冬になると星が見たくなる。
きっと空気が澄んで、星空が一番綺麗に見える時期だからだ。
「焦凍くん、寝ちゃいそうじゃない?」
「さすがに寝ないだろ」
わざわざ地方まで星を見に行く暇もないので、手軽に星を見られる都内のプラネタリウムにやってきた。
初めてだという焦凍くんも一緒に。
「映画みたいな椅子だと思ったら、リクライニングなのか」
「天井を見上げる感じになるからね」
見やすそうな席に隣同士に座る。
「……寝れそうだ」
不意に、薄暗いドームの中で焦凍くんはぽつりと言った。
それにほらぁと私は小さく笑う。
「寝てても終わったら起こしてあげるよ」
心地よい音楽も流れるし、きっと仮眠を取る為の贅沢な利用法をする人も中にはいるんじゃないかな。
「いや、起きてる。むしろ途中で寝てたら起こしてくれ」
焦凍くんの言葉に私は再び笑って「分かった」と答えた。
照明が落とされ、音楽が流れる。
ドーム状の天井に映し出される星たち。
落ち着いたナレーションで案内するのは、この季節に見える星座だ。
途中、焦凍くんが「あ」と隣の私に聞こえるぐらいの声で、何かに気づいたように呟いた。不思議に思いながらも、そのままプラネタリウムを見上げる。
「――ねえ、焦凍くん。途中なんか声を上げなかった?」
上映が終わり、どこかでご飯を食べようと街中を歩きながら聞いた。
先程の星たちの瞬くような光りとは違い、街はイルミネーションでキラキラと輝いている。
もうすぐクリスマスだ。
(今年は……焦凍くんと初めて二人で過ごすクリスマスになるかな)
「星座を見ていたらなまえのほくろに似てるなって思って…」
「え?」
ほくろ?突拍子のない言葉が飛び出して来て、隣の焦凍くんを驚き見上げる。
「どういうこと?」
「背中。"ここ"と"ここ"と"ここ"に、ほくろがあるから繋げたら星座みてえだなって……」
ご丁寧に指でなぞって教えてくれる焦凍くんに、こんな所に私ほくろがあるんだなぁって冷静に思う反面。
恥ずかしさで顔が熱くなる。
「首筋にあるのは知ってたんだが、俺もこの間、なまえの背中見て気づ」「焦凍くん、もう分かったから!!」
街中でなんてことを……!
反射的に思い出すあれやこれ。
慌てる私とは対照的に焦凍くんは涼しげな顔だ。(この天然王子め!)
「…顔、赤いな」
くすりと私の顔を覗き込んで笑う。
これが確信犯なら怖いところだけど、彼は素だ。(困ったことに)
「誰かさんのせいだからぁ」
私は照れ隠しに立ち止まっていた足を進める。
「指先も赤くなってる」
「…手袋、忘れちゃった」
嘘。それも照れ隠し。
焦凍くんと会う寒い日は手袋をつけて来ない。
何故なら、彼がこうして、左手で包んで暖めてくれるから。
「…ズードリームランドのイルミネーション綺麗なんだって」
「懐かしいな。見に行くか」
冬は寒くて嫌いだったけど、これからはきっと好きになる。