隣の席の吹出くん

 なんとか希望校である雄英に入学して、いよいよ入学式。

 どんな人たちがいるのかな?
 やっぱりすごい人ばかりなのかな?

 ――と、ドキドキしながら登校したら。(え、え?"個性"?…摩訶不思議!)

 さっそく隣の席の人がすごい人だった。

「あ、ボクの"個性"珍しい?ボクは吹出漫我!隣の席だし、よろしくね!」

 思わずまじまじと見てしまった不躾な私の視線に、怒ることなく吹出くんは明るく言った。
 吹出くんは顔がコミックのようなフキ出しになっていて、その中には「ニコッ」と文字が浮かんでいる。

「私はみょうじなまえです。よろしくね、吹出くん」
 続けて面白い"個性"だねと私は言った。

「ホント!?みょうじさんはコミック好き?」
「うん、好きだよ」

 コミックの話題にポンポンと弾む会話。
 彼は明るくて、楽しい男の子だ。
 会話もだけど、吹出くんの顔のフキ出しに「うんうん」とか「!」とか文字となって現れて楽しい。

 さっさく友達が出来て、他のクラスメイトとも仲良くなれそうで翌日の登校が楽しみになる。

 翌日からは通常授業が始まり。
 ヒーロー基礎学はヒーロー志望の端くれの私も楽しみにしていた科目だ。

 ヒーロー役とヴィラン役に分かれての屋内対人戦闘訓練。いきなり戦闘訓練で驚いたけど、ヒーローなら戦闘は避けられない。頑張らないと!

 ペアはオールマイト先生の発案でクジ引きになった。なんでも「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップすることが多い」からだと。さすが、考えられている。

 そして、ペアはなんと吹出くんとだ。

「すっげー偶然!ボクとみょうじさん、縁があるのかも!」
「そうかも!頑張ろう、吹出くん!」

 役はヒーロー組になって、気合いを入れる。対戦相手のヴィラン役は凡戸くんとポニーちゃんだ。

 私の"個性"は索敵に優れているので、核の居場所はすぐに分かったけど…

「たぶん凡人くんの"個性"だね。扉を固めて籠城戦を決め込んでいるんだ」

 扉の隙間から接着剤がはみ出ている。
 どうしよう、これじゃあ侵入できない……。

「ボクにドーンとまかせて!みょうじさん」

 コミックのコマ割りした用紙を顔にくっつけた吹出くんは、自身の胸を力強く叩いてそう言った。

「ズッドーン!!」
「…!?」

 吹出くんが口から出た言葉は、同時に形となっても飛び出した…!
 勢いよく扉をぶち破る。

「す、すごいね、吹出くん!」
「へへ!この勢いでヴィランを捕まえるぜ!」
「負けないよ〜」
「それ以上近づくと痛い目見るデース!」


 ――結果的には。
 凡人くんの"個性"とポニーちゃんの"個性"に押しきられ、ヒーローチームの敗北。


「ごめんね、吹出くん。後半、私が足を引っ張ったせいだ」
「何言ってんのさ!みょうじさんの索敵のおかげで居場所が分かったんだし」

 吹出くんの声は少し枯れている。
 きっと、喉を使う"個性"を多用したからだ。

「普通の飴だけど、良かったら……」
「やったー!ありがとう、みょうじさん!」

 そんな彼のフキ出しには「♪」となった。(あ…かわいい)

 この日以来、私はずっとのど飴を持ち歩いている。


 ヒーロー科の毎日は目まぐるしい。
 隣の席の吹出くんは相変わらず今日も摩訶不思議だ。

 期末試験を控えたある日――一緒に勉強しない?と吹出くんに誘われた。

「みょうじさん、成績良いから教えてほしいんだ…!」
 そんな彼のフキ出しには「頼む!」
 私はくすりと笑う。
「もちろん、私で良ければ」

 仲の良い吹出くんのお願いに断る理由なんてないよ。

 やってきたのは図書館だ。
 この数式が難しくてという彼の言葉に隣から覗き込んだ。
 ああ、これなら――解き方をコツを説明するも、彼から反応がなくてふと顔を上げる。

 近くにある吹出くんの顔のフキ出しには「…!」と現れていた。

「なななんでもないよ…!」
 そう言って狼狽える彼にますます不思議に思う。

 ――あ。

 フキ出しの中の文字が「///」に変わっている。スラッシュ…?
 なんだろうと考えること数秒、

(もしかして、照れてるとか……?)

 そう気づいた瞬間、私の顔も熱くなるように感じた。
 そういえばいつもよりずっと近い距離。
 意識してしまうと心臓がドキドキしてくる。
 同時に色々な感情が込み上げて来た。

 こんな表現もするんだ、とか。
 もっと色んな吹出くんを見たい、とか。
 他の子にもそんな顔するのかな、とか。

(…あ、そっか。今まで吹出くんから目が離せなかったのは、きっと――)

「…………好き」

 思わず口から出た声が自分の耳に届きハッとする。

「っそ、それって、ボクと同じ好きだったりする…!?」

 その言葉と同時に──私の目に飛び込んだのは、フキ出しの中の大きな三文字。

「好きだ」



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