vsホメロス

「おや、そちらのお兄さんたち!おふたりともサラサラ、ツンツンと髪型が決まっていて男前ですねぇ〜!そんなに男前なのに見物とはもったいない!ぜひ、海の男コンテストに参加してください!」

 ――一方。

 イレブンとカミュは、のんびりとコンテストの場所取りの最中に、コンテストの関係者らしき人物にそう勧誘を受けていた。

「おいおい、オッサン。オレたちはコンテストなんかに付き合ってる場合じゃ……」

 カミュは当然断ろうとしたが、そこでおもむろに言葉を切る。

「……おい、イレブン。あの男、怪しくないか……?」

 次いでそう言って、イレブンはカミュの視線の先を追うと。

「!…あれは……!」

 その人物を目にし、彼は固まった。

「……フッ。逃亡者は人混みに紛れるもの。このコンテストを利用し、貴様をあぶりだそうと画策していたが、その必要はなかったようだ」

 男はキザったらしく髪をかき上げ、振り返る。

「まさか、人目もはばからず堂々とコンテスト会場にやってくるとはな」
「ヤツのあの鎧……まさか……」

 その、まさかだ――

「聞きたまえ、ダーハルーネの民よ!私はデルカダール王の右腕、軍師ホメロス!そして……」

 自分達の追っ手であるホメロスは、ステージ上から高々と声を上げる。

「あの者こそ、悪魔の子、イレブン!ユグノア王国を滅ばした災いを呼ぶ者だ!」

「ちっ……!逃げるぞ勇者!」

「さあ、忌まわしき悪魔の子、勇者!おとなしく――」


 私と海の男コンテストで勝負するがいい!!


「「………………………は?」」



 ***



「さあ!いよいよ始まりました!海の男コンテスト!!今年は飛び入り参加も多く、白熱した勝負になりそうです!!」
「「わあああぁ!!」」

 その参加者の中には、イレブンとカミュの姿もあった。

「待て待て待て。おかしいだろ。なんでオレたちは参加してるんだ!?」

 頭を抱えるカミュ。

「うん。どうしてこうなった」

 それに死んだ目をしながら答える勇者。

「私との勝負に怖じ気づいたか勇者よ!」

 フッとすでに勝ち誇った笑みを浮かべるホメロス。

 ……おかしい。何かがおかしい。

 おかしいのは分かるが、イレブンたちは何がおかしいのかは分からない。

 まるで、"台本を書き換えられてその通りに話を進められている"――ような感覚だ。

 そんな困惑する二人をよそに、コンテストはさくさくと進んでいく。


「続いての出演者は、嵐がオレを呼ぶのか、オレが嵐を呼ぶのか――ひと度海に出れば嵐に見舞われる男、ユッケ!!」

 ……船乗りが毎度嵐に見舞われたら、致命的なんじゃ――イレブンは心の中で心配した。

「続いて、木こりから吟遊詩人に華麗なる転職!潮風に乗せたバラードを歌えば誰もが振り返る――トンヌラ!!」

 ……見た目とのギャップに皆驚いて二度見してんじゃねえのか――カミュは心の中で考察した。

「続いては、なななんと!はるばるデルカダール王国から飛び入り参加!双頭の鷲の美丈夫――ホメロス軍師!!」
「私が参加したからには優勝は我が手に……!!」

「「(やる気満々過ぎるだろ……)」」

 イレブンとカミュは同時に心の中でつっこんだ。

「続いても飛び入り参加です!世の女性が羨むサラサラ髪!お仲間のセーニャさんによれば、お手入れは何もしてないという驚異の美髪の持ち主!勇者――!!」

 セーニャ……!?

「同じく飛び入り参加の元盗賊、今は勇者さんの相棒!青い空、青い海に負けない青いツンツンヘアー!あだ名はカミュッチ!公式イケメン、カミュ!!」
「……………………」

 情報提供者は絶対にナマエだろうとカミュは観客席の方を見た。
 彼女はさっと視線をずらし、カミュの視線に気づかないフリをした。

 参加者発表は続々と続く。

「はるばるドゥルダ郷から来た"ドゥルダ"な飛竜の異名を持つ男!ミスター・ハン!」
「フ…優勝はもらった」
「その彼のお連れさんにも参加してもらいました!特技は分身!分身は家事や育児もこなす!ベロリンマン!」
「ベロ〜ン。準優勝のラハディオまんじゅうを狙うベロン」
「最後は、前回優勝者のこの方!!優勝に相応しい波のように荒々しく、空のように爽やかで、海のような深みを持つ男――ヨシヒコ!!」

 おっと。どこかで聞いたことがある名前だぞ?

 イレブンとカミュは同時に思った。

「では、優勝賞品ですが、今年は『うちなおしの宝珠』一年分と海の素材セットです!」

 いやなんだ、そのピンポイントで誰かさんが喜びそうな景品は!
 ――カミュは隣のイレブンを見る。

「カミュ…!僕と君、どちらかが優勝しよう……!!」

 勇者の名にかけて……!!

 急にイレブンの目が本気になった。

 カミュはやれやれと肩を竦めながら、勇者さまが言うなら仕方ねえなぁとちょっと本気になる。

 だが、優勝を狙うとしてもどうすれば良いのやら。

「さあ、では順番にアピールしてもらいましょう!!」

 どうやらそれぞれ特技や、いかに自分が海の男に相応しいか各自アピールするらしい。

 例えば、猟師のユッケはその鍛えぬかれた肉体美を。

「ほうほう!」
「トロルのような筋肉だぜ!」
「ええ男じゃのう!じいさんの若い頃にそっくりじゃ」

 例えば、吟遊詩人のトンヌラはもちろん歌声を。

「見た目とのギャップ…!」
「なんて素敵な歌声……!」
「まるで海の子守唄のよう…!」

 ホメロスはというと、二刀流による演舞を見せる。
 華麗に舞うような姿に――

「素敵……!」
「ホメロスさま〜!!」
「こっち向いてーー!!」

 特に女性人から好評のようだ。

 次はカミュの番だ。

 どうしようかと悩む。

 武器での演舞はホメロスの二番煎じでインパクトは低いだろう。

(コンテストは海の男を決めるもの――それに因んだものがいいな…)

 そんなカミュが思い付いたものは。


 魚の解体ショー。


 この辺りで捕れるウロコカジキ。
 名前の通り、鱗が特徴的な大きな魚だ。
 カミュは手際よく、かつ合理的にさばいていく。

 時おり包丁を宙に投げたり、ただ単にさばくのではなく、魅せる包丁さばきに会場から感嘆の声が。

「いっちょ上がり!」

 最後は美しい切身が並び、思わず彼に拍手を送る観客たち。

「きゃー!かっこいいーー!!」
「ぜひうちに働いてくれ!!」
「いや!俺のところに!!」

 と歓声にまじって、猟師や魚屋からの勧誘の嵐が起こった。

「おいしそうベロン!!食べていいベロン?」
「後でにしろ」

 先ほど分身を披露してお腹が空いたというベロリンマンを押さえるミスター・ハン。

 観客席では仲間の彼らも笑顔で拍手を送る。

「カミュちゃん、素敵じゃな〜い」
「カミュはなんでもできちゃうね!」
「まあカミュにしてはなかなかやるじゃない?」
「イレブンさまは何を披露されるのでしょうか?」

(すごいなぁカミュ!さすがだ!)
 イレブンも同じように拍手を送った。

 さて、次は自分の番だ。

 イレブンもカミュ同様にどうしようか考えていた。

 自分の特技や強みはなんだろうかと。

 もう少しステージが広ければ、ファルシオンと共に馬術を披露したが。

(これしか、ないか……)

 不本意ではあるが。

 うちなおしの宝珠一年分と海の素材セットを手に入れるために、背に腹は代えられん――!!

 彼はステージに立ち、一つ深呼吸をすると。


 頭を激しく上下に振った。


「「………………………」」

 唐突なイレブンの奇行に会場はシーーンと無音になる。

「……聞いたことあるぜ!」

 一人の男が口を開く。

「ハードな音楽に合わせて激しく頭を振る動作だ…!」

 なるほど…と会場全体が納得するが、音楽がないなか、やはり奇行にしか見えない――

 そう皆が同じように思っていると、不意にゆっくり顔を上げるイレブン。

 髪をかき上げ。

「どんなに乱れても、ひとたびかき上げればこの通り。僕の髪はサラサラです!!」

 彼特有の綺麗な笑みを浮かべれば。

 その瞬間、会場が人々の歓声に包まれた。

「本当にサラサラだ!!」
「海風になびくぞ!!」
「羨ましいわ……!!」

 ギャップもあり、皆はそのサラサラ髪に釘付けになる。

「…最初はどうしたのかと思ったけど、会場のウケはいいわね!」
「フフ、イレブンちゃんの髪は唯一無二ね!」
「ええ…素敵ですわ。イレブンさまのサラサラ髪……!」
「イレブンもカミュもどっちが優勝でもおかしくないね!」

(やった!会場の反応はいいぞ!!)

 最後にヨシヒコがアピールをし、これで全参加者のアピールタイムは終わった。


 審査は例年より、難航したらしい。


 結果――……


「今年の優勝者は――ヨシヒコさん!!やはり王者は強かった!!」

 がっくりと項垂れるイレブン。
 準優勝で惜しかった。

「いや〜今年は誰が優勝者でもおかしくなった!!素晴らしい海のコンテストでした!!」


 そう最後に町長のラハディオが締め、海の男コンテストは幕を閉じる。


「イレブンよ……!これで私に勝ったと思うなよ……!貴様が準優勝だと私は認めん!!」

 そう最後に捨て台詞を吐いて、兵士たちをぞろぞろと連れて立ち去るホメロス。

「……。おいあいつ、オレたちを見逃して帰って行ったぞ」
「一体なんだったんだろう……」

 不可思議な一日だったと、イレブンとカミュは首を傾げる。

 優勝は逃して残念だったが、準優勝の勇者には、ダーハルーネ名物『ラハディオまんじゅう』一年分が贈られた。

 甘いものが好きなナマエとセーニャが喜び。

 イレブンもまんじゅうを一口食べて、口に広がる甘味に頬を緩ませるのであった。



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