勇者一行には定期的に立ち寄る場所がある。
――乙女の学び舎、メダル女学園だ。
旅する最中で手に入れた、小さなメダルを景品と交換するためである。
ソルティコの町にある出張所でもいいが、学園にはうちなおしの宝珠ショップや、メダ女購買部では鍛冶に使う素材なんかも売っているので。
「乙女じゃなくて、むしろイレブンのためにあるような場所よね」
ベロニカが言う通り、イレブンは好んで今日もメダル女学校へとやって来ていた。
「王立メダル女学園へ、よくぞ参られましたな!」
「メダル校長、こんにちは!」
貯まったメダルを交換してもらい、次にショップや購買部がある食堂に立ち寄るのがお決まりだ。
疲れが溜まっていれば、そのまま宿屋としても利用することもある。ここの学食も文句なしにおいしい。
すっかり客員生徒と馴染んでいるイレブンは、学園の先生方とも顔見知りだ。
「あら、いらっしゃい、かわいい旅人さん。あなたたちのことを待っていたのよ」
「僕らのことをですか?」
色っぽくイレブンたちに言ったのは、ルージュ先生だ。
ルージュ先生は「メープルがあなたたちと話をしたがってたのよ」と、続けて彼らに言った。
「メープル?」
勇者が聞きなれない名前に首を傾げると、ナマエが説明する。
「おおきづちの女の子の名前だよ、イレブン。メダ女新聞部の部長なんだって」
以前怪鳥の幽谷で拾った新聞を届けたきっかけで、親しくなったらしい。
あれかぁ……とイレブンは思い出してちょっぴり複雑な思いを抱く。何度もここに訪れているが、あの一件以来、ブリジットとは顔を合わせていない。
「そのメープルちゃんがアタシたちに話ってなにかしらね?イレブンちゃん、訪ねてみましょう!」
シルビアの言葉に勇者は頷いて、二階へと上がった。ナマエの案内に、メープルは新聞を張りつける掲示板の前にいた。
「あ、旅人さん!旅人さんにお願いがあって来るのを待っていたんだよ!」
メープルは勇者一行の姿を目にすると、明るく声をかけた。
魔物でもここの立派な生徒なのに、木槌は肌身離さず持っているんだな、とイレブンは思う。
「メープルさん、私たちにお願いって?」
「お願いというのは……」
ナマエの問いに、メープルはつぶらな瞳で一行を見回しながら、さっそくそのお願いを話す。
「次号の特集コーナーで、旅人さんたちの特別インタビューを組みたいんだ!」
初めての男子の客員生徒と、勇者一行は話題の者たちだ。世界中を旅しているということもあり、女生徒たちの興味は尽きない。
「へぇー!インタビューなんてちょっと有名人になった気分ね」
「インタビューなんて、ちょっと照れてしまいますわ」
すでにインタビューを受ける気満々の双子に、カミュが「まだ引き受けると決まってねえだろう」と、呆れてつっこんだ。
「私は引き受けていいわよ。……むしろ、お母さまが通ったこの学園と関わりが持てて嬉しいわね」
「わしも歓迎じゃ。メダ女新聞に載るとは光栄じゃのう」
マルティナとロウは快く言った。
「インタビューって?」
「質問に答えたり、自分たちのことをよく知ってもらうことよ」
ナマエの疑問に答えたのはシルビアだ。シルビアももちろん歓迎で、彼女はイレブンが引き受けるなら……という風だ。
そして、イレブンは……
「インタビュー?いいですよ」
「ありがとう!きっと次号は素晴らしい新聞になるよ!」
当然のように笑顔で引き受けて、乗り気でないカミュは、諦めのため息を吐いた。
さっそく彼らはメープルからインタビューを受けることになって、新聞部の部室に案内される。
「事前に旅人さんたちに聞きたいことを募集したら、たくさんの応募があったんだよ。厳選して聞いていくね!じゃあ……まずはあなたから!」
「オレ?」
イレブンじゃなくて?最初に指名され、カミュはメープルを見る。
メープルは木槌を置いて、代わりにノートとペンを持った。おおきづちが木槌を手放す姿はレアな光景かもしれない、とカミュは思う。
メープルによる、カミュへのインタビューが始まった。
「カミュさんだよね。歳はいくつ?」
「秘密」
「じゃあ出身地は?」
「秘密」
「好きな食べ物」
「ノーコメント」
「好みのタイプは?」
「……ノーコメント」
そこまで答えて「ちょっと!」ベロニカがテーブルにだんっと両手をついて立ち上がった。
「アンタ、やる気なさすぎ!ちゃんとインタビューに答えなさいよ!」
「答えたくねえもんは答えたくねえ」
「まーた子供みたいなこと言っちゃって!」
「子供はそっちだろ、おチビちゃん?」
「……えぇと二人は仲が悪いの?」
「メープルさま、気になさらないでください。いつものことですから」
カミュとベロニカのお決まりの口喧嘩が始まり、つぶらな瞳をぱちくりさせるメープルに、セーニャがおっとりと言った。
「カミュのことは代わりに僕らが答えます」
メープルにそう言って、イレブンはナマエと顔を見合わせた。
「出身地はわからないけど……」
「年齢は19歳。カミュが言ってたから確かだ」
「好きな食べ物は煮込み料理って言ってたよね」
「うん。好みのタイプは…………青い髪の人かな」
「そうなんだ!」
「おいおいイレブン、でたらめ言うなよ!」
慌てて言ったカミュに、イレブンはあっけらかんと答える。
「前に自分の髪が気に入っているって言ってたから」
「自分の髪を、な」
やる気のないカミュのインタビューはほどほどにし、次はイレブンになった。メープルのインタビューにイレブンは素直に答えていく。
「じゃあ次は生徒から募集した質問だよ。『結婚式をするならどんな結婚式がいいですか?』」
「…………」
そのピンポイント過ぎる質問で、イレブンはどこの誰の質問かすぐにわかった。
彼特有の微笑を浮かべて答える。
「ノーコメントでお願いします」
――ベロニカとセーニャも同じようなインタビューを受け、こちらも順調に進んだ。
「ベロニカさんはセーニャさんのお姉さんだと聞いたけど、どうしてセーニャさんより小さいの?」
「これにはかくかくしかしか、深ーい理由があるのよ」
「ふんふん、なるほどー。セーニャさんは読書が好きと聞いたけど、おすすめの本を紹介してほしいって質問が届いているよ」
「私のおすすめの本は……ずばり『赤い砂漠の伝説』です!」
――あ、懐かしい。
――そういや、そんなことあったなぁ。
胸を張って答えたセーニャに、ナマエとカミュは自分たちがその登場人物に似ていると言われたことを思い出した。
「マルティナさんとシルビアさんには同じような質問がたくさん届いたの。お二人のことを『お姉さま』と呼んでいいかって」
「ええ、もちろん!ね、マルティナちゃん」
「フフ、この学園の生徒になった気分がするわね」
シルビアとマルティナに憧れる女生徒は多いという。
二人が終え、続いてのインタビューはナマエの番だ。
出身地などは曖昧に答えて、女生徒からの質問は……
「あなたへの質問は……『今まで旅しておいしかった料理はなんだわさ!?』」
質問を送ったのは給食委員長のメイジーだとすぐにわかった。
「どの国の料理もおいしかったけど……中でもサボテンステーキかな」
あれは絶品だったと、イレブンもうんうんと頷く。
最後のインタビューはロウで、こちらもスムーズに進み……
「……ロウさんには特に質問は来てないみたい」
「なんでじゃ!?」
そして、最後に全員への質問だとメープルは皆に尋ねた。
「皆さんの初恋はどんな人?」
「……初恋?」
そう不思議そうに呟いたのは最近記憶を取り戻したナマエだ。首を傾げて「なにそれおいしいの?」って顔をしていると全員が思った。「待って!今思い出してるから!」
う〜〜んと唸って思い出しているようだが、どうも心当たりがないようだ。
「その様子じゃあ、初恋はまだってことだな」
「……なんでちょっと嬉しそうなの、カミュ。そういうカミュは?」
「ノーコメント」
「じゃあ僕も……」
「セーニャ。アンタの初恋の相手は絵本の王子さまだったわよね」
「はい!そう言うお姉さまは……」
「あ、あたしのことはいいのよ!」
「初恋はね、胸にそっと閉まっておくものよ」
「自分だけの素敵な思い出だものね」
恋の話は女生徒たちの間で一番盛り上がるのに、彼らからまともな答えは返ってこず、メープルは「困ったなぁ」と呟く。
「どれ。では、わしがとっておきの恋バナをしようかのう。……わしと妻のなりそめの話じゃよ」
ロウの妻――つまりイレブンにとっては、今は亡きおばあちゃんだ。イレブンだけでなく、皆も興味津々にロウの話に耳を傾けた。
ロウの妻は、城下町の本屋で出会った美しい娘だったという。
「……――と、そしてわしがプロポーズしたというわけじゃ」
「なんて素敵な話!これを新聞の目玉にするわ!」
メープルだけでなく、仲間たちもロウの淡い恋の話を絶賛した。セーニャはロマンティックな話にうっとりして、イレブンは「おばあちゃんに会いたかったな」と、思いを馳せる。
カミュに至っては真面目な恋をしてたんだな、とムフフじゃないロウを見直していた。
――勇者一行のインタビューを組んだ壁新聞が張り出されると、たちまち生徒たちが押し寄せ、大好評だった。
それを受けて、メダ女新聞部は第二弾を考えているのだとか。
「みんな!新たな最高傑作の新聞を作りましょう!」
「はい!メープル部長!」
そして、仲間たちの心を掴んだロウの話は、少女たちの心も掴んで、ロウは一躍メダル女学園の人気者になった。
「イレブンよ。そろそろメダル女学園に行ってみんかのう?」
「おじいちゃんってば、すっかり人気者になったからって……」
イレブンは「ルーラ」を唱えて、今日も一行はメダル女学園へと訪れる。