ボクの最恐の幼馴染み

 翌日。ファーリスのパートナーである、ハンフリーが彼を迎えにきた。

「おはよう、ファーリス!今日は予選試合だ!さっそく闘技場に行こうぜ!」

 予選抽選会が終わったあと、ベロニカとガレムソンのひと悶着を助けてくれたのが、ハンフリーだ。

「ファーリスさん。君はどんどん強くなっている。きっとこの大会でも活躍できるさ。胸を張って戦ってきてほしい」
「ありがとう、王子!」

 王子のエールに、ファーリスも笑顔で頷く。

「いよいよ、武闘会の予選が始まるな!絶対に優勝しなきゃならねえんだ。いっちょ気合い入れていこうぜ!」

 ハンフリーの言葉に、ファーリスも腕をぐるぐる回しながら気合いを入れる。

 さあ、いよいよだ。

 ――ボクだって、やるときはやるんだ!

「ファーリス。いよいよ、試合が始まるぞ。準備はできてるだろうな?」

 ハンフリーの問いに「はい」とファーリスはしっかりと答える。

「ようし、いい返事だ!それじゃあ一発ぶちかますとするか!」

 闘技場に入ると、観客席から大きな声援がファーリスを迎えた。

「お待たせいたしました!ただ今より、予選第1試合を行います!ハンフリー・ファーリスチーム!ガレムソン・ベロリンマンチーム!舞台へ!!」

 ガレムソン、昨日のヤツだ……。その隣に立つベロリンマンも大男で、重量系の二人だとファーリスは思った。

「ほお、ガレムソンか。この間の一件といい、つくづくお前とは縁があるようだ」
「チッ、いきなりチャンピオンが相手か。オレっていうヤツはどこまでもツイてないぜ……」

 そうぶつさく呟いたガレムソンだったが、相手チームの狙いはどうやら自分らしい。
 気合いの入っていたファーリスだったが、ちょっぴり怖じ気づく。
 
「両チーム、気合い十分!準備もととのったようです!それでは、予選第1試合……はじめ!!」
「こいつらはれんけい技を使う。気をつけろ!」
「オレたちの重量級の攻撃!くらいやがれ!」
「ベロベロ〜ン!いっぱいがんばるベロ〜ン」
「ボ、ボクも頑張るぞ!」

 剣を構えるファーリス。さっそく跳んできたベロリンマンのドロップキックに、慌てて避ける。
 そのまま剣と拳、お互い攻防しながら闘う。

「なかなか、やるじゃないか……!」
「キミもだベロ〜ン!」
「おっと、行かせるか!」
「さすがチャンピオン!隙がねえな!」

 ベロリンマンに加勢しようとしたガレムソンだったが、それを見過ごすハンフリーでもない。
 場はファーリスvsベロリンマン。ハンフリーvsガレムソンの構図になった。

「こうなったら……!」
「必殺技いくベロン?」

 二人は距離を取ったかと思えば、顔を見合わせ、空高く飛び上がった。
 なんだなんだとファーリスが見上げる先に、ガシッとお互いの両手を握り合う二人の姿。

「「ケツッ!!」」

 ……。ケツ!?

「「ダブルヒップアタッーーク!!」」

 二人の特大ヒップによる強烈な攻撃に、ファーリスはHPだけでなく、MPにもダメージを受ける。ついでに精神的苦痛も。

「キミたち……!なんて見苦しいものを見せるんだ……!」
「オレたちの立派なキングスライム級のケツを見苦しいだと……!?」
「ひどいベロン」
「ゆるさないぞ……!」

 ファーリスはゾーンに入る。

「うおおお……!」

 そして、怒りとともに駆け出し。彼らしからぬ気迫あふれる戦いっぷりを見せつけた。

「すごいぞ、ファーリスさん!」
「意外にやるじゃない!」
「ファーリスはやるときはやるタイプだねっ」
「ファーリスさまたち、勝ちましたわ!」

 ハンフリーも参戦し、二人で畳みかけ、やがて勝利を掴んだ。

「はは、見かけによらない戦いっぷりじゃないか」
「ハンフリーさんも、さすが前チャンピオン!お強い!」

 その後もファーリスとハンフリーは危なげなく予選を勝ち進み……ついに、決勝トーナメントへと進んだ!

「予選を突破し、決勝トーナメントに勝ちあがったのはこのチームです!」

 ステージに上がって、他のチームたちと共に並ぶ。そこにカミュの姿がいないのは、ファーリスにとって予期せぬことだった。

「ハンフリー・ファーリスチームがこのまま勝ち進み、チャンピオンの座を防衛するのか!」

 まさか、あのカミュが敗れるなんて……。相手は……

「それとも、華麗な足わざで他を圧倒した今大会のダークホース、ロウ・マルティナチームが阻止するのか!」

 あの、女闘士と老人の異色の二人に――。

「果たして優勝の栄冠を勝ち取るのはどのチームなのか!?それでは、皆さま!決勝トーナメントをお楽しみに!」

 こうして、予選トーナメントは終了した。

「あんたと組めたのはラッキーだったぜ。おかげで今回も優勝できそうだ」
「がんばって優勝しましょう!」

 カミュがいない今、なんとしてでもボクが勝つしかない……!
 そこまで考えてファーリスはおやと気づく。

 シルビアはどこに??

「それじゃ、オレはこれで失礼するぜ。孤児院で子供たちが待ってるんでな」

 ハンフリーは颯爽と行ってしまい、ファーリスも仲間たちの元へ戻ることにした。

「よっ、ルーキー!応援してるぜ!」
「かっこよかったわ!」

 道中、色んな人に声をかけられ、ファーリスは気恥ずかしくも誇らしくなる。
 鼻を高く伸ばしながら、ルンルン気分で皆を探していると――騒がしい声が耳に届き、すぐに彼らは見つかった。

「ちょっとアンタ、何やってんのよ!あんな女に負けちゃってさ!予選落ちなんて見損なったわ!」
「待て待て!相手が強すぎたんだ!あの女、タダモンじゃなかったぞ!」

 ベロニカとカミュが口論……というより、一方的にベロニカがダメだししているらしい。まあ、いつものことだ。
 ナマエとセーニャが困った顔をして「まあまあ……ベロニカさんもその辺で……」と王子が二人の間に入って仲裁している。

 やれやれとファーリスは皆の元へ歩く。

「どうかしら?そんなこと言っちゃってさ。ホントは見とれてたんじゃないの?あの人、すごいセクシーだったし……」

 じとーとした目で言うベロニカのその言葉に、はっとファーリスは気づいた。

「はは〜ん、カミュもすみに置けないな!キミが負けるなんて、ボクはおかしいと思ったんだ。そういうことなら仕方あるまい!」
「おいおい、突然現れて真実みたいに言うなよ!お前じゃねえんだから」
「そうよ、ファーリス!次の決勝トーナメント、カミュみたいに見とれて負けたら承知しないわよ!」
「あの、皆さん、その辺で……」
「だから、オレは見とれてなんかねえっ!」
「ボクだって試合になったら簡単に見とれないぞ!」
「ほら、他の人の目もありますし……」
「どーかしらね!」

 ………………。

 ファーリスも加わり、ぎゃあぎゃあと言い合う三人を、引いた目で見る三人。

「ごめん……僕の手には負えないみたいだ」
「王子さまが謝ることではありませんわ……」 
「これが三つ巴……?」

 ――どうしたものかと途方に暮れる三人は、こちらに歩いてくる足音に気づいた。

「皆さま……!あの方たち……!」
「噂をすれば……」

 セーニャの声に、王子もそちらに顔を向ける。……マルティナとロウだ。

「すまんのう、おぬしたち。ちょいと道を開けてくれんか?」
「あっ!ごめんね、おじいちゃん!」

 口論を止め、ベロニカはさっと道を譲る。

「姫よ。では、行くとしよう」
(姫……?)

 ファーリスが気になったように、王子もそれに引っかかった。
 単なる愛称のようなものだろうか。
 まさか、自分と同じ王族ではないよな……と、考える。

 悠然と歩く二人は、ファーリスの前を通りすぎる瞬間「ハンフリーに気をつけなさい」そうマルティナが警告した。

「ううむ……?」

 今度は王子の前を通りすぎようとした際、何やらロウが唸る。

「おぬしは……」
「?」

 そう呟きながらも行ってしまう。
 自分のことをサマディー王国の王子と知っていたのかだろうかと、王子は首を傾げた。

(……そういえば、"ロウ"という名前、どこかで……)


「ハンフリーに気をつけなさいって、いったいどういうこと?」

 皆の疑問を、代表してベロニカが言った。

「もしかして、行方不明事件のことかな?」
「行方不明事件?」

 彼女の言葉に、初耳だと首を傾げるファーリス。

「今、グロッタでは、大会に参加してる闘士が次々と姿を消す事件が起きているそうです。もし、ハンフリーさんの身に何かあったら……」
「……もしや、ハンフリーさんが狙われているということか!?」

 セーニャの説明にファーリスはそう結論づけた。

「大会参加者を狙ったぶっそうな事件ってやつか。やっかいなことが起きなきゃいいが……」

 カミュが神妙に呟く。もし、ハンフリーが狙われたら、一緒に組んでいる自分はパートナー不在で棄権になってしまうのではないだろうか。

「ボク、ハンフリーさんの様子を見てくる!」
「ええ、あたしたちも情報収集するから、そっちは頼んだわね」

 ファーリスは皆と別れ、下の階にある教会へと向かった。

「そういえば、シルビアはどこに行ったんだろう」
「予選突破してから見かけてないよね……」

 王子とナマエは顔を見合わせる。

「……探そう!」今度は声を合わせて、二人はシルビア捜索をすることにした。
 ウデは立つとはいえ、それなりの実力がある闘士たちが消失しているのだ。


「――……ちゃんとお坊ちゃん!二人もこっちで一緒に飲まない?」

 二人の心配をよそに、シルビアは上の階の酒場で楽しんでいた。

「シルビア……姿が見かけないから僕たち心配してたんだよ」
「あら、心配してくれたの?嬉しいわ。行方不明事件よね?」

 その件について口にしたシルビアに二人は驚いた。
 どうやらすでに酒場で情報収集していたらしい。

「でもね、サッパリよ。全然目撃情報がないの」

 残念そうに首を横に振り、シルビアは詳しく話してくれる。霧に包まれたように消えるという話に、まるで神隠しのようだとナマエは思った。

「二人も飲み物を飲むといいわ!名物のぶとうサワー、ゴリゴリのマッチョちゃんが精根こめてしぼってとってもおいしいのよ!」

 マッチョ……?と不思議に思いながら、気づけば二人も一緒にお酒を楽しんだ。

「この兄ちゃん!優男なのに強ええ!」
「腕相撲、5人抜きしたぞ……!」
「さあ!次は誰が僕に挑戦する?」
「王子……すごい」
「お坊ちゃんったら、お酒飲むとノリノリになるのねえ」

 酒場ではマッチョ相手に腕相撲で全勝する王子の姿があった。


 他の仲間たちも、行方不明事件について有力な手がかりが得られないまま、翌朝――。

 成り行きでハンフリーが住む教会に泊まったファーリスは、心配したと仲間たちに(特にベロニカ)こってり絞られていた。

「まったく。朝帰りなんてアンタにはまだ早いんだからね!」
「あんま心配かけんなよ?」
「ボクが悪かったってば……」

 気持ちを切り替え、ファーリスは闘技会場へと向かう。

「よう、ファーリス。いよいよ、試合が始まるぞ。準備はできてるだろうな?」

 予選のときと同じように、ハンフリーの問いに「はい」とファーリスはしっかりと答える。

「ようし、いい返事だ!それじゃあ一発ぶちかますとするか!」

 闘技場は、今日も大盛り上がりだ。

「さあ!始まりました!仮面武闘会、決勝トーナメント!栄えある最初の試合は……優勝候補の筆頭……ハンフリー・エルシスチームと……グロッタが誇るお色気美人コンビ!ビビアン・サイデリアチームとの戦いだ!」

 両チーム、ステージに上がる。

「ビビアンでーす」
「サイデリアでーす」

 お色気ムンムンに自己紹介した二人。最初の対戦相手はある意味強敵だった。

「うおおおおおおおーーーーー!!いいよーーー!!ビビアンちゃーーーん!!サイデリアちゃーーーん!!」
「お色気美人コンビの登場に会場は大いに盛り上がっております!私のテンションも最高潮です!」

 ステージから凄まじい歓声に、司会者もがお色気コンビ派らしい。

「両雄、並び立たず!!果たして勝つのはどちらなのか!?」
「ファーリス。色香に惑わされるなよ。決勝トーナメントまで勝ち上がった相手だ。本気でいくぞ」
「はい!もちろんです!」

 ハンフリーの言葉に、ファーリスは大きく返事した。

「それでは、決勝トーナメント第1試合……はじめ!」
「うふふ。アタシの魔法でコテンパンにしてあげる♪」
「あたいのあっつ〜い剣技でメロメロに見とれなよ!」

 開始早々、お色気ポーズをとるビビアンとサイデリア。
 一瞬でうっとりと魅了状態になる二人。

「二人の魅了攻撃に会場だけでなく、チャンピオン&ルーキーチームも魅了したぁ!」

 司会者の実況に、あちゃあ〜と、仲間たちはそれぞれがっくしポーズを取る。

「なんてことだ、ファーリスさん……!」

 王子だけが心配そうに呟いた。

「だからあんなに言ったのにぃ〜!」
「ファーリス……魅了耐性低いから……」
「お二人、やられ放題ですわ……!」
「こりゃあシルビアに賭けるしかねえな……」

 諦めモードの仲間たちだったが、突然ファーリスの動きが変わった。正気が戻ったのだ。

 一体どうして……。

 ――それは、旅立つ際にエマからもらったおまもりの効果だった。

『バカファーリス!!はよ目ぇ覚まさんかーーい!!』

 というエマの叱咤する声が脳裏に響いたのだ。
 幼馴染みの美少女というテンプレ属性のエマだが、怒るとかなり怖い。
 昔、イタズラでルキにまゆ毛を書いたら、ファーリスはボッコボコにされた。

 身震いしたファーリスは、それ以降色香に惑わされずに、同じく正気を取り戻したハンフリーと共に反撃し、二人を倒した。

 会場からのブーイングが凄まじい。

「会場の男性陣の皆さま!ブーイングはお止めください!ハンフリー・ファーリスチームの勝利です!!」
「厄介な相手だったな……」
「ええ、かなり手強いあざとさだったです……!」

 決勝トーナメントを勝ち抜き、次は準決勝だ。対戦相手は……


「おーっほっほ!!」


 どこからか謎の高笑いが響く――!



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