僕は君の影武者

 サマディ王国でイレブン王子(期間限定)と流浪の旅芸人のシルビアの、二人の仲間をゲットした勇者ご一行。

 虹色の枝を追って次の行き先は、ダーハルーネだ。

「ダーハルーネへ行くには、まずは西の関所を通る必要があるんだ」

 王子の案内で一行は西へと向かう。道中の魔物たちは王子とシルビアコンビが蹴散らしてくれたので、楽に進んだ。

「シルビアさんも剣の腕前がすごいんだな」
「シルビアでいいわ。ファーリスちゃん」
「僕の剣技もシルビアに教わったんだよ」
「ボクにも教えてほしいなぁ」

 そんな和やかな会話をしていると、関所が見えてきた。
 本来なら王の書簡が必要だが、そこは王子がいれば問題なし。

「やや!これはイレブン王子!話は聞いております。どうぞ、お通りください」

 気を付けて行ってらっしゃいませと、門番に見送られ、関所を通過する。

「この先の道がダーハルーネに続いているのか?」
「あの洞窟を抜けると、ダーハラ湿原という水と緑に包まれた豊かな大地があるんだ。その奥にダーハルーネへの入口があるよ」

 カミュに尋ねられ、指を差しながら答える王子。ナマエが感心したように口を開く。
 
「王子は詳しいのね」
「何度か貿易の勉強のために訪れたことがあるし、王族の船もそこに停泊してるんだ」
「じゃあ、もしも虹色の枝が海を渡ってしまってもキミの船があれば大丈夫だな!」

 ファーリスの言葉に「王国の船は目立ち過ぎるから……」と、王子はシルビアに目配せした。

「まかせて、お坊ちゃん!みんな!アタシも持ってるのよ、フ・ネ♪」
「シルビアさん、すごいわ!やっぱりただ者じゃないと思ってたのよ!」

 調子よく言ったのはベロニカである。

 砂漠の国にいたので、ダーハラ湿原の緑豊かな景色が新鮮に映りながら進むと、灯台が彼らの目に見えてきた。

「灯台が入口になっているとは、洒落た造りだぜ」

 扉を開け、通路を抜けた先に、活気溢れる光景が目に飛び込んだ。

「まぁ……なんて、美しい町!まるで、海の上に町がひとつ浮かんでいるようですわ!」
「水路を移動できるゴンドラはこの町の名物なんだ」
「夜に乗るとロマンティックなのよ〜」

 王子とシルビアの言葉に乗ってみたいという女性陣の言葉に「まずは虹色の枝だろ?」とカミュが急かす。

「アタシの船ちゃんは町の南西にあるドックの中でおやすみしているの。さっ!みんな行きましょ〜!」

 張り切るシルビアの後ろに彼らはついていった。

「露店の準備もしてるし、何かお祭りでも始まるのかな?」
「うん、あの広場で設備が建てられる真っ最中みたいだ」

 彼女とファーリスの言葉に「ああ、もうこの時期か」と王子が呟く。

「何かあるのかい?」
「毎年、この時期のダーハルーネで行うコンテストがあってね。そのコンテストは――」
「ンもうっお坊ちゃん聞いて〜!この男の子がいじわるしてアタシをドックに入れてくれないのよ〜!」
「いじわる?」

 王子の言葉を遮るように、シルビアが拗ねたように言った。
 王子とファーリスは互いに怪訝そうに顔を見合わす。

「ちっ……違います!もうすぐ、町でコンテストが開かれるので、今ドックは閉鎖中なんです」

 ドックの扉前にいる若い男は慌てて首を横に振って口を開いた。

「ここまで来てなんだそりゃ……。つまり、そのコンテストとやらが終わるまでここは開けられないってことか?」
「はい、申し訳ありません。海の男コンテストはこの町にとって、とても大事な伝統行事でして……」
「それってさっき王子が言いかけた……」
「ああ。でも、その期間ドックが閉鎖中とは初めて知ったよ」

 困ったように言う王子に、彼らも同じような表情に。

 海の男コンテスト……ですって?

 ただひとり、その言葉に食いついた男がいた。

「なぁに、その乙女心をくすぐるヒビキ……。ねえ、くわしく教えてくれない?」

 正しくは乙女心を持つシルビアだ。

「確かにシルビアが好きそうだ」

 わくわくしているシルビアの様子に王子はくすりと笑う。

「海の男コンテストとは……波のように荒々しく、空のように爽やかで、海のような深みを持つ!その三拍子がそろった男を決めるものです」
「カミュ、君のイメージにぴったりじゃないかな」
「あ、わかる!」
「カミュ、出てみたらいいんじゃないか。どうせ船も出せないみたいだし」
「誰が出るか」

 王子に同意するナマエとファーリス。期待の色が込もった三人の目に、カミュはうんざりと答えた。

「なので、この時期になると美しい肉体美を誇るたくましい男や、潮風の似合う美男子が続々とこの町に集まってくるんですよ」
「ヤダ……なんだか面白そうじゃない。それなら、この町で少し休んで海の男コンテストを見てから出発しましょ」
「あのなぁ、おっさん。オレたちは……」
「そうそう、三人娘ちゃん。この町のお店には世界中から集まるステキなお洋服やスイーツが売ってるの」

 カミュの言葉を無視して言ったシルビア。三人娘は予想通り食いつく。

「まだ時間があるみたいだし、女だけでショッピングやスイーツ巡りをして、コンテストを待つことにしましょ♪」
「海の男コンテストにはキョーミないけど、ショッピングは面白そうね。あたし、新しいクツが欲しいところだったの」
「おい、ちょっと待てよ。オレたちは虹色の枝を探しに来たんだぜ。遊んでる時間なんてねえだろ?」
「カミュさま……」

 セーニャが申し訳なさそうに口を開く。

「ごめんなさい!私……甘い物には目がないんですっ!」

 そう言ってシルビア側についた。
 残るは……カミュの視線に「えっと……」ナマエは目を泳がせてから、

「ごめんっカミュ!私も……!」

 そう言ってシルビア側についた。
 だろうなと怒る気もなれず、カミュは納得した。

「きっと、虹色の枝も足止め食らってるさ。ボクたちものんびりしようよ」
「まあ、船も出せないことには動きようもねえしな……」

 ファーリスの言葉もあり、渋々納得するカミュに「あのぅ……」と、若い男がおずおずと声をかけて来た。

「もしお急ぎでしたら、町長のラハディオさんにご相談してみてはいかがでしょう」
「ラハディオさん?」
「この町の村長さんだね」

 王子が言うと、若い男は頷き話を続ける。

「はい。コンテストの責任者でもあり、このダーハルーネの町をわずか一代でここまで発展させた偉大な方です。どんな相手でも優しく接してくれる人格者ですし、会ってみると良いでしょう。町の北東にあるお屋敷にいるはずですから」

 そこまで話を聞いて、ファーリスは若い男にお礼を言い、仲間たちに顔を向けて話す。

「じゃあ、ドックを開けてもらうよう直接ラハディオさんに掛け合ってみればいいのか」
「ええ。でも、まずはせっかくだからこの町を楽しみましょうよ!」
「二手に別れましょう」

 シルビアに続いてベロニカの提案に、もちろん町を楽しむのは女性陣とシルビア。相対的にカミュとファーリスがラハディオに掛け合うことになって「結局こうなるのかよ…」とカミュは愚痴った。

「僕もそちらにいくよ。ラハディオさんとは何度か顔を合わせたことがあるし、力になれるかも知れない」

 そう王子は言ったが「坊ちゃんはこっちに参加よ!」と、シルビアに強引に連れてかれてしまった。


 結局、ファーリスとカミュだけでラハディオの屋敷に向かったが、二人は予想外の門前払いをくらう。


「……なんだよ、全然取り合ってくれねえな。アレのどこが優しい人なんだ?」
「ボクの顔をジロジロと見て、失礼な人だ!」
「いや、正確にはオレたちだな。まさか、おたずね者なのがバレたか……?」
「町を歩いていた時はそんな噂は聞こえなかったが……」
「だが、これだけ大きな港町だ。いつ情報が入って来てもおかしくねえ」

 とりあえず、二人は一方の町を楽しんでいる仲間たちと合流することにした。

「待ちなさーーい!!」
「ベロニカ……?」
「……何してんだありゃ。追いかけっこか?」

 直後、聞き慣れた声に二人は怪訝に首を捻った。
 見ると、ベロニカが見知らぬ少年を追いかけている。

「お姉さま〜!」

 そのすぐ後ろを追いかけるセーニャ。

「あっファーリスとカミュ!」

 二人に気づいたナマエに、彼らはそちらに駆け寄った。

「何があったんだ?」
「じつは……」

 ナマエは事の経緯を二人に話す。
 ベロニカの杖が少年に盗まれたという。

「待ち伏せしようと、別ルートから王子とシルビアさんも追いかけたんだけど……」

 三人も追いかけて走るが、途中でセーニャ、次にベロニカが息を切らしている。
 少年はなかなかの体力の持ち主らしい。

「よし、カミュ!ボクたちが追いかけよう!」
「ああ!」
「ぶへっ!」
「ファーリス、大丈夫!?」

 言った側からファーリスは壮大に転けて、ナマエが心配そうに手を貸す。

 おいおい……。ポンコツ勇者は彼女に任せて、カミュは加速して少年を追いかけた。

「ここまで逃げきれば……!」
「――盗みはだめだよ」
「ちゃんと謝って返せば、きっとベロニカちゃんも許してくれるはずよ」
「うわぁ!」

 待ち構えていた王子とシルビアに驚く少年は、慌てて来た道を戻ろうとするが。

「おっと、こっちは通行止めだぜ?」
「うぅ……」

 カミュが道を塞ぎ、少年は諦めたようだ。


「ほらよ。もう盗まれたりすんじゃねーぞ」
「……ねえ、アンタ。あたしの杖を盗んでどうするつもりだったの?売っても大した値にはならないわよ?」

 カミュから杖を受け取ったベロニカは静かに少年に訪ねる。

「………」
「キミ、黙ってたままじゃわからないぞ?」

 ファーリスが問うと、少年を庇うように別の少年が現れた。

「え、友だち?」
「なんだ、お前?」
「……っ!…………!……!!」

 彼は何かを必死に訴えているようだ。

「あーもう……しょうがねえな。ヤヒム。オレが説明するからムリすんな」

 杖を盗んだ方の少年が、彼の肩に手を置いて言う。

「オレはラッドで、こいつはダチのヤヒム。こいつは町の町長、ラハディオさんのひとり息子なんだ」
「ラハディオさんの……」

 王子は驚いたように呟いた。息子がいるとは聞いていたが、実際に会ったのは初めてだ。

「こいつとはよく一緒に遊んでたんだけど、数日前に声が出なくなっちまって……何があったのか聞いても分からなくてさ。それで魔法使いの杖でも使えば、魔法のチカラでこいつのノドを治してやれるかもしれないと思ったんだよ……」
「……そういう事情ならしょうがないか」

 ベロニカの言葉に、他の仲間たちも同意するように顔を見合わせる。

「それより、声が出なくなったていうヤヒムって子の方が放っておけないわね」

 セーニャはヤヒムの前に膝をつき「失礼しますね」とその首に手を当てる。

「どうやら、ノドにとても強力な呪いがかかってるようですわ。いったい誰がこんなひどいことを……」
「呪いって一体誰がそんなひどいことを……」

 王子が痛ましそうに呟いた。

「ああ、ひどいな!あどけない子供にそんなことするなんて!」

 憤怒するファーリス。ベロニカがセーニャに聞く。

「セーニャならどうにかできるんじゃない?」
「さえずりのみつという魔法の蜜があれば呪いは解けると思いますが、それを作るには清き泉に湧く神聖な水が必要ですわ」
「清き泉の水……そいつが手に入ればヤヒムを助けられるのか?」

 ラッドは心当たりがあると口を開く。

「それなら、オレ聞いたことあるよ。この町から西の方に川をさかのぼっていくと霊水の洞くつって所があってさ。奥にすっごくキレイな泉があるらしいぜ」

 そして、彼らを見回して。

「なあ、お兄ちゃん、お姉ちゃん。オレとヤヒムは小さい時からずっと兄弟みたいな仲良くしてきたんだ。ドロボーをしておいて、なんだけどさ……しゃべれないコイツからの頼みだと思って、ヤヒムの声を取り戻してやってくれないか?」

 懇願するラッドに断る理由はもちろんない。

 さえずりのみつを作り、ヤヒムの声を取り戻すべく、彼らは急ぎ霊水の洞くつに向かった。

 霊水の洞くつでは、湧き水を守るようにシーゴーレムが立ち塞がっていたが、今の彼らの敵ではない。


 ――一日経って、セーニャお手製の"さえずりのみつ"を入手し、ダーハルーネへ戻ると、昨日より町は活気に溢れていた。

「そういえば、海の男コンテストが始まるのは今日よね。ヤヒムちゃんもノドが治った状態でコンテストを楽しめそうで良かったわ」

 シルビアの発言にカミュはお気楽だなと思っていると、その彼はこう提案する。

「ねえ、ファーリスちゃん、カミュちゃん。ヤヒムちゃんの顔も見たいし、さえずりのみつはアタシたち女4人とお坊ちゃんで届けてくるわね」

 王子はともかく。女4人……?

「その代わり、ファーリスちゃんとカミュちゃんにコンテストの場所取りをしておいてほしいの。イイ男がよく見える場所を取っておいてね♡」
「はあ?おい、勝手に……」
「よろしくね、ファーリス、カミュ。ちゃんと良い席を確保するのよ」
「私たちがしっかりとヤヒムくんにさえずりのみつを届けて来ますわ!」
「えっと、僕もこっちでいいのかな?」
「私はどっちでもいいけど……」

 戸惑う王子とナマエを連れて、シルビアたちはさっさと行ってしまい、二人は唖然と取り残された。

「面倒くさい仕事は全部男まかせかよ……。急に子供を助けようとか言い出したり、戻ったら席の場所とりをしろと言ったり、あいつらホント勝手だよな。王子はともかく、シルビアのやつ、男手が増えて楽になるかと思ったらとんだ期待外れだったぜ」
「まったくだよ!ボクらは便利屋じゃないんだぞ!」

 ファーリスとカミュはぶつさく不満を吹き出す。

「……めんどくせえけど、仕方ねえな。ひやかしにステージの様子でも見に行くか」

 鬱憤を吐き出したところで、二人はステージに向かった。


「ふ……。やはりこの町に訪れていたか」
「……!?」

 二人の足が止まる。その視線の先にいるのは――

「ホメロス……!!」
「逃亡者は人混みに紛れるまの。このコンテストを利用し、貴様らをあぶりだそうと画策してこの町に来たが……」

 デルカダールの軍師、ホメロスがステージ上から二人を見下ろしていた。

「すでに人目もはばからず堂々とコンテスト会場に居たとは。もう一人、娘がいないようだが……、まあいい」
「ヤツのあの鎧……あいつがホメロスか。いけすかねえ野郎だぜ」
「カミュ……!デルカダール兵士に囲まれているぞ……!」

 二人はホメロスを気にしながらも、じわじわと追い詰められ、ステージ上へと追い込まれた。

「戦うしかねえ!騒ぎを聞きつければ、あいつらが助けにくるだろ!」
「わ、わかった……!」

 短剣を構えるカミュに、ファーリスも片手剣を抜いて、目の前の兵士たちに刃を向ける。

 互いの背を守るように戦う二人。
 カミュはともかく。ファーリスは危なっかしかったが、呪文を唱えてなんとか凌ぐ。

「ゼェゼェ……!いくら倒してもキリがない……!」
 
 次々と現れる兵士にファーリスは息を切らしながら言う。

 このままでは……と思ったとき。

「待ちなさぁ〜いっ!!」

 待ちに待った声が届いた。


「アタシの仲間におイタする子はお仕置きよっ!」
「お仕置きよっ!!」

 キメキメで言う二人に「ったく」とカミュは呆れつつも笑う。

「ほらほらっ!サッサとどかないとヤケドするわよ!」

 ベロニカが得意のメラを、兵士たちの方に向けて唱える。
 混乱する場に「ファーリスさま、カミュさま」セーニャが二人を手引きした。

「セーニャ!」
「さあ、こちらにお逃げください」

 セーニャの後ろを二人はついていく。
 気づいた兵士たちが追ってくるが、

「うわぁ!」

 そこにナマエの放った矢と、王子の魔法が牽制した。

「――逃がしはせぬ」
「!三人とも逃げて!」

 気づいたナマエが叫んだ。三人は後ろを振り返る。
 ホメロスがドルマを唱え、放ったところだった。

「チッ……」
「わ……!」

 カミュはファーリスを庇い、その場に倒れる。

「カミュ!」「カミュさま……!」

 なんでボクを助け――「オレのことはかまうんじゃない!お前たちだけでも逃げるんだ!」

 叱るように言われ、ファーリスは伸ばした手を引っ込める。
 すかさず後ろから兵士が詰め寄って来た。


 ――彼らはカミュを残し、逃げるしかなかった。


「ここまで来ればもう大丈夫よ。みんな、ケガがないみたいで良かったわ」

 兵士たちをまくように逃げ、南西にあるドック近くに身を隠す。
 辺りはすっかり暗くなり、暗闇は彼らの姿を隠した。

「でも……カミュさまが捕まってしまいました。今頃いったいどんな目に……。ファーリスさま……あの時、無理やりお連れして申し話ありません」
「……いや。セーニャが謝ることじゃないさ」

 ボクがもっとしっかりしていれば……
 カミュはいつだって、ボクを助けてくれたのに。

「……それにしてもワケわかんないわね。どうして、ファーリスちゃんが悪魔の子って呼ばれてるの?」
「もしかして……デルカダール国から通達にあった悪魔の子というのは……」

 疑問を口にしたシルビアと王子に、ファーリスは「すまない……隠すつもりはなかったんだ……」と申し訳なさそうに口を開き、事情を説明する。

「本当にすまない……ちゃんと話す前にキミたちを巻き込んでしまって」

 二人の顔を見るのが怖く、ファーリスは頭を下げて視界をそらした。

「や〜ねぇ、そんなこと気にしてないわ。はじめっからファーリスちゃんは悪い子じゃないって分かっていたもの」
「僕も同じだ。君たちを信じるよ。何故、デルカダールが君たちを悪魔の子としているのか……どうにか誤解を解ければいいけど……」
「二人とも……っ」

 ファーリスが顔を上げると、二人は優しく微笑む。

「それより、まずはカミュさんを助けないとな。ステージに張り付けにされて、きっと僕らを誘きだそうとしてるんだろう」

 手段を選ばないホメロス軍師ならやりそうなことだ――王子は冷静に言った。

「カミュ……」

 ナマエは心配そうに呟く。

「町の中は兵士ちゃんたちでいっぱいね……」
「助けに行くにもあいつらに見つからないようにしないとね」
「何か良い方法はないでしょうか……」

 シルビア、ベロニカ、セーニャが順に口にした後、彼らはカミュ奪還の思案する。

「ファーリスさん……僕と服を交換しよう」
「へ?」

 意図がわからず戸惑うファーリスを、王子は隅に連れていき「王子!?なにするんだい!?」強制的に自分の服と交換した。

 服を交換した二人は、まるで元からその服を着ていたようにしっくりしている。

「確かにサイズもぴったりだし、しっくりくるけど、一体……」

 ファーリスに王子はフッと微笑んだ。

「言っただろ?僕と同じ背格好をしている君なら、僕の影武者になれるって」


 ――今度は、僕が君の影武者になる。


「お坊ちゃん……あなた、まさか……」

 自分が囮になり、兵士たちを引き付けるので、その隙にカミュを救い出すんだと王子は彼らに言った。

「おたずねもののフードを被れば……ほら、どこから見ても君だ。大丈夫。辺りは暗いしばれっこないさ」
「でも……!キミが危ないじゃないか!」
「むしろ、僕ならサマディー王国の王子だから向こうも手出しはできない。これが最適策だよ」

 強い意思を見せる王子に「意外にお坊ちゃん、頑固なのよね」と肩を竦めて言うシルビア。

 どうやら、止めても無駄らしい。

「……わかった。けど、約束してくれ。王子、必ず後で落ち合おう」
「ああ……!約束するよ」

 がしっと強く手を握り合う二人。
 涙脆いセーニャは泣いた。


 ――作戦を決行する。


「!悪魔の子がいたぞ!」
「こっちだーー!!」

 兵士たちの前に躍り出たファーリスの格好をした王子に、予想通り兵士たちは群がっていく。

「ファーリスちゃん!お坊ちゃんが兵士を引き付れてるうちに突撃するわよ!」
「ああ!行くぞ、みんな!!」

 多くの兵士が出払っており、ステージは手薄になっていた。

「ホメロス!ボクたちの仲間を返してもらうぞ!」
「……!貴様は悪魔の子!あれは偽者……?それに、その格好は……」


 ホメロスの不意をついた彼らは、勝負を仕掛けた――。



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