「……父上、母上。というわけで、レースを走ったのはファーリスさんだったのです」
――イレブン王子の突然の告白に、目を丸くするサマディー王と王妃。
隠しておく必要もなくなった事情を、王子は二人に話した。
彼らに虹色の枝を譲るという約束もあるからだ。
「まさか、あのデスコピオンの討伐に行ってたなんて……!イレブン、怪我はないのですか!?」
「母上、僕に怪我はありません。皆さんがついてましたから」
そう謙虚に言う王子に、人間できてるなぁとナマエは感心する。
王子の援護をするつもりが、自分たちの出番は一切なかったのに。
それにしても、ベロニカの提案で王子を仲間に勧誘した際は断られて残念だ。
『すまない。王子としてこの国を守らなくてはならないから、旅に出ることはできないんだ……。でも、君たちが仲間に誘ってくれたのはすごく嬉しいよ』
そうもっともな理由を微笑と共に言われてしまえば、あのベロニカもぐうの音が出ない。
王子とファーリスは仲良くなれそうな気がしたんだけどな……そうナマエはなんとなく思っていた。
「父上、母上。騙す真似をして申し訳ございません。どうしても、僕は自分の手でデスコピオンを退治したかったのです」
「顔を上げよ、イレブン。わしたちはこれまでお前を信頼せず、勝手に実力を決めつけていたようだな」
きっと、大事な息子が自分たちの手から離れるのが怖かったのだ――。
「謝らなければいけないのは、わしらの方やもしれん。これからは妻とともに、考え改めるとしよう」
サマディー王の言葉に、王子は嬉しそうに表情を明るくさせた。
「しかし、あのデスコピオンを倒してしまうほどの実力があったとは驚いたぞ。これなら、お前の目標であるデルカダールの猛将、グレイグ殿の隊にもすぐに入れるであろうな。いや、グレイグ殿の方から勧誘が来るかもしれん。わっはっはっは!」
むしろ、そんなに強いならグレイグを倒してくれ――と、ファーリスは思う。
「ところで父上。ひとつ、お願いがあります。ここにいるファーリスさんたちは、虹色の枝を求めて旅をしているのです」
続いて虹色の枝の交渉を切り出した王子に、五人の期待が高まった。
「お、いよいよだな」
「必死に馬の背にしがみついたかいがあったね、ファーリス」
「うん。ボクの努力が報われる時だ」
「努力に失礼ね」
「虹色の枝はどんな風に虹色に輝くか、実際にこの目にするのが楽しみですわ」
聡明な王子なら、きっと上手く交渉してくれるはず。
「お世話になったファーリスさんたちに、国宝である虹色の枝を差し上げてもよろしいでしょうか?」
「虹色の枝か……。うーむ。そいつはムリだな。行商人に売りはらってしまったからのう」
「ええーーー!!」
心の中で叫んだ五人だったが、そう声に出して驚いたのは、意外にも王子だった。
「虹色の枝を売りはらったですって!!あれは国宝ですよ!?どうして売ってしまったんですか!?」
「だ、だってー…我が息子が成人を迎える記念すべきイレブン杯だから、お前のために豪華にしようと思って……」
「だってじゃありませんよ!豪華な演出のためだけに国宝を売るなんて……!あなたは国王の自覚があるんですか!?」
――めっちゃ王子怒ってる。
いや、言ってることは正論ではあるが。
王子にクドクドと「王の自覚とはなんたるか」を説教をされ、しゅんとするサマディー王を見て、おかげで彼らの溜飲は下がった。
何ならちょっぴり王が可哀想である。
「……この国は安泰だね」
確かに……。ぽつりと言ったナマエの言葉に全員同意する。
この感じだとしっかり者のイレブン王子に、早く王位を継承してほしいと思ってる者は多いかも知れない。
「――ゴホン。お恥ずかしいところを……失礼しました」
「あ、いや、ボクらのことはお構いなく……」
「すまないことをしたな、旅の者よ。虹色の枝を売った行商人だが、ここより西のダーハルーネに向かうと言っておったぞ」
「君たちは僕の頼みを聞いてくれたというのに……」
王子は申し訳なさそうに顔を歪ませ、次の瞬間、彼らに頭を下げた。
「すまなかった!虹色の枝のことは本当に知らなかったんだ。どうか、許してほしい……」
彼らに王子を咎める気なんて微塵もない。
「顔を上げてくれ、イレブン王子。過ぎたことを悔やんでも仕方ないじゃないか。なーに大丈夫。ボクたちなら次の町、ダールハーネに」「ダーハルーネな」
「そう、ダーハルーネに向かうから大丈夫さ!」
王子が顔を上げると、ニカッと笑って親指を立てるファーリスの姿が。
なんて心が広い方なんだろう――彼は聖人君子か。王子はファーリスに感服する。
「王子、いくらなんでも過大評価し過ぎよ!」
「まあまあ、お姉さま……」
「王子から見たファーリス、キラキラしてる」
「心の目で見てるんだろうな」
イレブン王子はファーリスを見つめ、微笑を浮かべた。
「……ありがとう、ファーリスさん。せめて、僕に償いをさせてくれ」
「償い?」
「虹色の枝が手に入るまで、君たちの旅に同行し、手伝わせてほしい」
「「……!」」
思いがけない王子からの提案だったが、願ってもない話に彼らは喜んだ。
「もちろん、オレたちは大歓迎だぜ」
「王子がいれば100人力だねっ」
「はいっ、とても心強いですわ。それに、本物の王子さまが仲間になるなんてドキドキします」
「虹色の枝を手に入れるまでとは言わず、ずっと仲間にいていてくれて構わないわよ、王子!」
「ボクも嬉しいけど、ボクの立場が危うくならないか!?」
ファーリスだけが危機感を感じて。
「ということで、父上。僕はしばらくの間、ファーリスさんたちについて行きます。表向きは見聞を広める…で、大丈夫でしょう」
いいですね?とサマディー王に有無を言わさず聞くイレブン王子。
父上の尻拭いですよ――口には出してないが空気でそう言ってる。王に選択肢はない。
「よし、イレブンよ!行けい!虹色の枝を見事取り戻してまいれ!」
王は王でお調子者であった。
「……サマディー王って、ファーリスに似てない?」ベロニカの言葉に「ええ…」と彼は不服そうに能天気な王を見て答える。
はたりとサマディー王と目が合った。
「「……………………」」
あれ、初めて会ったような気がしないでもないような……?
――こうして。
イレブン王子を期間限定の仲間に加えて、サマディー王国を旅立つ勇者一行。
…………だったが。
「んもうっ水くさいじゃなーい!お坊ちゃんが行くならアタシもついて行くわ〜!」
「シルビア!」
「げっ」
「んな!?」
王子を仲間にしたら、何故か流浪の旅芸人のシルビアまでついて来た。
「シルビアは僕の友達ですごい剣の使い手なんだ。きっと頼りになるよ」
「それは頼もしいですわ!ねえ、ナマエさま、お姉さま」
「王子のお墨付きだしね」
「そうね、戦力は多いに越したことはないわ!」
「っつてもなぁ。オレたちの旅は遊びじゃねえんだぞ」
「もちろん、遊びでついていく気はなくてよ。それより、ウマレースでお坊ちゃんとファーリスちゃんがどうして入れ替わってたのか不思議だったけど、まさかデスコピオンの退治に行ってたとは驚きだったわん。さすが、アタシが見込んだお坊ちゃんね♪」
「ファーリスちゃん……?」
七人と賑やかになった彼らは、虹色の枝を追いかけダーハルーネを目指す――
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