春光

 春の匂いがする――#name3#は広大な草原の中で、その匂いを吸い込むように鼻から深呼吸をした。

 心地よい陽気だ。

 青々と茂る平野に暖かな風が吹くと、色とりどりの花たちが揺れ。

 近くからは雪解け水が流れてちろちろと癒しの音を奏でている。

 美しい春のロトゼタシアの風景を堪能した#name3#は、足取りも軽やかに草を踏みしめながら、ナマエの元へと向かった。

 何をしてるんだろう?と名前を呼ぶと、振り向いた彼女は、しぃーと人指し指を唇に当てている。

 #name3#が静かに覗き込むと……

(カミュが眠ってる…!珍しい……)

 木の根本に背中を預け、カミュはすやすやと穏やかな寝息を立てていた。

 その手の中から短剣が落ちそうで。
 どうやら、手入れの最中に眠ってしまったらしい。

 人の気配や物音でいち早く起きる、警戒心の強い彼が、こうも穏やかに眠っているのは滅多にない光景だった。

(春眠って言葉があるぐらいだもんなぁ)

 さすが春のうららかな陽気。

 #name3#が珍し気にしげしげと見て、隣でナマエが静かにクスクスと笑っているが、カミュの起きる気配はない。

「…ねえ、ちょっとイタズラしてみない?」

 #name3#が小さな子供のような笑みを浮かべながら、小声でナマエに言った。


 ――イタズラと言っても。


「素敵!花冠ね」
「昔、エマに作り方を教わったんだ」

 花が咲き乱れる場所で、#name3#は器用に摘んだ花を編んでいく。

「ナマエにも作ってあげるよ」
「ありがとう、#name3#。作り方も教えてほしいな」
「もちろん!」

 自分が作ったのは#name3#にあげようと彼女は考えた。
 選んだ花の色は彼の髪色に合いそうな紫色。


 ――……


「ん…………」

 しばらくしてカミュは目を覚ました。
 いつの間にか眠ってしまった自分に驚くが。
 それとは別にすぐに異変に気づいた。

「……なんだこりゃあ」

 自分の頭に乗せられたら、花の冠。

 誰がいったい……と思った矢先、こんなことをするのは、一人…二人しかいない。

「……お前らなぁ」

 目の前で笑う二人を呆れ声でカミュは言った。

「カミュ、まるで絵本の中の眠り王子みたいだったよ」

 どこぞの絵本だ――カミュはナマエの言葉につっこむ。

「まったく。花冠なら、お前じゃないのか?王子サマ」
「あ、僕の分はあるから」「あんのかよ」
「私のも作ってもらってあるよ」

 そう言って、自身の頭に花冠を乗せる二人。

 おそろいだ〜とぽやんと笑う二人に「ああ、春の陽気に頭が浮かれちまったんだな」と冷静にカミュは把握した。

 今までも二人の危なっかしいところはあったが。

 今まで以上に自分がしっかりしなければ――すっかり覚醒したカミュは、暖かな陽気とは裏腹に気を引き締めるのであった。



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