これは、今から6年ほど前の話じゃ。
手紙には書けなかったわしの思いを、ここに残しておこうと思う。
親愛なるわしの孫よ。
お前ならきっと、この日記をどこかで見つけ、読んでくれるじゃろう――……
その日は、遥か北のユグノア地方で起こった嵐は過ぎ去り、清々しい青空が広がっていた。
嵐の後の川はよく魚が連れると――わしはイシの大滝へ釣りに来ていたのじゃ。
大きくなったお前ともよく釣りをしたのう。初めて魚が釣れて、跳びはねながら喜ぶお前の顔は、今でもよく覚えておる。
雨が降ると、上流から魚が流されるから、その日は大漁じゃった。
だが、流されて来たのは、魚だけではなかったのじゃな。
静かなこの場所に赤ん坊の声が聞こえて、わしは釣りを切り上げ、声の主を探しに行った。
「なんと…」
そう、お前を見つけたのじゃよ。
「赤ん坊がこんな所に……あの嵐の中、無事でおったとは……」
驚きながら、慌てて駆け寄った。
不思議なことに、わしの顔を見たらお前は泣き止んだのじゃよ。
きっと、一人じゃないと分かって、安心したのじゃろうな。
「ははは。笑っておる」
きゃっきゃと笑うお前を見て、将来度胸がある子に育つぞとわしは思ったものじゃ。
「もしや、この子は……」
お前の服や揺りかごの装飾を見て、何となくは察しておったが、後から手紙を読んで驚いた。
――こんな小さな赤ん坊が、大きな使命を背負っておったのじゃから。
「よしよし。ひとりで心細かったじゃろう」
抱き上げると、ますますお前は笑っておった。
「もう心配いらんぞ」
この時から、わしがお前を育てようと決意しておったんじゃ。
わしがこの子のじいじになると――。
不思議なことに、成長したお前がわしの前に現れ、驚きはしたがすぐに分かった。
青い透き通った目は、昔とちっとも変わらぬ。
しかし、やんちゃっぷりは落ち着いてしまったかのう?
何にせよ、成長し、立派になったお前を見れたことは、わしは奇跡のようにとても嬉しかった。
その重き使命を背負うことによって、これからも茨の道を歩むことになるじゃろう。
じゃが、お前ならきっと大丈夫だとわしは知っておる。
最後に、もう一度言わせておくれ。
わしは、お前のじいじで幸せじゃった――……
「………………………」
とあるトレジャーハンターの日記と書かれたその本を――。
青年はある場所で見つけ、たった今読み終えた。
そして、そっとページに書かれた文字に触れながら、呟く。
「見つけたよ、テオおじいちゃん……。僕からも、言わせてほしい」
あの時、おじいちゃんに拾われて
おじいちゃんの孫になって
おじいちゃんと過ごした時間は
とても、幸せだったと――。
そこで、青年は日記を閉じる。
日記は届くべき人物へ、ちゃんと届いていた。
大好きな祖父が残した言葉。
青年は各地に散らばった本を読むことによって、祖父――テオの軌跡を辿る。