「皆さま、明けましておめでとうございますわ!」
新年、メダル女学園では女生徒たちの麗しくも爽やかな声が校内を飛び交う。
「いつ来てもこの空気にはなれん……」
「俺たちはずっと兵士として真逆に暮らしてきたからな。勇者の仲間にならなければ、この場所は一生縁のないものだっただろう」
気づけばグレイグとホメロスも仲間になり、十人となった勇者一行が迎える新しい年を、彼らは招かれたメダル女学園で過ごしていた。
元日、その一室で眠る彼らの夢は――。
「ねえ、聞いて!アタシ、今朝はハッピーな初夢を見たの!」
「まあ、シルビアさまもですか?じつは私もなんです」
「私も素敵な初夢だったわ」
「あたしも良い夢を見たと思うんだけど……うーん、もう少しで思い出せそう!」
シルビア、セーニャ、マルティナ、ベロニカと女性陣が夢の話で盛り上がるなか、「初夢?」と不思議そうに口にしたのはナマエだった。なんだろう?と、イレブンも同じようにきょとんとする。
「うむ。初夢とは新しい一年を迎えて、初めて見る特別な夢を指すのじゃ。昔は夢の内容で吉兆を占っていたとな」
ロウの説明に二人はほぅ〜と頷く。ロトゼタシア中を旅していても、まだまだ知らないことはたくさんあるようだ。
「一般的に初夢で見ると縁起がいいと云われているのは『命の大樹、ワシ、ズッキーニ』になりますね」
ホメロスの補足に、二人は疑問に思う。
「なんで野菜のズッキーニが入っているんだろう……」
「ズッキーニャと関係あるのかな」
命の大樹とワシが縁起がいいのはなんとなくわかるが。
そして、二人の頭の中で命の大樹でズッキーニャが踊り、その周りをワシが飛び交うというイメージがもくもくと浮かんだ。
ちなみに、ズッキーニャはまったく関係ない。
ズッキーニは別名「ナス」と言われており「成す」とかけているのではないかというのが諸説だ。
「命の大樹が夢に出てきたら、壮大な夢になりそうだな」
「……そうだわ!命の大樹の夢よ!」
イレブンが呟いたところで、ベロニカが思い出したと声を上げた。
「あたしたち、実際命の大樹に行ったじゃない?観光客に命の大樹のガイドをする夢を見たの。あ、セーニャも一緒だったわよ」
「とても縁起がいい夢ですね、お姉さま。なにより、お姉さまの夢の中でも一緒で嬉しいですわ」
「壮大な夢ではなかったけどな」
今まで聞き役だったカミュが笑いながら言うと、ベロニカはむっとした視線をカミュに向ける。
「そういうアンタはどんな夢を見たのかしら?さぞ立派な初夢なんでしょうね」
「生憎、覚えちゃいねえよ」
「まーたそう言ってごまかしてるんじゃないの?」
新年であってもこの二人の口喧嘩は変わらないらしい。場の空気を変えるように、セーニャがおっとりと口を開く。
「お姉さま。私もお姉さまとの夢を見たんですよ。正確には皆さまも出てきたのですが……。サマディー王国の特別なウマレースで、イレブンさま、ナマエさま、カミュさま、シルビアさま、グレイグさま、ホメロスさまが出場されたんです。私はお姉さまやマルティナさまとロウさまとたくさん応援し、手に汗握る熱いレースでとても楽しい夢でしたわ!」
そのときの興奮を思い出してか、セーニャは声を弾ませて話した。
「私も参加してたんだね」
「オレもかよ」
「ええ、ナマエさまはオレンジさまとでしたわ」
「うわぁ〜!いいなその夢!現実にならないかなぁ」
「ほっほ。現実になるといえば正夢じゃな」
「今度サマディー王国に行ったら、お坊ちゃんにお願いしてみましょ!アタシもみんなとウマレースで勝負したいわ!」
「私も乗馬の技術は自信がある。ちなみに、その夢の優勝者は誰だったんだ?」
セーニャのウマレースの夢で盛り上がる中で、何気なくホメロスが聞くと……その言葉に一部の者たちの空気が変わった。
「ああ、なによりそこは重要だ。夢の話とはいえ、ウマレースの優勝者だからな」
「ちゃんと夢の話ってわかってるカオじゃないわね、グレイグ」
真剣そのもののグレイグに、マルティナが呆れてつっこんだ。
「ここにも同じようなカオのヤツがいるぜ」
「ご、ごめん。つい……」
カミュの言葉にイレブンがばつが悪そうに笑って答えた。二人とも馬が大好きなので、夢の話とはいえ優勝は譲れないらしい。
「優勝者は…………」
二人はごくりと唾を飲み込み、次のセーニャの言葉を待つ。
「突如、砂漠の砂から登場されたファーリス王子が優勝されましたわ」
全員、ずっこけそうになった。
「まさに夢の話ね。だって、あの王子がウマレースで優勝できるはずがないもの」
「それもだが、砂から登場っていうのもわけわかんねぇな」
「夢って現実ならありえないことが起きたり、前後の辻褄が合わなかったり、不思議よね」
辛辣に言ったベロニカに、カミュとマルティナが摩訶不思議と続く。
「マルティナさまはどんな夢を見られたのですか?」
「私は……このメダル女学園に泊まったからかしら?この学校で生活する夢を見たの」
マルティナは少女のように照れくさそうに微笑んで話した。夢の中とはいえ、亡き母が通っていた憧れの学校に通えて嬉しかったのだろう。皆は微笑ましくマルティナの話に耳を傾ける。
「護身術としてみんなに武術を教えて……楽しかったわ」
想像する乙女の麗しの学園生活とはちょっと違った。
「マルティナちゃんらしい素敵な夢ね!美しさと強さは両立するわ」
「ふふ、ありがとう。じゃあ、次はシルビアの夢の話ね」
「アタシが見た夢は、夢が叶った夢よ」
「シルビアの夢って、世界一大きなホールを建てて、盛大なショーをして、世界中の人々を笑わせたいっていう……」
ナマエが思い出しながら言うと、シルビアは「ええ、そうよ」と、笑顔で答えた。
「旅芸人となったゴリアテらしい夢だな」
「ただ叶ったんじゃなくて……ここにいるみんなとショーをやるの!もちろんアナタもよ、グレイグ!」
「は、俺も?」
どういうことかと訝しぶるグレイグに、シルビアは詳しい夢の内容を話す。
「まずはアタシが団長で、進行役がバニー姿のマルティナちゃんだったの」
「フフ」
マルティナは蠱惑的に微笑んだが、もちろんデビルモードではなく普通のバニーでだ。
「空中ブランコはベロニカちゃんとセーニャちゃんで、二人の息はぴったりだったわ!」
「高いところはちょっと怖いですが、楽しそうですわね」
「あたしと一緒なら平気でしょ、セーニャ」
「綱渡りはイレブンちゃんで、ナイフ投げはカミュちゃん」
「まあ、納得の人選だな」
「うん。僕、綱渡り得意だし」
「あ、ナマエちゃんは魔物使いだったわよ」
キラーパンサーと一緒にショーをしていたらしい。ナマエは実際にやってみたいなと想像した。
「ホメロスちゃんは……」
「……私もいるのか」
「玉乗りしてたわね」
「おい、なんだその他人事みたいな言い種は。貴様が見た夢だろう」
玉乗りをしているホメロスを想像してグレイグは吹き出した。
「グレイグとロウちゃんは前に着てくれたピエロ衣装で、ステージを盛り上げてくれていたわ」
「あの時は楽しかったのう」
「あれか……」
ロウとグレイグは対照的な反応を見せた。
皆でサーカスを行い、観客も盛り上がり、とても楽しい夢だったとシルビアは話す。
「ホールを完成させたら、夢のようにみんなには手伝ってもらいたいわ。じゃあ、次は……ナマエちゃんの夢の話を聞いちゃおうかしら!」
「私はカミュの夢を見たよ」
「オレ?」
まさか自分の名前が出てくるとは思わず、カミュは彼女を見返す。
「うん、たぶんセーニャも出てきたと思うけど……」
そう曖昧に言って、ナマエは夢の中で起きたことを皆に話した。
始まりはなにやらカミュと二人で冒険をしていて、途中ではぐれてしまったという。
「探していたらセーニャが現れて――……」
『セーニャ?いいえ、私は愛の女神です』
現れたのはどう見てもセーニャだったが、夢の中の彼女はあくまでも愛の女神だと名乗った。
『ナマエさまがお探しのカミュさまは、盗賊カミュさまですか?それとも、海賊カミュさまですか?』
続いて愛の女神が言った言葉のあとに、その場に現れたのは……
『ナマエ、オレと冒険しようぜ!砂漠に眠る宝石をお前にプレゼントしてやるよ』
『ナマエ、そんなヤツよりオレだろ?オレたちの冒険は果てない海の方が似合う』
大盗賊の衣装を着たカミュと大海賊の衣装を着たカミュだった。そこまで聞いて、なんか童話でそんな話があった気がする……と、彼らは思い出す。
「二人から誘われるんだけど、私が一緒に冒険してたのは普通のカミュだから――」
『いえ、私が探していたのは普通のカミュです』
『ナマエさまは正直者ですね。カミュさま全員と会わせてあげましょう』
そう言って今度は普通のカミュも現れ、さらに記憶喪失のカミュに、初めて見るカミュも現れたのだ。
『おいおい、本物はオレなんだからナマエと冒険するのはオレだろ?』
『本物というならオレも本物ですよ。記憶喪失なだけで。オレもナマエさんと冒険したいです!』
『オレか?オレは月影のしのびスタイルのカミュだ。よろしくな!』
「――そんな感じで収拾がつかなくなったところで目が覚めた」
「……コメントしづらい夢見たな」
「私が愛の女神さまなんて、素敵な役をありがとうございます」
彼女が自分の夢を見てくれること自体は嬉しいが、内容が内容だけにカミュは複雑な心境になった。
「月影のしのびスタイル……。もしかしたらそんな衣装があるのかも。カミュ、探さなきゃ!」
「いや、夢の話で本当にあるかどうかも……。そういうお前はどんな夢を見たんだよ?」
カミュに投げかかられると、打って変わってイレブンはしゅんと表情を沈ませた。
「僕……覚えてないというか、夢を見てない気がする」
がっかりしてイレブンは言った。誰しもが夢を見るわけではないので仕方がないが……ロウが朗らかにイレブンへ声をかける。
「大丈夫じゃよ、イレブン。初夢は新年から初めて見た夢でもよいのじゃ」
「そっか!よかった」
すぐにイレブンはほっと笑顔を見せた。そして、今度はロウにどんな夢を見たか尋ねる。
ロウは待ってましたとばかりに胸を張って答えた。
「わしは、ピチピチ☆バニーちゃん大会で優勝した夢じゃ!」
「あ、詳しくはいいかな……」
「待つんじゃ、イレブンよ。これは健全な夢の話じゃ。わしも新年だと空気を読んでおる。ピチピチ☆バニーちゃん大会とは〜〜」
「最後はお前だな、グレイグ。ああ、私は夢をあまり見ないのでな。残念ながら話すことはない」
健全だろうがどうせロクでもない話だろうと、ホメロスはロウの話を遮りグレイグに話を振った。
「俺の夢は面白いものではないが……」
グレイグはしょんぼりするロウを横目に気にしながらも話す。
「強くなりたいと思い、鍛練をしていたんだ。剣の素振りはもちろん、大盾やホメロス、マルティナ姫を抱えて筋トレしたり、魔物と戦ったり……」
大盾はともかく、何故ホメロスとマルティナ……?皆は疑問に思いながらも、グレイグが鍛練しているのはよく見る光景であり、夢の中で行っていてもおかしくないだろう。
「我らは重しというわけか」
「ええ。いい負荷がかけられたのかしら?」
ホメロスとマルティナはちょっぴり不満そうである。
「今までの鍛練の成果か、俺の筋肉がいきなり輝きだしてカチコチになったんだ。すると、そこに1匹のメタルスライムが現れてな。俺は当然、倒そうとした」
グレイグは剣を握ったその時、メタルスライムはグレイグに向かって叫んだ。
『カチコチに硬いのはメタルボディのオレの方だーー!!』
「硬さにプライドを持つメタルスライムに共感し、一緒に筋トレをした――という夢だ」
………………
「……すまん。つっこむか笑うか、なにか反応してもらえないか」
面白いような、そんなに面白くないような。グレイグらしいといえばグレイグらしい夢だが。
いや、ヲチにしては弱い。
新年、微妙な空気に包まれる勇者一行だった。
「俺にヲチを求めないでくれ……!」