最強の称号はキミに

「どうして孤児院の下にこんな洞くつがあるのかしら……。あやしい!あやしすぎるわ!何かを隠すにはうってつけじゃない。きっと、何かあるに違いないわ。奥に行ってみましょ、ファーリス!」
「よし、ベロニカ。松明に炎を灯してくれ――」

 松明の灯りを頼りに、ファーリスはカミュ、王子と共に先頭を歩く。
 洞くつはかなり深く続いているようだ。

「魔物もいるって穏やかじゃねえな」

 カミュは襲ってきたメイジドラキーを、短剣を投げて仕留めて言った。

「この先にあの女の人とハンフリーさんがいるとしたら、行方不明事件の犯人もいるってことじゃないか?」
「事件の真相もわかるかもしれない」

 ファーリスの言葉に、王子は真剣な顔で頷いた。慎重に進もう、口にした直後「うげえ……!」ファーリスの悲鳴が響く。

「なに!?」

 ベロニカの驚きの声が反響した。前の三人に続く後ろの皆は、慌てて武器を構える。

「大丈夫だ!ファーリスが蜘蛛の糸に絡まっただけだ」

 カミュの言葉に皆はほっと胸を撫で下ろして「驚かせないでよ」と、ベロニカは構えた杖を下ろした。

「でも、ただの蜘蛛の糸じゃないみたいだ……」
「ただの蜘蛛の糸じゃないってどういうこと、お坊ちゃん?」

 王子は松明を掲げて照らすと、巨大な蜘蛛の糸がぼんやりと目の前に現れた。

「確かに、普通の蜘蛛の糸にしては大きいね……」
「うむ……蜘蛛の糸が道を塞いでおるな」

 ナマエに続いて、ロウが呟く。これだけ大きな蜘蛛の糸ということは……
 全員が同じことを考えて、ごくりと息を呑んだ。

「……ととととりあえず先に進むぞ、皆!」
「ファーリスさま、声が震えて……」
「ファーリス、蜘蛛が苦手なんだね」
「まあでも、逃げずに前に進むんだからちょっとは成長したわね」

 ファーリスはギラ!と蜘蛛の糸を焼き払い、前へ進んだ。
 途中、岩の隙間を通り抜け……

「……ふう。窮屈な場所から広い場所に出たな」
「でも、蜘蛛の糸だらけだぜ」

 奥に進めば進むほど、蜘蛛の糸は増えていき、逆に最深部へ近づいていることを教えてくれる。
 きっと、そこにこの蜘蛛の糸の主がいるのだろう。

「ファーリスさん、カミュさん。下がってください」

 一気に焼き切りますと、王子はかえん斬りで一太刀する。幾重の蜘蛛の糸は、燃えて灰になった。

(あの者は一体……それに王子とな)

 ロウは疑問が浮かんだが、今は後回しだろうと、心の中だけに留めることにする。

「さあ、皆さん行きましょう――」
「!王子ッ、後ろだ!」

 突然、王子の後ろに巨大な影がぬぅと現れた。え……?カミュの声に、王子が振り返った瞬間。

「王子ぃーー!!」

 一瞬のうちに王子は吹っ飛ばされ、壁にめり込むように激突した。

 出会い頭の会心の一撃。

 トロルは、王子を吹っ飛ばしたこん棒を、笑いながら舐めまわしている。

「よくも王子を!」
「ファーリスちゃん!ひとりで特攻は危険よ!」

 剣を手にして飛び込むファーリスに、シルビアは鞭を手にしながら続く。

「ドルマ!」

 いち早くロウは呪文を唱え、ベロニカのイオの呪文も炸裂する。

「マヌーサ!」

 セーニャはトロルに幻惑の呪文を唱えた。

「かかりましたわ!」

 うまく呪文がかかり、トロルは見当違いな方向にこん棒を降り下ろした。

「うぉ!」
「わっ!」

 その衝撃は辺りを揺らし、彼らの足元を襲う。

「ちっ、他の魔物も集まってきたぞ!」
「そっちはまかせて!」

 ナマエは弓を構えて矢を放ち、追撃するようにシルビアが鞭を振るう。
 彼らは一致団結して、魔物と戦った。
 集まってきた魔物たちを蹴散らし……

 これで、とどめだ――!

 ゾーンに入ったファーリスの渾身の一撃で、トロルは倒れる。早く王子の無事を……!

「いたたた……すみません、皆さん。油断してしまって……」
「え、あ、王子……!」

 その王子は痛そうにしていたが、普通に立ち上がる。
 見たところ、血の一滴も出ていない。
 あれ、トロルの会心の一撃を喰らって、もろに壁にめり込むほど叩きつけられてなかったっけ……?

 ぽかんとする皆に、セーニャだけが胸に手を当て、ほっと撫で下ろした。

「ご無事でなによりですわ。てっきり王子さまの頭に直撃したので、もげているのではと……」
「ちょっとセーニャ……。アンタ、時々恐ろしい想像するわね……」
「はっ、頭……!王子、記憶は大丈夫!?」
「記憶……?」
「確かに、お前はそこが心配だろうな……」


 ――なにはともあれ。洞くつに巣食う魔物たちの襲撃を脱し、彼らは最深部へたどり着いた。


「ふむ、姫よ。ごくろうであったな」
「……?」

 そこには探していたマルティナの姿がありに、まるで"計画通り"というように、ロウは声をかけた。その言葉に、ファーリスは首を傾げるが、それよりも……

「ハンフリーさん……?」

 魔物側に立つハンフリーに、ファーリスは困惑した表情を向けた。
 ロウの話から、行方不明事件のすべてが判明する。
 
「勝ち進んで金を手に入れるためには、強者のエキスが必要だったんだ。孤児院を守るためならなんだってするぜ」
「いくら孤児院のためだからって……誰かを傷つけてまで……。いや、誰かだけじゃなく、あなたを慕う子供たちだってこのことを知ったら傷つく!」
「ファーリスさん……」

 ファーリスの言葉に、ハンフリーは痛ましげに目を逸らす。しかし、次の瞬間にはその目を見開き、彼らに言った。

「すまない!この秘密を知られたからには、お前たちを生かしておくワケにはいかん!」
「ハンフリーさんっ、もうやめてくれ!ボクはこんな形であなたと戦いたくない!」

 必死に説得しようとするファーリスに、彼は"本当に優しい人"だと王子は思う。隠された事情を知り、罪の重さと天秤にかけることなく、彼の弱さに無償の優しさを向けることができる――と。

「ファーリス、無駄だ!戦えねえってんなら、お前は下がって……」
「……っ!?ハンフリーさん……!」

 突如、胸を押さえ苦しむハンフリー。ファーリスは思わず駆け寄ろうとし、カミュがその腕を掴んで止めた。

「くそっ……。こんな時に……」
「やれやれ……。おろか者め……。自分の身体のこともわからぬとはな」

 哀れむような目を向け、ロウがハンフリーに言う。

「おぬしの身体はあのエキスのせいですでにボロボロじゃ。そうして立っていられるだけでも奇跡といえよう」
「ふふ……。情けないな。これも魔物のチカラに頼った報いか……」

 弱々しい自虐の笑みを浮かべ、その言葉を最後にハンフリーは倒れた。

「シュルルルル……。これ以上、使い物にならんか。しょせんは軟弱な人間よ……」
「……ファーリスさん。一番の悪はあの魔物だ。あいつを倒すぞ」
「……っああ!」
「ならば、このアラクラトロさまが直々に貴様らを始末してくれるわ――!!」

 アラクラトロ。巨大蜘蛛の魔物は、肌を突き刺すような殺気と威圧感を放つ。

「私はみんなを救出する!魔物のほうはあなたたちにまかせたわ!」
「代わりにわしが加勢しよう。攻撃、回復呪文はまかせい!」

 ロウが加わり、アラクラトロとの戦闘が始まった。
 あのグレイグも仕留められなかった恐ろしい魔物だが、きっと大丈夫だ。

 なんてったて、こっちにはレベル99の王子がいる!

「メダパニーマ!」

 アラクラトロが唱えたのは、上位の混乱呪文だった。

「はれ……?」
「きゃっ」
「なによこれ〜!」

 呪文にかかったのは、ファーリス、ベロニカ、シルビア……そして。

「……???」

 王子…………!!

「やばいぞ、早く王子の混乱を解かねえと!」
「魔物にやられるより全滅の危機が……!」
「すみません!私、混乱解除の呪文は覚えてないんです……!」

 カミュ、ナマエ、セーニャは予想外の事態にパニックになる。

「やい!貴様、なにヤツ!」
「みんなでコサックダンスを踊るわよ〜!」
「さあ、最終最大秘法究極古代大魔法をくらいなさーい!」

 正直、あとの三人の混乱はほっといてもいい。
 だが、混乱した王子が万が一こちらに攻撃してきたら、即全滅もありえる……!

「さっそくわしの出番じゃな!キアラル!」

 白く輝く光が、全員の混乱を打ち消す。

「じいさん、やるじゃねえか!」
「よかった……!」
「助かりましたわ!」
「ほっほ。伊達に老いぼれてはおらんわい!」

 混乱魔法の対策はばっちりだと思った彼らだったが、アラクラトロは小賢しく、動きを封じる"呪縛糸"など、状態異常の攻撃ばかりしてくる。
 その対応に追われている間に、"死グモのトゲ"で全体攻撃をしてきた。

 彼らは確実に追い詰められてた。

 レベル99の王子がいても――いや、逆に一人だったら勝てたかも知れない。

「どうしたどうした?虫の息か?」
「くっ……」

 地面にうつ伏せに倒れたファーリスは、手に力を入れて立とうとも、上手く力が入らない。その隣では、同じように王子も倒れている。最後まで、皆を庇ったからだ。(王子でさえ、敵わなかったんだ……)

 ボクなんかじゃ……

 起き上がる体力も、気力も、ファーリスには残っていなかった。

 ……あぁ。ボクの旅も、ここまで――……

「諦めるな、ファーリスさん!」
「おう、じ……?」
「君は、ここで終われるような人じゃないだろう!君には可能性がある……!」
「可能性……?」

 空色の王子の瞳が、まっすぐとファーリスを貫くように見つめる。

「僕はレベル99だ……。能力はカンストして、もう強くなれない……成長は止まってしまっている」

 どこか悲しげな王子の言葉に、はっとファーリスは気づいた。最強だと思っていたが、逆にそういった見方もできるのだと――

「でも、君は違う。これからもっと強くなれる。それこそ、僕以上に強くなる可能性がある!だって、君は勇者だろう?」

 ……そうだ。ボクは勇者だ。悪魔の子と呼ばれようとも、ボクは世界を救う勇者だ。
 いや、世界を救わなきゃならない――!

「王子……ボクは強くなる」
「…!ああ、ならこんなところで終わってはだめだ」


 立ち上がる王子の横で、ファーリスも手に力を込め、次に身体に力を込め、立ち上がった。


「お前ばかり……いい格好はさせないぜ」
「カミュ……」
「一緒に戦うよ、ファーリス」
「キミも……」
「アンタの決意、ちゃんと聞いたからね!」
「ベロニカ……」
「ファーリスさまは一人じゃありませんわ」
「セーニャ……」
「ファーリスちゃんとお坊ちゃんにシビレちゃったわ〜!アタシも負けてらんない!」
「シルビアも……」

 ――仲間たちも次々と立ち上がる。

「……いい仲間と出会えたのぅ……」

 ロウは皆に聞こえぬ声で、こっそり呟いた。

「シュルルルル。いくら足掻こうが無駄だ!そうだ……とくに闘気が凄まじいお前の生命力を奪ってやる!」
「うっ……!」
「王子!!」

 アラクラトロは糸を吐き出し、王子を捕まえる。絡んだ糸から王子の生命力を吸い取ろうとして……

「うぅ!?ぐはっ……!」

 アラクラトロはいきなり苦しみだし、仰向けに倒れた。なんとそのまま、動かない。

 ……え、倒した?

「自爆……?」

 呆気ない最後に首を傾げる王子に、皆も唖然と固まる。

「ううむ……。たぶん、おぬしの生命力を吸おうとしたところ、エネルギーが強すぎて逆にダメージになったのじゃろう」
「……!?」


 ロウの見解を聞いて、皆は思う。
 やっぱ王子、最強じゃん!


 ――アラクラトロを倒し、マルティナから拐われた者たちは皆命の別状はないと聞くと、彼らの顔に安堵の色が浮かんだ。
 意識を取り戻したハンフリーは、魔物に手を貸し、悪事を働いたことについて後悔した。
 けれど、そうさせたのは孤児院を守りたいという善の心だ。

「わしはここの町長にツテがあってのう。孤児院については悪いようにはせん。なんとか手を打つようはたらきかけてやる。だから、安心して人生やり直すがよい」
「すまない……。本当にすまなかった……」

 涙を流すハンフリーの姿を、ファーリスは慈しみのある眼差しで見守る。
 グロッタ行方不明事件は、こうして幕を閉じた――。


 *


「ファーリス、起きて……」

 ……………………。

「ねえ、起きて……」

 ……んん?
 ……いったい誰だい?

「起きてったら!」

 ……ベロニカ?ああ、それともキミかな?
 ……もう少しだけ寝かせて……

「ファーリスちゅわ〜〜ん!」
「うわあああ!」

 視界いっぱいにシルビアの顔が映って、ファーリスは悲鳴と共にベッドから転がり落ちた。

「ファーリスちゃんってば、アタシを見てそんなオバケを見たような声を出すなんて……ひどいわ……!」
「シルビア……ご、ごめんっ。寝起きにドアップはびっくりして……」
「ウフフ、ジョーダンよ!さ、ファーリスちゃん、出掛ける準備をして!闘技場に急ぐわよ」
「闘技場?」

 延期になった表彰式を、本日行うらしい。

 ――満員の観客席は、今か今かとチャンピオンの登場を待ちわびていた。
 その中には、行方不明になった闘士たちの姿もあった。

「……そういえば、あのお二方の姿が見当たりませんわね」

 セーニャは顎に人差し指を当てて言った。ロウとマルティナのことだ。

「あら、そうね。参加者の客席にはいないみたいだわ」
「そういやあ、昨日あの後ふらりと消えたな」
「もうこの町から出ていっちゃったのかな?」
「僕、あのご老人に心当たりがあったから話をしたかったんだけど……」
「あら、お坊ちゃんが心当たりって――」

 シルビアの問いかけは歓声によってかき消された。
 司会者がステージに現れ、いよいよ表彰式が始まるからだ。

「それでは、改めて表彰式を行います!ハンフリー・ファーリスチーム!どうぞ舞台へ!」

 仮面を着けたハンフリーとファーリスがステージに上がると、観客席中の拍手が出迎える。

「それでは、優勝賞品の……」
「ちょっと待ってくれ!!」

 ハンフリーの制止の声が響き、拍手はぴたりと止まった。

「ファーリス!優勝賞品をかけてエキジビションマッチをやろうぜ!どちらか上か白黒つけようじゃないか!」

 ハンフリーの提案に、会場は大盛り上がりだ。彼らだけには、ハンフリーの真意はすぐにわかった。

 きっと、彼なりのけじめだろう。

 司会者の了承のもと、二人は本気でぶつかり合う。優勢はファーリス一方だったが「まだまだ……!」正々堂々、何度でも立ち向かうハンフリーの姿は、彼らの目に焼きついた。
 やがて決着はつき、彼は潔く闘技場を立ち去ろうとする。

 その背中には、たくさんの称賛の声がかけられた――。


「それでは、チャンピオンであるファーリスさんに、優勝賞品である虹色の枝の贈呈に……」
「ついに虹色の枝が手に入るのね!」

 ベロニカの嬉しそうな声に、仲間たちも同感して頷く。

(虹色の枝が手に入るということは……)

 王子も嬉しそうにしながらも、どこか寂しげに会場を見つめた。

(僕の旅もここで終わりだ)

 ――きっかけは、自分の影武者になってくれるお礼として、虹色の枝を譲るという約束だった。
 それがサマディー王の不手際により売り払ってしまい、その償いとして、虹色の枝が手に入るまで、彼らの旅に同行することに決めて……

 その旅も、いよいよ終わろうとしている。

「た……大変です!!」
「……?」

 そのとき、関係者の武骨な男が血相を変えて闘技場に飛び込んできた。


「虹色の枝が盗まれてしまいました!」


 その言葉に、一瞬で会場がどよめく。

「ぬ、盗まれただって……!?」
「ちょっとどういうことなの!?」

 カミュとベロニカも声を荒げる。

「虹色の枝があった場所にはこの仮面が……この手紙はあなた宛てのようです」

 武骨な男の手にある仮面は、たしかロウが身につけていたものだ。ファーリスは手紙を受け取ると、すぐさま目を通す。

「一体、手紙にはなにが……?」
「な……なんと最後に思わぬ大波乱!!優勝賞品の虹色の枝が、ロウ選手によって盗まれてしまいました!」

 セーニャが怪訝に呟いた直後、横から手紙を覗き込んだ司会者が、会場全体に伝わるように大声で話す。

「果たして、ファーリスさんはユグノア城跡で虹色の枝を取り返すことができるのでしょうか!!」
「ユグノア……!?」

 ほぼ同時に、ナマエと王子の口からその地名が飛び出した。

「ユグノアって……もしかして……」
「……ああ。あいつの本当の故郷だ」

 シルビアの問いに、カミュが神妙に答えた。
 何故、ロウが虹色の枝を盗み、よりにもよってファーリスの本当の故郷である、ユグノア城跡に来いと指定したのか。


 わからないことだらけだが、一つだけ、確かなことがある。


「ファーリスさまっ!まことに……まっことに申し訳ございませんっ!!今回、優勝賞品が盗まれたのはひとえに我ら運営側のミスでございます。なんと、お詫びしたらよいのやら……。しかし……盗まれた賞品につきましては、こちらでは責任を負いかねます。すみませんがそういう規則ですので……たしか犯人はユグノア城跡で待つ……手紙にはそう書かれておりましたし、そちらに向かってみてはいかがですかね?」
「盗まれたものはしかたありません。ボクたち、取り返しに行ってきます!」

 ずらりと並べられた言葉は、逆に言い訳に聞こえなくもないが、受け付けの男の平謝りに、ファーリスはニコニコと答えた。

「そうね。盗まれたものはしょうがないわ」
「ああ、盗んだヤツが悪いからな」
「それ、元盗賊のアンタが言う?」
「皆さんのせいじゃありませんわ」
「取り返せばいいだけだしね」
「ええ!ちょっとおあずけになっただけよ」

 ファーリスだけでなく、仲間の彼らも責めることなくニコニコとして言った。
 お叱りの一つや二つ、飛んできてもおかしくないと思っていた受け付けの男は、拍子抜けする。

「ね、お坊ちゃんもそう思うでしょ?」
「……え」
「王子。王子がボクらの旅に同行してくれるのは、虹色の枝が手に入るまでの約束だ。その虹色の枝が盗まれたということは、取り戻すのに、一緒に手伝ってくれるんだろう?」

 したり顔で言うファーリスに、最初はきょとんとしていた王子だったが、すぐにその顔は綻ぶような笑顔になる。

「ああ、もちろん!ユグノア城跡へ、虹色の枝を取り返しにいこう!」

 虹色の枝が手に入るのは嬉しいが、彼らだって、王子が仲間から抜けるのは寂しい。

 災難であっても、王子ともう少し旅を続けられるのだ。

 盗まれた虹色の枝を取り返すため、彼らは元気にグロッタの町を出発した。



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