vsホメロスwithグレイグ〜新年編〜

「――あ!そこのサラサラ髪のお方!私はサマディー王国からやってきた使者で、ファーリス王子から手紙を預かっております!」

 ――世界を旅する勇者一行に、手紙を届けるのは一苦労だ。ファーリスは各地に兵士を派遣し、その一通は運よくイレブンの手に渡った。

「ファーリス王子……。みんなから話しには聞いてたけど、会ったことはないのよね」
「そこまでイレブンに渡したい手紙とは……なにか緊急事態かもしれぬな」

 ロウとマルティナはイレブンの手にある、ファーリス王子からの手紙を興味津々に眺めた。

「お坊ちゃんが手紙なんて、いったいどんな内容かしら」
「嫌な予感しかしねえな」
「ねえ、イレブン。早く開けてみて!」

 二人だけでなく、仲間たちも期待しながら手紙の封を切るイレブンを見守る。

 "イレブンさん、ナマエさん、皆さんへ"

 そう始まった手紙に書かれていたのは、緊急の事案――ではなく。

「年越しのお誘い?」

 手紙の内容を不思議そうにイレブンは呟いた。手紙は勇者一行へ、国に遊びに来ないかという招待状だった。
 ロウが何やらほほうと頷きながら口を開く。

「サマディー王国では、年越しを盛大に祝うのじゃ。ファーリス王子は友人でもあるイレブンたちをどうしても招待したかったのじゃな」
「カミュ。アンタのカンは当てにならないわね」
「てっきりあの王子のことだから、面倒ごとかと思ったぜ」
「そういえば、もう年末なんだね」
「一年は早いものですわね」

 ナマエはセーニャと顔を見合わせて、一年を振り返った。同じように、イレブンも振り返る。
 勇者とは何かを知る旅が、いつの間にか真実を求め、追われる旅になっていた。

 本当にこの一年、色々なことがあった。

 グレイグに追われて、ホメロスに追われて、グレイグに追われて、ホメロスに追われて……
 いや、それ以外にも楽しいことや嬉しいこともあったが。二人がしつこかったせいか、強烈に記憶に残っている。

「ねえ、せっかくだし招待を受けてサマディー王国にいかない?」

 イレブンの提案に、全員「賛成!」と満場一致だ。
 誰しも年末年始はゆっくり過ごしたいもの。
 それは、世界を救う旅をしている勇者一行も同じだ。

 シルビア号は近くの港のドッグに預け、アリスも一緒にサマディー王国へルーラで移動する。

「おお!サマディー王国は久しいが、この賑やかな城下町は変わってないのぅ」
「ここがサマディー王国……。ウワサには聞いていたけど、冬でも暖かいのね」

 ロウは何十年ぶりだと町を眺めて、初めて訪れたマルティナは、その賑わいぶりに驚く。

「ファーリス杯のウマレースの時みたいだ」
「年越しの準備をしてるみたい」
「わくわくしますわね」
「年末で浮かれすぎだな……」
「サーカスのみんなは元気かしら?」
「シルビア姉さんが顔を見せたら、皆さんきっと喜ぶでがすね!」
「さあ、ファーリス王子のところへ行きましょう!」

 年越しで忙しない城下町を眺めながら、一先ず彼らは城へと向かった。

「やあ、皆さん!今日はよく来てくれたね!手紙が無事に届いてよかったよ」

 ファーリスは変わらず元気なようだ。皆を快く出迎える。

「ん?そちらの方たちは新しいお仲間かい?」
「!おお、あなたはもしや……!」
「話せば長くなるが……久しいのう、サマディー王よ」

 サマディー王はロウとマルティナの存在に驚いた。これまでのことを話した後、再会を喜ぶサマディー王とは別に、イレブンはファーリスに話しかける。

「ファーリス王子、年越しに招いてくれてありがとう。とても楽しみだよ」
「これから夜にかけて、城下町では屋台はもちろん。サーカス団も盛り上げてくれて、サマディーの年越しは国全体でお祭り騒ぎをするんだ」

 年が変わる瞬間には花火も打ち上がるんだぞと、ファーリスは得意気に話した。
 続いてナマエへと視線を移す。熱い視線、というよりは真面目なものだ。

「じつは、相談が……ナマエさんにお願いしたいことがあるんだ」
「私?」

 ナマエ名指しのお願いに、カミュが口を挟むかと思ったが、とりあえず静観することにしたらしい。

「年が明けると、特別な儀式……一年のサマディー王国の安泰を願う行事のようなものをやるんだが、それをぜひあなたに頼みたいんだ!」
「え……」

 当然、国の大事なことを代わりにできないと断るナマエだが、ファーリスは「あなたならできる!」と、言い切った。
 なんでもそれは「流鏑馬」といい、馬に乗って走りながら矢を放ち、的に当てるというものらしい。馬に縁があるサマディーならではの伝統的な行事だ。

「毎年それを行う国一番の弓の名手が怪我をしてしまってな。ユミルと名乗る男が、自分が代わりにやろうと言ってくれたのはいいが、彼が扱うのはボウガンでね。ボウガンはセーフかアウトとかで意見が割れて、どうしたものかと悩んでいたんだ」

 ボウガンをこよなく愛する彼のことは、イレブン、ナマエ、カミュ、ベロニカ、セーニャの四人はよーく知っている。

「それで、まさに白羽の矢がナマエに立ったというわけね」
「まあ、ナマエなら適任だろうな」

 ベロニカに続いてカミュはナマエを見ながら言った。

「うん、僕も適任だと思う」
「でも、私にそんな大役は……」
「私もナマエさまにぴったりの役だと思います!」
「ナマエ姉さんの弓の腕前は文句なしでがす!」
「ナマエちゃん、自信を持って!お坊ちゃんもああ言ってるし、引き受けてみたらどうかしら?」

 皆から背中を押され、ナマエは引き受けることにした。
 サマディー王との話も済んだロウとマルティナも同じように賛成し、一行は再び城下町へ出かけた。

「なんだ、王子もついて来たのか」
「皆さんと楽しみたいから、招待したのさ」
「それにしてもその格好は……」

 初めてその姿を目にして、マルティナは苦笑いした。前にウマレースでイレブンと入れ替わった際のように、目だけ出して顔を布でぐるぐる巻きにしている。不審者っぽくて、他にやり方があったのではないかとマルティナは思った。

「さあ、まずは腹ごしらえだ!ここはボクのおごりだから、皆さん好きなものを食べてくれ!」
「あら、ファーリス王子ったら気前がいいじゃない。せっかくだから全部の屋台料理を制覇するわよ!」
「お姉さまったら……少しは遠慮してほしいですわ」

 張り切るベロニカに、セーニャは困ったように笑う。
 食べたり飲んだり、彼らは賑やかな祭りを楽しむ。
 シルビアはサーカス団の者たちに交じって、ショーを披露し、サマディーの人たちも喜んだ。

「久々のサマディー王国は楽しいの〜」
「ロウさまは踊り子に夢中だったから……」
「でも、ヒンヤリしてちょっと気持ちよかったな」
「ヒンヤリダンスなんてものが、この地にあったんだな」


 祭りを満喫していると、あっという間だ。もうすぐ新しい年を迎えると、国中がわくわく、そわそわしていた。


「そうだ。待っている間、来年の抱負を言い合わないか?」
「うむ。新しい年に目標を抱くことはいいことじゃな」

 ファーリスは「では、ボクから」と、自身の抱負を語った。

「来年はウマレースに出て、優勝するのが目標さ!」
「お坊ちゃんってば、大きく出たわね。期待しちゃうわよ」
「ファーリス王子、頑張ってくれ!なんてたって、愛馬も名馬だしね?」

 イレブンは最後にいたずらっぽく笑う。そして、そのままイレブンの来年の抱負の宣言になり、右回りに答えていくことになった。

 イレブンは一度深呼吸をすると、真剣な声で皆に宣言する。

「僕は……魔王を倒す!」

 思わず皆からおぉ!という声が合わさった。イレブンの立派な発言に皆は感動する。ロウに至っては泣いていた。「さすがわしの孫じゃ……!」酒が回っているのかもしれない。

「はは……ちょっと照れくさいな。次はカミュだ」
「オレは……とくにないな」
「あら、理由を聞いても?」
「座右の銘は「明日は明日の風が吹く」なもんで、そういうのは持たない主義なんだよ」
「まーったかっこつけちゃって!」

 じゃあカミュは保留だな、とイレブンは笑って言い、次は呆れているベロニカだ。

「その点、あたしはちゃんとしてるわよ。ずっとやりたいと思ってたことなんだけど、新しい呪文を自分の手で産み出したいわ!」
「ほう、確かに素晴らしい目標じゃな、ベロニカよ」
「あっしは魔法のことが全然わかりやせんが、新しい呪文とはすごいでげす!」

 尊敬に近い眼差しを受け、ベロニカはえっへんと胸を張った。それを見て、やれやれとカミュは肩を竦める。

「次はセーニャの番ね」
「あの、立派なお姉さまのあとで言いにくいのですが……」
「セーニャちゃん、抱負は自分が決めたことならなんでもいいのよ」

 シルビアの言葉に、うんうんと皆も頷く。セーニャはおずおずと口を開いた。

「いつも思っていたのですが、さそう踊りでの皆さまの躍りが素敵で……私もかっこよく踊りたいです!」

 そう言ったセーニャは真面目だった。今よりもっと上手に踊りたいということらしい。

「セーニャの躍りも可愛くて素敵だと思うけどな」
「僕なんかよりずっといいよ。いや、僕なんかと比べたらアレだけど」
「へぇ。セーニャさんの躍り、ボクも見てみたいな。キミは踊り子の服が似合っていた印象だ」

 ナマエとイレブンの話を聞いて、ファーリスはにこやかに言った。恥ずかしそうなセーニャだったが「アタシでよければレッスンするわよ」というシルビアの言葉に「はい!」と、嬉しそうに頷く。

「次はアタシね!アタシは戦いで使えるような芸を増やしたいわね」
「芸?火ふきみたいなやつか?」
「ええ!敵ちゃんたちも魅了しちゃうようなものを、ね♪」

 魔物との戦いも楽しくしたいという、シルビアらしい抱負だった。

「さて、わしの番じゃのう。わしの今後の抱負はたった一つなんじゃ」
「たった一つ?」

 聞き返したイレブンに、ロウは優しく笑いかける。

「長生きじゃよ。イレブン、おぬしの成長をいつまでも見守っていたいからのう」
「ロウおじいちゃん……っ」

 イレブンはじ〜んと心を震わせ、皆も再び感動した。「イイ話だ……!」ファーリスの鼻を啜る音が静かなその場に響いた。

「さあ、次は姫じゃな」
「えぇと、この空気の中、ちょっと言いづらいわね」
「そんなことないさ!マルティナ王女!」

 同じ王族のファーリスにそう呼ばれると、懐かしいような新鮮なような気分になりながら、マルティナは口を開く。

「そうね……。私はもっと料理の腕を磨きたいわ」
「マルティナが料理だなんて、ちょっと意外ね」
「ええ、料理は好きだし、自信があったんだけど……」

 そう言って、マルティナはカミュを見る。

「カミュの料理のうまさに、上には上がいるって思い知らせれたの」
「そんなことねえだろ」
「たしかに、カミュさんの料理はおいしかったな!」

 ファーリスは砂漠の殺し屋を倒しにいく際に食べた、カミュの料理の味を思い出して言った。

「あっ、ナマエさんのサンドイッチも、もちろんとてもおいしかった!」
「具材を挟んだだけだけどね……」

 ファーリスの熱意のこもった言葉に、ナマエは苦笑いする。最後はそんな彼女だ。

「私はなんだろう……思い付かなくて」
「なければなくていいだろ」
「そうね。もしくはやりたいことはないかしら?」

 やりたいこと……そう呟いたナマエは「あっ」と声を上げる。皆は次の言葉を期待して待った。

「メタルスライムを、たくさん狩りたい!」

 …………おう。

 微妙につっこみづらいとこを突いてきたな、と――カミュは思う。

「強くなりたいということですわね」
「立派な抱負だよ!」

 あ、そういうことなのか?

「メタルスライムか……あんな凶悪モンスターを狩りたいとは……さすがだ」

 ファーリスはおでこを押さえながら、惚れ直したというようにナマエを見た。
 そういえば、性悪なメタルスライムにファーリスはもて遊ばれていたなと、その場にいなかったロウとマルティナ以外の皆は思い出した。

「――おお、話をしていたらいい頃合いだな。さあ、カウントダウンが始まるぞ」

 10…9…8……

 国中でカウントするなか、ついに新しい年を迎えた。
 その瞬間、大きな歓声と共に、花火が打ち上がる。

 人々は夜通し、どんちゃん騒ぎだ。


 "明けましておめでとう!!"


 ……――新しい年の、新しい朝を迎えた。


「……言っただろう、グレイグ。あいつらは祭りが好きだと!」
「まさか、本当に追われる身でありながら、のほほんと新年を楽しんでいるとは……」


 新年の清々しい気持ちの彼らに、さっそく厄が降りかかる――。


「!グレイグ……!」
「ホメロスの野郎まで……!」

 待ち伏せしていたように、突然、人混みから二人は現れた。一瞬にして彼らに緊張感が走る。

「悪魔の子、イレブンよ……。今年は素晴らしい一年になるとは思わぬか?何故なら、お前の命運もここまでだからだ。じつに幸先いい始まりではないか!」
「まさか……新年早々に……!」
「チッ……年末年始のゆるい空気に油断してたぜ!」
「ククク……お前たちが新しい年を迎えるのを我々は待っていてやったのだ。感謝するがいい!」

 相変わらず嫌みな野郎だぜ!カミュは歯を食い縛りながらホメロスを睨んだ。

「姫さま……」

 ――ホメロスの隣で、グレイグは複雑そうな表情でマルティナを見る。

「王女たるものが朝から食べ歩きなど……デルカダール王が知ったらショックを受けますぞ!」

 しかも肉の串焼き。

「い、今はそんなこと関係ないじゃない!夜通し騒いでお腹が空いたのよ!」

 ちょっと恥ずかしそうにマルティナはグレイグに言い返した。

「ええい!一国の姫を不良に走らせるなど、罪は重いぞ、悪魔の子よ……!」
「僕!?」

 思わぬ矛先を向けられたイレブン。筋違いだけでなく、剣も向けられた。後ろに並んでいる兵士たちも、一斉に剣を引き抜く。

「面倒なことになったわね……!」
「お姉さま、ここで魔法を放つのは周りに被害が及びますわ!」
「合図をしたら逃げるぜ、イレブン!こんな街中じゃ戦えねえ!」
「うん……!」

 周囲にも異変が伝わり、ざわざわとその場がざわつく。

「さあ、お前たち!観念するがいい!」
「悪魔の子よ、成敗する!」
「ちょっと待ったーーーー!!」

 両手を広げて。イレブンたちとホメロスたちの間に割り込んだのは、ファーリスだった。

「ここはサマディー王国。たとえ友好国のデルカダールの方たちでも、ボクの国で好き勝手をすることは許されない」
「ファーリス王子……」
「チッ……」
「ファーリス王子。やつらは罪人です。そこを退いてくだされ!」

 あのへっぽこが代名詞だったファーリスの、勇気ある行動にイレブンたちは心を打たれた。

「この国の中ではこの国のルールに従ってもらう」

 …………ん?ルール?

「ここは我が国の新しい遊びで決着をつけようじゃないか!」

 …………は?

 この場にいる全員がなんのこっちゃと唖然とした。

「じつは最近、我が国の伝統的な遊びがあると古い資料が出てきてね……。その名も、"ウマボール"!」
「ウマボール……!」

 馬という単語に反応して、目を輝かせるイレブンに――カミュは今度こそ、嫌な予感……というより面倒ごとに巻き込まれる確信がした。

 ファーリスはその遊びのルールを説明する。

「ルールは簡単さ。まず、参加者は馬に乗る」

 馬に乗ったままボールを取り合い、相手チームのわっかにボールを入れると点を取ったこととなり、多くの点を取ったチームが勝ちといういたってシンプルなものだ。

「ここは平和的に勝負して、解決としようじゃないか!」
「いや、オレたちは追われる側で、あいつらは追いかける側であってだな?」

 勝負で解決とかでは……というカミュの言葉は誰も聞いちゃいなかった。

「フッ……よかろう。郷には郷に従えという言葉がある。そのウマボールとやらで勝負だ、悪魔の子よ!!」
「望むところだっ!」
「ウマボールとやらはよくわからんが、俺とリタリフォンに敵なし!!勝負を受けたことを後悔させてやろう!」
「お前らバカだろ」

 自分たちを捕まえる絶好のチャンスなのに、ノリノリで勝負に乗っかてきた。こっちは都合がいいが、そっちはいいのかよ!?

「やだ、面白くなってきたじゃな〜い!」
「イレブン!けちょんけちょんにしちゃいなさい!」
「でも、気をつけて。グレイグが言っていることは本当よ」
「イレブンとカミュなら大丈夫だよ!」
「待て待て待て」

 ナマエの言葉にカミュは慌てて待ったをかける。ナマエは首を傾げた。くそっ……きょとん顔も可愛いぜ!じゃなくてだ!

「それにオレが参加することは決定なのか」
「え、違うの?」
「むしろカミュ以外に誰がいるの」

 ナマエに続いて、当然のようにイレブンは言った。全員カミュを見て頷く。カミュに拒否権はなかった。

 ――イレブン&カミュvsホメロス&グレイグ

 第一回、サマディーウマボール勝負が開催される!!


「はっ!」

 ウマボールが開催される前に、ナマエによる流鏑馬の儀が行われた。
 場所はウマレース場にて。駆けるオレンジの上で、精神統一して放たれるナマエの矢は、見事的のド真ん中に刺さった。

 偶然ではなく必然。ナマエいわく「矢はすでに的を射抜いている」を前提に弓を引くからだ。
 これぞ弓道の究極の精神、百発成功である。

 観客たちから歓声が沸き起こり、多大の拍手がナマエに送られた。

 オレンジを連れて戻ってきたナマエは、緊張した〜と頬を紅潮させて笑う。
 ちなみに正装として、今年の干支がドラゴンなのでドラゴンローブを着ていた。

「じゃあ、オレンジ。カミュのことをよろしくね」
「はあ……。気が進まねえが、やるしかねえか」

 カミュはオレンジに跨がり、すでにイレブンはファルシオンに乗って準備万端だ。

「……では、第一回ウマボールを開催します!本来なら4人1チームで戦うそうですが、今回は因縁の対決につき2人1チームの対決です!」

 司会はオグイである。隣には何故かモグパックンもいた。

「まずは我らが友好国、デルカダールの双頭の鷲の騎士!ホメロス将軍とその愛馬、イリアス!グレイグ将軍とその愛馬、リタリフォンだ!!」

 声高々に紹介すると、観客席から応援の声が響く。ここ、サマディー国でも名騎士の二人は絶大な人気があった。

「対する二人は、我らがファーリス王子の大親友!」

 ……大親友?イレブンもカミュもそこで同じように首を傾げた。

「イレブンくんとカミュくんだ!イレブンくんは前回のファーリス杯の優勝者であり、カミュくんもウマレースで好成績を残してと、レースファンなら有名だな!イレブンくんの愛馬はファルシオン!カミュくんの愛馬はオレンジだ!」

 先ほどと同じぐらい観客席から歓声が沸く。観客席には、もちろん仲間たちもいて二人にエールを送っていた。

「では、コイントスで先制を決めます!」
「裏だ」
「表」

 ホメロスとイレブンが同時に口にした。オグイはコインを弾く。コインは宙高く飛んで――バシッ。手の甲を覆った反対の手をどければ……コインは表だ。イレブンは心の中でガッツポーズする。

 ボールはイレブンに渡され、試合は開始された。

「先に5点奪取したチームが勝ちです!」

 ――スタート!

 イレブンとカミュは同時に馬を走らせ、敵陣営のゴールを目指す。

「!」
「行かせるか!」

 黒馬が行く手を塞ぎ、思わずイレブンは手綱を引いた。黒くてでかいリタリフォンも、それに乗るグレイグも威圧感がすごい。

「イレブン!こっちだ!」

 カミュがオレンジを走らせながら、片手をあげた。イレブンは手綱を操り、ファルシオンを方向転換し、ボールをカミュに向かって投げた!

「甘い!」

 狙っていたように、カミュの手前をイリアスに乗ったホメロスが横切り、ボールをキャッチ!
 二人があっと思った時には、リタリフォンはすでにゴールを目指して走っている。ホメロスからのパスで、グレイグはボールをわっかへと入れた。

「デルカダールチームが先制点です!!」
「まあ、まだ1点だ。焦るなよ、イレブン」
「うん……!なんとなくウマボールがどんなものかわかった。こっちだって連携なら負けないさ!」

 二人は拳を合わせる。点を奪われた親友チームからのスタートだ。
 馬を走らせながら、うまくボールをパスし合う二人。

「我らは馬上での訓練も受けている。ただ走るのとでは、経験値が違うのだ!」
「くっ……」

 ホメロスはぴったりとイレブンにくっつけるように走り、妨害した。イレブンはうまく投げられず、ボールは途中の地面へと落ちる。

「ごめんっ、カミュ!」
「まかせろ!」

 カミュはそちらへとオレンジを走らせるが、先にグレイグが到達した。

「1点たりとも貴様たち……には……」

 グレイグは馬上から身体を曲げて、ボールを取ろうとして気づいた。

 手が届かない!

「ぐぬぬ……」

 ルールとして、馬から降りてボールを手にするのはアウトだ。柔軟さが足りないグレイグは、手を伸ばしても届かなかった。

「――おっさん、無理すんなよ」
「な!?」

 カミュは鞍の取っ手を片手で掴み、地面すれすれに身体を大きく仰け反る。
 オレンジを走らせたまま、ボールを手にした。器用かつ、しなやかな肉体を持つカミュだからできる芸当だ。

 ゴール前で待っていたイレブンにパスして、二人は点を奪い返した!

「フッ、やるではないか……。小柄で!背が低い!からこそできる芸当だな」
「おい、イレブン。あの長髪野郎ぶっ飛ばすぞ」
「御意」

 明確な攻撃は失格である。

 その後は、点を取って取り返しての熱い戦いが続いた。

「ボール、奪ったぞ!」
「バカめ。よく見てみろ!」

 ホメロスからグレイグへのパスを横取りしたと思ったイレブンだったが、手の中にあるボールを見てみる。

「スライム!?」
「ピキー!」
「アッハッハッ!それは囮だ!」

 そんなのアリか!?

 唖然としている間に、ホメロスはそのまま自身でゴールを決め、4−4に並んだ。

「スライムで騙すなんて……!君も投げられて許せないよね!?」
「ピキー!憧れのホメロスさまに投げられるなんて……ポッ」
「………………」

 どうやらこのスライムは乙女だったらしい。
 ホメロスは魔物にも人気あるんかい!

「カミュ……あと1点、絶対に僕たちが取って勝とう!」
「ハッ、当たり前だろ?」

 気合いを入れた二人の、見事なコンビネーションが光る。まるでれんけい技のようだ。

「いけ!イレブン――!!」

 熱戦の末、イレブンの投げたボールがわっかに入る。

「先に5点を取った、親友チームの勝利だー!!」
「やったな、イレブン!」
「僕たちの勝ちだ!」

 パチンッと片手を合わせる二人。ホメロスは汗で張りついた髪をかき上げ、グレイグはくやしそうに二人を見つめた。


「今日のところは潔く敗けを認めるとしよう。だが、今年はまだ始まったばかり。この一年、せいぜい油断せずに過ごすのだな!」
「敵とはいえ、お前たちのコンビネーション、馬との絆……見事だった。だが、次会ったときは容赦はせぬ。それまで、馬たちと共に平穏を楽しむがよい」

 ――最後に、ホメロスとグレイグは二人にそう言い残し、馬を連れて去っていた。
 
「……ねえ、カミュ。ホメロスとグレイグって良い人なのかな」
「騙されんな。今日は新年だからだ」

 二人も仲間の元へと戻る。皆からは笑顔と共に、称賛や労いの言葉で迎えられた。

「さすがだな!イレブンさんもカミュさんも!最初はどんなもんかと思ったけど、観客の盛り上がりもすごかったし、ウマボールは新たなサマディー王国の伝統になりそうだよ!」
「お前……まさかオレたちで試したんじゃないだろうな」

 疑う目でじとーと見るカミュに、イレブンは「まあまあ、お腹空いたしなにか食べにいこうよ!」と、宥めるように言った。

「それなら、新年で食べるおすすめの料理がある。モチって言って、ホムラの里の人がこの時期だけ売りにきてくれるんだ!」
「わしも遥か昔に食べたことがあるが、その名の通り、モチモチしてうまかったのう」

 皆はファーリスに案内されて、その場に向かうと――

「グレイグ。このモチとやらはなかなかうまいな」
「うむ。色んな味で食えるし、この独特の粘り気ある食感がたまらん。デルカダール王への土産にするか」
「二人とも、まだいたんだ」

 皆が思ったことを、代表してイレブンは言った。

「む。腹が減っては戦はできぬと言うであろう」
「フン、我々の食事を邪魔をするというなら切るぞ」
「いや、邪魔しないけどさ……」

 仲良く食べる理由もないので、二人を無視してモチを食べることにする。

「イレブンよ、モチつき大会なるものをやるらしい。そこで勝負するか?」
「うん、いいよ」
「次は負けぬ。優勝賞品の至高のモチこそ、王への土産にするのだ」
「お前ら、本当勝負するの好きだよなぁ」

 結局カミュも駆り出されて、イレブンとペアでモチつき大会に参加するが……

「がってんっ!」
「もっとモッチモッチにするわよー!」
「なんと力強くも美しいモチつき!二人の息もぴったりの動きだ……!」

 優勝したのは、シルビア&アリスペアだったとな。

(……あのシルビアという男。誰かに似ているような……?)

 ……はっ!


 ゴリアテ――!――!――!!!?





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ホメロスの愛馬の名前は、彼の名前の由来と思われる吟遊詩人ホメーロスの代表作から。



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