ホワイトデーのお返しは俺!

 ――作ってるときはあんなに楽しかったのに、こんな惨めな思いをするなら、最初から好きにならなきゃよかった。

『わりィ。俺、彼女できたんだ。だから、それ受け取れない』

 あんなに脈ありサイン出しておいて、いつ彼女が出来たのよ。

『わりィ。俺――』「やだもう!」

 嫌なコトほど脳は記憶するんだ。

 何度も頭の中でループするセリフを、振り払うようにチョコをゴミ箱に投げ捨て――

「それ、捨てちゃうの?」
「……へ」

 ……捨てる前に、声をかけられた。

 両手をコートのポケットに入れて、同じクラスの蜂楽くんがそこに立っている。

「なんで捨てちゃうの?もったいない」
「もったいないかも知れないけど、もう必要ないものだし……」

 誰にも受け取って貰えなかったチョコの末路だ。

「じゃあ、俺にちょーだい」
「……え」
「どうせ捨てるんだからいいっしょ?」
「……じゃ……じゃあどうぞ?」

 呆気に取られてチョコを渡すと「やったー!」と蜂楽くんは無邪気に喜んでいる。

 私から見て、蜂楽くんは不思議な男の子だ。
 明るくてちょっと子供っぽくて、サッカーが好き。
 それだけだとどこにでもいそうな男の子だけど、どこか掴めないというか、独特というか。

 誰かの為に作って捨てようとしたチョコを貰って喜ぶとことか――

「って、今ここで食べるんだ!?」
「うん。ちょうど甘いもの食べたかったから♪」
「……さいですか」

 ラッピングを開けて、出てきたメッセージガードに「あ…」と声をもらす。
 告白のメッセージ。読んじゃだめと止める前に、蜂楽くんはじっとそれを見つめる。

「これはもう必要ないね」

 ポイっとゴミ箱に捨てた。それはもう潔いほど人が考え抜いた告白文を蜂楽くんはポイっと捨てた。

 ――でも。

「…………うん。必要ないね」

 それが逆に、スッキリした。


「うっまー♪超うまいよ、これ!」
「本当に?やったーよかった!」
「こんなうまいの食べられなくてそいつ残念だね」
「んー……でも、もういいや」

 たとえ受け取って貰ったとして、想いは受け取って貰えなかったわけだし。

「蜂楽くんが喜んで食べてくれたから!」

 捨てようとした手作りチョコを、こんなに嬉しそうに笑顔で食べてくれた。
 それだけで十分だって思える。

「ありがとう、蜂楽くん」
「お礼言うの俺の方じゃん?ごちそーさま」
「へ、もう全部食べたの!?」

 気づくとペロリと全部平らげてくれたらしい。


「名字さん!ばいばーい♪」

 途中まで一緒に帰って、俺こっちだからと無邪気に手を振る蜂楽くん。
 蜂楽くんのおかげで失恋の痛みは早く治りそうな気がする。


 ――そして、変わらぬ日々にすっかり忘れていたけど、今日はホワイトデーらしい。(私には関係ないな……)


「今日ホワイトデーでしょ?この間のチョコのお礼♪」

 そう蜂楽くんに話しかけられたのには驚いた。気を遣わせちゃったみたいで悪いな、でも嬉しい!なんて思っていたら……

「俺、プレゼント!」

 謎なプレゼントを貰った。

「えっと蜂楽くん、ちょっとどういう意味がわからなくて……」
「ねえ、名字さん。俺と付き合ってよ。君のことワクワクさせる自信あるし、絶対楽しいよ!」


 "俺、君のこと好き"


「わ、私で良ければよろしくお願いします……」
「良ければじゃなくて、君が良いんだってば。これからよろしくね、なまえ♪」


 結局「失恋には新しい恋」という先人たちの言葉は正しかったという話。



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