旅は終わらない

 夜が明けると、雨は止み、嘘みたいに穏やかな日差しが届く。

「ファーリスとマルティナさんは大丈夫かな……。それに、王子の姿も見えないね」

 ナマエ、ロウ、ベロニカ、セーニャは、カミュとシルビアとは合流でき、残りの三人を城下町の広場で探していた。
 辺りにはデルカダールの兵士がいないので、引き上げたようだが……。

「……あら、お坊っちゃーん!」

 シルビアがその姿に気づき、大きく手を振った。王子はとぼとぼと歩いており、この世の終わりのように表情が暗い。
 皆は顔を見合わせ、王子のもとへ駆け寄る。

「王子、無事だったんだね!」
「王子、なにかあったのか?」
「……っ」

 ナマエとカミュの言葉のあと、王子は勢いよく皆に頭を下げる。

「すまない……!ファーリスさんとマルティナ姫を僕は助けられなかった……!」
「イレブン王子よ、一体なにがあったのじゃ?」

 ロウは責めることなく、穏やかな口調で王子に尋ねた。王子はあったことを話した。グレイグに追いつめられたファーリスが崖から落ちて、助けようとしたマルティナも一緒に渓谷に落ちた……と。

「下流を探したけど、二人は見つからなくて……。僕が、グレイグ将軍を説得できていれば……!」
「お坊ちゃん、自分を責めてはだめよ」
「ファーリスさまはやる時はやるお方なので、きっとマルティナさまと共にご無事ですわ!」

 シルビアとセーニャが王子を励ましている際、ベロニカはこちらに歩いてくる人物に気づく。

「王子。大丈夫みたいよ」

 ほら、見て――と、ベロニカが指差す方向には……

「おーい、みんなー!」

 元気よく手を振るファーリスの姿と、その隣にはマルティナの姿もあった。

「ファーリスさん……!マルティナさんも……!よかった、無事で……!」

 駆け寄る王子の瞳は潤んでいる。

「ずいぶん心配かけちゃったみたいね。イレブン王子」
「ボクたちは大丈夫さ!ほら、この通りピンピンしてる!」
「そうやってすぐに調子乗っちゃって。どーせマルティナさんに助けてもらったんでしょ?」
「ム。ボクだって、ちょっとは頑張ったよ」
「二人がご無事でなによりですわ」

 全員で無事を喜びあっている中、

「ロウさま……。ご心配をおかけしました。グレイグの襲撃を受けましたが、なんとか逃げきることができました」

 マルティナは詳しくロウに事情を話した。

「……うむ。グレイグには確かめたいことがあったが、それには及ばぬようじゃな……。やはり、今のデルカダール王国には魔物がはびこっておると見て、間違いないだろう」
「まさか、デルカダール王国が……」
「確かに地下にはドラゴンがいたし、ホメロスは魔物と繋がっていたもんな」

 信じられない、とショックを受ける王子に、納得というようにカミュは呟いた。

「はるか昔……栄華を誇ったとある王国は魔物が化けた奸臣かんしんによって滅ぼされたという。その魔物の名は……」
「そ、その名前は……」
「ウルノーガ……!!」

 ウルノーガ――全員が心の中で、その名前を繰り返す。

「そやつこそ、はるか昔より暗躍し続ける邪悪の化身よ。おそらく、今のデルカダールもその魔物が牛耳っておるのじゃろう」
「じゃあ、その魔物を倒せばいいんだな!」
「お前はそう簡単に言うがな……」

 楽天的に言うファーリスを、呆れて見ながらカミュは言った。そんな前向きな孫に「まあ、そういうことじゃな」と、ロウは微笑ましく笑った。

「よいか、ファーリスよ。この世に生きるすべての者たちのために、おぬしはウルノーガと戦わなければならぬ」

 次に表情を引き締めて言った言葉に、ファーリスは真剣な顔で頷いた。

「邪神なきこの時代に勇者としておぬしが生まれたのは、そのために違いない」
「それがボクの使命ってやつか……」
「……だが、ウルノーガは未知にして強大。闇のチカラをまとったおそろしいヤツじゃ。無策でヤツに立ち向かうことはできまい」
「闇のチカラ……。私、聞いたことがあります。命の大樹には闇のチカラをはらう何かが眠っていると……」

 ロウの話を引き継ぐようにセーニャが口を開く。

「やはり、お姉さま。ファーリスさまを連れ、命の大樹に行かなくては……」
「ええ、そうね!」
「ファーリスよ。この枝を持て。この虹色の枝はかつて、命の大樹の一部であったもの……勇者のチカラを持つおぬしならば、大樹への道のりについて、何かを知りえるやもしれぬ」

 ついに、虹色の枝はファーリスの手に渡った。枝を受け取ったファーリスは念じるように目を閉じ、王子はその様子を見守る。

「どうだ?何か見えないか、ファーリス?」

 カミュの問いに、ファーリスは目を開け、皆に言う。

「全然、なんにも、まったく見えないぞ!」

 何故かドヤ顔で言ったファーリスに、カミュたちはずっこけそうになった。

「何も見えないって……その枝まさかニセモノ!?どうなの王子!?」
「そうなのか、王子!」
「ここにきてそりゃあないわよ!」
「ニセモノなのかい!?」

 ベロニカとファーリスはぎゃあぎゃあと王子に詰めよる。

「国宝だし、そんなはずは……!あ、いや、でも……ええ?」

 めちゃくちゃ困惑している王子に、ロウが助け船を出した。

「ほっほっほ。まあ、仕方あるまい。これからは、わしと姫も同行し、命の大樹への生き方を見つけるとしよう」

 虹色の枝はさておき、ロウとマルティナという、頼もしい二人が仲間に加わった。
 わいわいと皆は二人を歓迎するなか、王子だけはずーんと落ち込んでいる。
 ナマエは王子に「元気出して」と励ました。

 ……あ。

「待って、ファーリス!」
「なんだい?」
「虹色の枝を左手に持ってみたらどうかな。不思議な根っこが反応するときって、左手のアザに反応してない?」
「いやいや、そんな持ち方を変えただけって単純な……」
「おい、ファーリス、枝が……」

 笑いながら左手に持ってみるファーリスだったが、虹色の枝は輝き出した――……

「ちょっと!なによ、今の!?アタシにも見えたわよ!」
「ああ、オレにも見えた」
「僕にも見えるなんて、不思議だ……」

 虹色の枝が見せた不思議な光景は、その場にいる全員が見たようだ。
 
「お姉さま!もしや、あの祭壇に6つのオーブを捧げれば、命の大樹への道が開かれるということでは!?」
「ええ、きっとそうだわ!」
「よし、みんな!オーブを探す旅だ!」
「すげぇ……大樹への行き方がわかっちまった。これが虹色の枝のチカラか……。ここまで探し求めてきたかいがあったぜ」

 ……それはそうと。

「おい、虹色の枝をニセモノ扱いしたそこの二人。ファーリスとベロニカ。王子に謝れ。ごめんなさいしろ」
「「王子、疑ってごめんなさい」」
「いや、僕は大丈夫だよ……?」
「あとファーリスはこいつに感謝な」
「ありがとう!!キミのおかげだ!」
「ど、どういたしまして……」

 虹色の枝のニセモノ疑惑も晴れて、ファーリスの手に二つのオーブが集まった。
 カミュが持っていたレッドオーブと、ロウとマルティナが仮面武闘会でもらったイエローオーブだ。

「カミュ、本当にレッドオーブをもらっていいのかい?」
「オレがいいって言ってんだからいいんだよ」

 どのみちオーブがないと命の大樹には行けないようだから、貰わないわけにはいかないが。ファーリスは再度カミュに礼を言って、オーブをしまった。

「祭壇のあった場所は命の大樹の真下……おそらく『始祖の森』と呼ばれる秘境じゃろう。ファーリスよ。道は決まったな。残り4つのオーブを集め、始祖の森の祭壇に捧げるのじゃ」

 残り4つのオーブ……どこにあるのか、全員の知恵をしぼっても見当がつかない。

「とにかく、今は手がかりがない。世界中、くまなく回って情報を集めるほかなさそうだな」

 ここにいてもいつデルカダール兵士が戻ってくるかもわからないので、とりあえず、彼らはシルビア号へ戻ることにする。
 
「うむ。世界中をくまなく回るにはまず、ソルティコの町にある水門を抜け、外海へと出るのがいいじゃろう。幸い、ソルティコの町にはジエーゴという知り合いの領主がおる。わしが頼めばこころよく水門を開けてくれるじゃろうて」
「さすがボクのじいちゃん、顔が広い!」
「ホッホッホッ。わしにまかせよ、孫よ!」

 調子よく笑うファーリスとロウ。この二人は似ていると皆は思った。

「………………」
「……?」

 一人、浮かない顔をしているシルビアに気づいたセーニャは、不思議そうに首を傾げる。
 ――その理由を王子は知っているが、勝手に口に出すことはない。

 それより……王子は足を止める。

「皆さん、僕はここでお別れだ――」

 その言葉に皆は足を止め、はっとする。そうだ、王子が旅に同行するのは虹色の枝が手に入るまでの約束……。

「王子、最後までボクたちと一緒に旅をしよう!ボクにはキミの力が必要だ」
「そうよ!へっぽこ勇者のファーリスじゃ、なにかと心配だもの」
「私も王子とこれからも一緒に旅をしたいな」
「ええ、私もですわ」
「乗りかかった船……だろ?」
「お坊ちゃんはみんなの人気ものね。アタシもお坊ちゃんと旅ができなくなるのは寂しいわ」

 皆が王子を引き留めた。付き合いの浅いロウとマルティナは黙ってことの成り行きを見守る。

「皆さん……ありがとう。そう言ってくれて嬉しいな。これまで君たちと旅をして、本当に楽しかった。これからも君たちと旅をしたいと思う」
「じゃあ……!」

 ファーリスは期待して言ったが、王子はゆるゆると首を振る。

「僕は……一国の王子だ。グレイグ将軍にも言われたんだ。自分の立場を忘れるなって。僕は、君たちとは一緒に行けない。でも、今度は一国の王子として、君たちのチカラになりたいと思う」
「王子……」
「あやつの息子とは思えんわい。イレブン王子よ、己が信じる道をゆくのじゃ」

 ロウの言葉に、王子は微笑を浮かべて「はい」と答えた。

「王子……!ボクたちの旅についてきてくれてありがとう!これからも、キミはボクたちのかけがえのない仲間だ……!」

 ファーリスの言葉に、ロウとマルティナも含め、全員が大きく頷く。……その言葉だけで十分だ。

「皆さん、ありがとう……!もし、僕のチカラが必要な時があれば、いつでも城に訪ねてくれ。その時は必ずチカラになろう!」

 その言葉を最後に、王子はキメラのつばさを使って、サマディー王国に帰っていった。

「……ほら、ファーリス。泣いてねえで行くぞ」
「っ……う、うん……!」
「ファーリスよ。出会いがあれば別れもある。別れて、出会う……その繰り返しが人生じゃよ」

 王子という大きな喪失感を抱えながらも、足を止めるわけにはいかない。
 この場所から、勇者一行は新たに旅立つ――。


 ……そして、時は流れて……


「やあ、ファーリスさんたち。遊びにきてくれたのかい?」

『イレブン王子を冒険に誘いますか?』

 →はい
 いいえ

「僕のチカラが必要なんだね?わかった、ついていくよ!」

 王子がパーティーに加わった!

 ――ことあるごとにファーリスはサマディー王国に訪れ、王子をパーティーに加えていた。
 今となっては、むしろ王子がパーティーから離脱しているほうが少ない。


「さあ、王子もパーティーに入れたし、出発よー!」
「ファーリス、あんまり王子を連れ歩くなよな」
「今回はどこに行くんだ?」
「フフ。お坊ちゃん、きっと驚くわね」
「ああ、これから海の底にいくのさ!」
「海の底?」
「海の底に、人魚の王国があるんだって!」
「人魚って……あの人魚!?」
「あの人魚ですわ、王子さま。あ、王子さまと人魚……ロマンティックですわね!」
「ほほう、イレブン王子も人魚に興味があるのじゃな?すみに置けないの〜」
「もう、ロウさまとイレブン王子では意味合いが違うでしょう」
「さあ、王子!準備はいいかい?」
「もちろん!」


 彼の名は、サマディー王国のイレブン王子。

 建国以来もっとも優秀な王子であり、あの魔王討伐にも加わった勇者の友と、その名は未来永劫、語り継がれるだろう――。


END



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