うぅん、私もお茶子ちゃんみたいに基本的に戦闘能力を鍛えた方が……)
「……みょうじさん?」
「わっ、尾白くん!?」
話しかけられてたのにまったく気づかず驚く私に、尾白くんは驚きながらも、ふっと頬を緩ませ、小さく笑った。
「自主練お疲れ。考えごと?」
「尾白くんもお疲れさま。うん、自分の戦闘スタイルの方向性というか……」
俺で良かったら相談にのるよ、と言う尾白くんの言葉に甘えて、今考えている事を話した。
「なるほどね……格闘術か」
「お茶子ちゃんが職場体験でガンヘッドの所に行って、成長した姿にすごいなって思って……」
「確かに敵と戦う際とか、体の動かし方を知ってた方が上手く立ち回れると思う」
武闘派の尾白くんが言うと説得力がある。
"個性"だけでなく、今後は格闘も鍛える事を課題にしよう。
「良かったら俺が指南しようか?……あ、いや、指南っていうほどの実力者でもないけど」
尾白くんは謙虚にそう言うけど、とんでもない!
「むしろ良いの?尾白くん、自分もいつも自主練してるのに……」
「もちろん!人に教えるのも勉強になるしさ」
さっそく明日から、尾白くんに稽古をつけてもらう事になった。
──期末試験も目前に迫り。
基礎中の基礎から始まり、今では尾白くんと手合わせできるようにまでになった。
これも尾白くんの丁寧な指導のおかげである。
「ねえ、尾白くん。今日は尾白くんのいつもの動きで手合わせしたいんだ」
いつもは尾白くんが私のレベルに合わせてくれているから、普段の尾白くんと戦ってみたい。
つまりは、その尻尾も使った彼にしか出来ない動きと。
「……分かった。みょうじさんも最初の頃よりずっと体術が身に付いたと思うし、良い勝負が出来そうだ」
尾白くんは笑顔で頷いてくれた。今の私が、どれぐらい戦えるか試してみたい。
「じゃあ、行くよ!」
「はい!」
──そして。私は凡人どころかアホだったようで。
「よりによって、リカバリーガールが出張中だなんてな……。本当にごめん、俺がもっと注意をしていれば……!!」
「尾白くんのせいじゃないよ!私がどんくさかっただけで……!」
事実。手合わせ中に無理に避けようとして、勝手に怪我をしたのだから。
「みょうじさん、せめて怪我の手当てをさせてくれ」
擦りむいて血は出てるけど、怪我は大したことはない。
「ごめん、ちょっと沁みるかも……」
「大丈夫!」
それでも尾白くんは丁寧に消毒をしてくれて、ガーゼを貼ってくれた。
「顔の傷は……」
「かすっただけだし、気にしなくて大丈夫だよ。ヒーロー基礎学とか自主練でも怪我は付きものだし」
「気にするよ!結果的に怪我をさせたのは俺なんだ。よりによって女の子の顔に……!」
いつも穏やかな尾白くんの強い反論に、私は驚いた。彼は真剣な顔で続けて言う。
「責任を取らせてくれ」
せ、責任……!?尾白くんが真面目なのは知っているけど。
でも、それは、古風な意味を持つ方だと、次の彼の言葉で知る事となる。
「俺は、みょうじさんのことを……大事に思ってるんだ」
いつになく真剣な顔立ちで、ほんのり頬が赤い尾白くんの顔がそこにあった。