22歳組による忘年会

 とある居酒屋に某人気ヒーローが入店した。
 頬を赤らめた女性スタッフに案内された個室には、既にメンバーが集まっている。

「お疲れさ――」

 左手を上げ、へらりと笑って言いかけた彼は、そのままその笑顔を顔に張り付けた。

「相変わらずテメェは図体だけデケェ馬鹿だな。たけのこに決まってんだろ、たけのこに」
「中也こそ帽子に吸い取られて脳みそからっぽなんじゃないの。里より山の方が強いのだよ。よってきのこの勝利」
「なんで里より山の方が強いんだよ!たけのこはなァ、雨後の筍を始め、諺がたくさんあンだよ。きのこと違ってな!」
「はあ?きのこにだって、諺はありますー。『きのこだと名乗った以上はかごに入れ』ってね!」
「適当なこと言ってんじゃねーよッ!」
「中也が世間知らずなだけでしょ。ロシアの諺だよ。ロシア人に聞いてみたまえ」
「ロシア人の知り合いなんていねーよ」
「……………………」

 たぶん、二人はお菓子のたけのこときのこの話をしているのだろう。酒もまだ飲んでいないのに、どう言った経緯でその議論になったのかは謎である。

 しかも、なんだそのマウントは。
 
「あ、すみません。個室違ったみたいです」

 彼――ヒーロー名ホークスこと、鷹見啓悟は営業用の笑顔を浮かべて、早々に立ち去ろうとした。「待て、鷹見!逃げるんじゃない!」

 それを必死に引き留めたのは国木田だった。

「この状況を俺一人ではどうにもできん……。太宰と飲み会というだけで既に胃が痛い。今日はウコンではなく胃薬を飲んで来たというのに……」
「苦労しとるね、国木田くん」

 顔をげっそりさせながら国木田は話す。ならば飲み会に参加しなければいいという話だが、そうもいかないわけで。

 何故なら今日は、"同い年組の飲み会"だから。

「やあ、鷹見くん。お疲れさま。君もきのこ派だろう?」
「たけのこ派だって言ってやれ、鷹見」
「あ、俺はちょこあんぱん派なんで」

 ちょこあんぱんという単語に二人がはた、と無言になった。
 最近、急速に大きくなっている派閥だ。新人テレポートヒーローをきっかけに。

「……ちょこあんぱん派じゃあ仕方ないねえ」
「ああ、ちょこあんぱん派なら、な」

 二人はすんなり納得した。何をきっかけにそんな話になったのか、気になりはするが特に聞くほどの事でもない。

「鷹見も合流したし、まずは注文を……」
「ごめんごめん、遅れちゃった」
「「……?」」

 その場にもう一人、現れたのは……

「まあ、主役は遅れてくるってね!」

 誰だ――。皆の視線が一同に彼に集まる。

「おい、もう一人参加するなんて聞いてないぞ」
「私だって知らないよ。だって、彼まだ本編に出て来てないし」
「本編?」

 太宰の言葉に国木田は首を傾げた。招かれざる登場人物はピコンと何かに気づいて、嬉々と口を開く。

「自己紹介がまだだったね!僕はマーク。マーク・トゥエンだ。祖国では有名な僕の伝記を執筆してるよ」

 続いてこっちは……と、マークの顔横からパッと二人が現れた。

「こっちはハックとトム。僕の"個性"さ」
「どうも」
「よろしくな!」

 人形のような二人だ。物珍しげな"個性"にほぅと太宰以外の三人はまじまじと眺める。

「じゃあ、まずは乾杯をしないとね!日本ではマズハナマ?なんだっけ!」

 自然に座ったマークに「おいおい」「待て待て」と国木田と中也が同時につっこんだ。

「なんでちゃっかり参加する気なンだよ?」

 中也の言葉にマークは得意気に笑って答える。

「当然じゃないか!だって、僕も君たちと同い年なんだから!」

 同い年。

「なら、仕方なかね」
「仕方ないねえ」

 うんうん、と頷くのは鷹見と太宰だ。二人もまあ、仕方ないか……?と若干腑に落ちない気がしないでもないが、納得した。

「しかし……、考えてみればいつから同い年組で飲み会を始めることになったのだ?……おかしい……俺の手帳にはなにも書いてないぞ……!」

 そう言って、"理想"と書かれている手帳を国木田は捲る。

「まあまあ、国木田くん。飲みの席で細かいことを気にするのは野暮というものだよ」
「それより早く注文しようよ!」

 太宰とマークに押しきられ、国木田は「う、うむ」と、彼は皆と同じようにメニューを広げた。

 お通しと共にビールが届き、

「「カンパーイ!!」」

 ジョッキ同士がぶつかり、軽快な音を立てる。

「今年もあっという間だったけど、皆はどげん一年だった?」

 その鷹見の問いに、最初に口を開いたのは太宰だ。

「私は今年も死ねなかったけど、残りわずかな年末に賭けようと思う」
「かっこつけた言い方すんな。死にてェならさっさと死んでこい」
「初っぱなから縁起悪いことを言うな、阿呆!」

 すかさず中也と国木田の手厳しい言葉が飛び交う。

「じゃあ、太宰くんの来年の抱負は変わらずということで。中也くんは?趣味のバンドのミニアルバムも発売したし、順風満帆みたいやね」
「まあな。うちのサイドキックたちも育って来たし、今年はわりと横浜は平和だったな」
「それはよかと。じゃあ次は、国木田くんかな」
「俺の順風満帆な人生はこいつが来てから毎年のように狂わされているからな」

 こいつとは、もちろん横に座る太宰のことである。

「どうも。国木田くんの人生を狂わしている男です」

 太宰がおどけて言った。

「だが、お前を制御できるのは俺しかおらん。来年こそはお前の首に幾重にも縄をかけ、手綱をきっちりと……」
「そのまま首を締め上げちまえ国木田ァ」

 途中、中也がプロヒーローらしからぬちゃちゃを入れた。鷹見は面白そうに笑ったあと「国木田くんの来年の抱負も一緒ということやね。じゃあ、次はマークくん」と、自身のスルースキルを発揮し、さらりと彼に話を振った。

「今年の僕の活躍は、まるでヒーローのような大活躍っぷりだったよ!あ、詳しくは来年発売される自伝を見てね!ちなみに最近の活躍だと……あ、これは企業秘密だった。SORRY SORRY」
「「(なんだコイツ)」」

 そんなマークは「これ、おいしそうだぜ!」「こっちはどうでしょう?」とハックとトムと楽しそうにメニューを見ている。なんともマイペースな男だ。

「そう言うお前はどうなのだ、鷹見?」

 気を取り直して国木田が聞くと、鷹見はしばらく考えてから口を開く。

「今年も良い一年だったよ。大きな怪我もなく、無事にこうして皆と忘年会で会えたばい」

 裏表のない、無邪気な笑みを浮かべて彼は言った。
 頼んだつまみも届き、それぞれの酒の量も増えていく。

「ねー国木田くん、ちょっと隠し芸に"個性"で面白いことをしてみせてよ」
「いいね!面白かったら僕のインスタに載せてあげるよ!」
「いらん!俺の"個性"は見世物じゃない!そもそも公共の場で"個性"は原則使用禁止だ!」
「……あれ……そういえば、中也くん。背ぇ縮んだ?」
「あ?」
「あっ、帽子被っとらんからか」
「テメェ!絞めんぞ!」
「はははは」


 それぞれが自由に飲んで食べて、好き勝手喋りながら、数時間後――


「太宰……今日こそ…ヒック…決着つけんぞ……おらァ」
「君はいい加減、自分の限界把握したまえ」

 酒は飲んでも飲まれるなと言うが、早々に飲まれた男がここにいる。

「中原は相変わらず絡み酒だな……」
「こうなるともう手がつけられんね」

 いつだったか、まあまあと宥めようとした鷹見だったが、思わぬ中也の重力操作にあって危うく潰されるとこだった。すぐに太宰によって無効果されたが。
 それ以来、傍観者に徹している。見ている分には面白い。

「被害が出る前に迎えを越させるか」

 国木田がどこかに電話をすると、迎えはすぐにやって来た。


「ちょっと国木田さん。私をタクシー扱いしていいのは乱歩さんだけなんですけど」

 呆れ顔のなまえは不満げに言う。せっかくの非番だというのに。

「お前は事務所の新人だ。こういう役目は下っぱがするものだろう。社会の常識だ」
「え〜そんな古い常識、廃止しましょうよぉ。もう令和ですよ」
「やあ、なまえ。君も大変だねえ。手のかかるヒーローのサイドキックをやってて」
「まあ、普段は大変じゃないですけど、酔った中也さんはヴィランより厄介なので……」

 なまえははっきり言った。ヴィランより厄介と言われた中也はでろんでろんである。

「よぉ、なまえ!元気だったか?」
「どうも」
「あれ、トムとハックがいるってことはマークさんも参加してたんだね」

 なまえの言葉に、マークが笑顔で手を振って答えた。

「僕も彼らと同い年だからね!」
「あぁ〜なるほど」
「え、君、彼とも知り合いなの?なまえの交友関係の広さが謎なんだけど」
「ハックとトムとは仲良いですよ」
「えっ、僕は!?」

 ショックを受けるマークをよそに、なまえはその場にいる飲み会参加者をぐるりと見渡す。
 
「なんか、皆さんが同い年って不思議な感じですよね」

 誰がどうという事ではなく。

「はは、性格も俺らバラバラやからね」

 鷹見は笑って答える。きっと、共通点の方が少なくて、その少ない共通点の"同い年"という事で集まっている仲だ。

「なまえか……聞いてくれよ、太宰のやつが……!」
「はいはい。中也さん、疲れてるんですよ。もう休みましょう」

 そう言ってなまえは中也に触れるとそのまま自宅に飛ばした。……と思う。

「俺たちもそろそろお開きにしよう。明日も仕事だ」
「国木田くん、ちょっと私飲みすぎたかも知れない。明日の出勤は無理そうだ」
「嘘つけ!お前はザルだろ!明日、ちゃんと定時に出勤して来い。いいな!」


 そして――それぞれが「良いお年を」と口にして、同い年組みの飲み会は解散となった。


【以下分岐】


 *太宰治*

 飲み会が解散すると、太宰となまえは一緒に帰る事にする。

「太宰さん、私もお酒飲みたいです」

 歩く途中、なまえは太宰を見上げて。甘えるような期待するようなその目は、"恋人"に対してのものだ。その言葉に太宰はふっと目を細めて微笑む。

「では、二次会といこうか。酔い潰れたら負けってことで」
「それ、絶対太宰さんが勝つじゃないですか〜」
「なまえが勝ったら私をお持ち帰りできるよ?」
「酔い潰れた太宰さんをどうやって持ち帰りすればいいんですかねぇ」

 持ち帰られるならともかく。"個性"で無効果させられるしと、呆れながら彼女は言うものの、その声色は楽しそうなもので。手を繋ぐ二人の足取りは、軽やかに行きつけのバーを目指した。


 *中原中也*


「中也さーん、大丈夫ですかー?」

 飲み会が解散した後。なまえは酔い潰れた中也が心配になって、彼の自宅に向かうと、"個性"で楽々と不法侵入を果たしていた。

「おい、なまえ……雑な飛ばし方しやがって……」

 中也はコップに入った水を飲み干すと、テーブルにたんっと置いた。

「あれ?失敗しちゃいました?」
「気づいたら玄関前に寝てて、同階の住人に起こされた」
「あ〜……」

 なまえは気まずそうに目を泳がせた。一応、家の中に飛ばしたつもりだったが。

「ったく。……次はねーからな」

 今回は見逃してくれるらしい。なんだかんだ彼はなまえに甘いのだ。

「あっ、中也さん、危ない!」

 足元がよろけた中也を咄嗟になまえは庇う。ちょうど二人は近くにあったソファにもつれ込む。

「……えっと、中也さん?」
「……なまえ」

 顔が近い。端正な顔に見つめられている。押し倒された形。こ、これは……!

「中也さん、待ってください……!まだ心の準備がぁ……!」
「ぐぉ〜〜〜」
「……………………」

 ――寝てるし!そして、重い。意識がないのは当然として。小柄なのにその身体は鍛えられており、しっかり筋肉はついている。

「……はあ」

 無駄にドキドキして損したと、なまえは再び中也に触れて、今度はちゃんとベッドにテレポートさせた。
 

 *国木田独歩*


 飲み会が解散すると、国木田となまえは一緒に帰る事になった。

「大丈夫ですか、国木田さん?」

 しっかりした口調のわりに、国木田の足取りは危なかったからだ。

「セーブしていたつもりだったが、俺としたことがついつい飲み過ぎてしまったようだ……」
「忘年会、楽しかったですか?」
「楽しいものか。あの唐変木と一緒だぞ」

 そう言った後に国木田は「……まあ、悪くはないがな」と小さく呟いた言葉に、なまえはくすりと笑った。

「あーあ、この後、国木田さんと二人で飲みに行きたいと思ったのに」
「……ならば、ちゃんと良い店を予約しといてやる」
「え、本当ですか?やったー」

 フラれるかなと思った誘いは、思わぬ国木田の言葉で返ってきた。


 *鷹見啓悟*


「――啓悟さん!」

 飲み会が解散した後、鷹見となまえはこっそり二人で待ち合わせして落ち合っていた。
 これから、二人だけで飲みに行く約束をしていたからだ。

「忘年会、どうでした?」
「愉快な飲み会だったよ。彼らのやりとりは見ていて飽きんとね」

 そう鷹見は笑うと、なまえの冷たい手を包む。……この手を暖めるのは、自分の役目だ。

「まだ、飲めますか?結構飲んでそうでしたよね」
「へーきへーき。あのぐらいの量」
「さすが博多の人は強いなぁ」

 直後、なまえのポケットの中のスマホが震え、手の中に転移すると素早く画面を開く。

「ヒーロー活動の出動要請なら、俺も手伝うよ」

 鷹見の言葉になまえは苦笑しながら「ヴィランより厄介ですよ」そう言って、画面を鷹見に見せる。
 太宰から「お泊まり禁止」というメッセージと共に謎のスタンプが送られてきていた。

「あー……やっぱ太宰くんにはバレっとたかー」
「太宰さん、勘が良いので……」

 二人が密かに恋人同士だったということも含めて。マスコミさえ、まだスクープしていない話なのに。

「じゃあ、今日は飲んで解散しましょうか」
「……今日だけ、悪い子にならん?」
「太宰さん敵に回すと厄介ですよ」

 それはもうヴィランよりもだ。

「啓悟さんの誕生日に、会いに行きますから」

 満面な笑顔を浮かべるなまえに「楽しみに待っとるよ」と彼も笑顔で頷く。今日の埋め合わせも兼ねてもらおうと考えながら。


 *マーク・トゥエン*


「なまえさん、これを……」

 三人がお会計をしていると、ハックから二つ折りにされた紙をなまえは手渡された。

「俺らが泊まっているホテルの住所だぜ。この後、マークがラウンジで一緒に飲まないかってさ」

 続いてトムが言う。なまえはその紙を受け取りマークを見ると、こっそりぱちんとウィンクされた。(口説き方がいつもキザなんだよねぇ……)

 解散した後。帰り道に一人、なまえはメモを広げる。

「……読めん」

 流暢な筆記体に書かれたそれは解読不能だった。……さて、どうしたものか。


「どうだい?この特注のスーツ!普段は型苦しいのは嫌いだけど、たまにはビシッとね」
「似合ってるぜ!マーク!」
「あとはなまえさんが来るだけですね」


 ホテルでは浮き浮きした三人がなまえを待っていた。果たして彼女がたどり着けたかは……?



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