U-20日本代表戦のあと、二週間の休暇をもらった。
あいつらと遊んだりもしたけど、残りの貴重な時間を使いたいのは――……
「世一くん!」
「……おう!」
会うのは何ヵ月ぶりだろう。彼女、名字なまえと付き合ったのは中学二年生の頃。文化祭で、俺が勇気を振り絞って告白したのがきっかけ。
家が近かったこともあり、別々の高校に進学しても関係は続いていた。
でも、"青い監獄"に行って、こんなに長い期間拘束されるとは思いもしなかったから……。
戻って来たら、もう忘れられてるんじゃないかと思っていた。
「世一くん!久しぶりだね!テレビではわからなかったけど、前より逞しくなった感じする」
「はは。そう言われると、なんか照れるな。なまえも元気そうでよかった」
でも、こうしてまだ、俺のことを待っていてくれて……好きでいてくれて、嬉しかった。
「じゃあ、行くか」
「うん!……でも、よかった」
「なにが?」
「世一くん、私のこと覚えていてくれて」
……そっか。不安になったのは、俺だけじゃないんだ。
「当たり前だって!」
「片時も?」
「う……。た、確かに向こうでは生き残るのに必死で、それどころじゃないときもあったけど……」
「ううん、わかるよ」
こちらを見るなまえは、初めて会った時に、俺の眼を奪った笑顔で笑う。
「あの試合観たら、世一くんがどんなに頑張ってきたか」
「……っ」
(やべぇ……嬉しすぎてどうしよう)
「でも、さ……!」
その手を取った。急な行動だったからか、なまえは隣で驚いた顔をしてる。
「なまえのこと、好きって気持ちは、ずっと……あったから」
「……うん。私も」
その言葉と共に、握り返される手。
暖かいぬくもりは失いたくないと、強く思わせる。
俺はこれからも、世界一のストライカーを目指して、サッカーへの道を進むけど……
その先に、君との未来もあると約束する。
◆◆◆
「iPhone、最新型でたんだ!すげぇカッケー……」
やって来たのは、大型ショッピングモール。
"青い監獄"に来て、俺の世界は変わったけど、外の世界も少し変わっていた。
「世一くん、過去から来た人みたい」
「あ、ゴメン。久しぶりの、その……デートなのに、俺の買い物に付き合うみたいになっちゃって……」
「全然。"ブルーロック"って、なんでそんな名前なんだろうって思ってたら、本当に閉じ込められてたんだね」
「そうそう、食事も順位で管理されてたり。俺、ずっと納豆でさ」
「そうなの?でも、納豆なら栄養満点だからよかったね」
「え、そういう問題……?」
他愛ない会話をしながら、店を見て回っていると……
「あ、見て!特集やってる!」
電化製品店のテレビで、ちょうど流れているのはU-20戦の試合のニュースだ。
スタジオに専門家を招いて、解説しているらしい。
『世間で一番注目を集めていたのは、糸師兄弟の対決だと思います。冴選手のラストプレーでは疑問視も上がっておりますが……』
『そうですね。まずお兄さんの冴選手はポジションはMFで、弟の凛選手はFWで、これを意味するのは〜〜』
やっぱりというか、世間の注目度はあの二人が高いらしい。
「ねえ、世一選手が注目している選手は?」
「俺?そうだな……」
今考えてたせいか、凛が思い浮かんだけど……
「改めて考えると、みんなそれぞれすごい武器持ってるし、一人に絞るのはけっこう難しいな……」
「試合に出た選手、全員すごかったもんね。じゃあ、仲のいい選手はいる?」
「仲のいい選手か……。真っ先に思い浮かぶのは、やっぱ元チームメイトだった、蜂楽や千切かな」
"青い監獄"でのことを話して、今度は最近のなまえの話を聞く。
「大して面白い話はないよ?」
って言ったけど、新しい趣味を始めたとか、最近ハマッてることとか、そういう何気ないことを俺は知りたい。
「このスパイク、かっこいいね。世一くんに似合いそう」
「おぉ、確かにいいな!でも、青い監獄に持ち込めないから、今買ってもなんだよな……」
「そっか、残念だね」
サッカーに必要なものから日常品まで、ありとあらゆるものが"青い監獄"には揃っている。
そう考えると、物欲は喪失した。
結局特に何も買わずに、ご飯を食べて、近くの大きな公園を散歩する。
池があるせいか、風が冷たい。春とかだったら一緒にボートとか乗ったけど。
「ちょっと寒くなって来たよな……どっかカフェにでも入る?」
「私は平気だよ」
「じゃあ、池の周りを一周して戻るか」
「……世一くんのそういうところは変わってないね」
「え?」
「優しくて、気遣ってくれるところ」
特に意識してやってるわけじゃないけど、そんな風に褒められると、やっぱり嬉しい。
自分の長所を見つけてもらえたようで。
「あ、移動カフェ。俺、買ってくるよ!なまえはなにがいい?」
「え、でも……」
「すぐ買ってくるから、そこのベンチで待ってて」
じゃあ、カフェラテで……と答えたなまえ。俺も……同じのにするか。
キッチンカーへと小走りに買いに行く。
そのわずかな時間に、事態は起こった――。
「君、可愛いね」
「俺たちと三人で遊ばない?」
いやいや、おかしいだろ!?
今時こんなベタなナンパなんて珍しい。
見た目もいかにもなヤンキー風な風貌だし。最近のヤンキーはこんなのどかな公園に出没すんのかよ。
そんなことより……
(人の彼女にちょっかい出してんじゃねーよ!)
「おい」
「!世一くん……っ」
「なんだテメェ?この地味めくんが」
「……ん?コイツ、どっかで見たことあるよーな……」
「その子、俺の彼女なんだけど」
本当はそこでなまえを引き寄せたかったけど、生憎両手はカフェラテで塞がっている。
代わりになまえの方からさっと俺の側に寄った。
「カノジョーさぁ、こんなつまらそうな平凡彼氏より、俺たちと遊んだ方が絶対楽しいぜ?」
「言ってろよ、ゴミカス野郎」
「「…………!?」」
なまえが何か反論する前に、俺がゴミカス野郎どもに言ってやる。
「一人でナンパする勇気もねえのに、よくデカイ口叩けんな」
「……なっ……なんだよお前!?」
「どーせ、今までの人生も××××だったんだろ。んで、××××で、口だけの××××野郎。変わる気ねえなら、これからも地面這いつくばって生きてけよ。せいぜい……」
「あ、あの、世一くん……もうそこらへんで……」
――二人、泣いてるから。
その言葉にハッと我に変える。し、しまった!つい、勢いに乗って……!
「ご、ごめっ……」
「ひでえよ〜コイツこええよ……!」
「に、逃げようぜ!」
言い過ぎたとちゃんと謝る前に、ナンパ男二名は走り去ってしまった。
当初の目的のナンパは撃退できたけど……。
(引かれた……!絶対引かれた……!)
いや、引かれたのならまだしも、嫌われたかも知れない。
「い、今のは違うんだ!これは、その……」
――やっちまった。
これは、あれだ。"青い監獄"での悪影響だ。
あいつら試合中、マジ口悪いからうつったんだ……!!
「……世一くん」
「はっ、はい」
うわあ……怖くてそっち顔向けらんねえ!
「ちょっとびっくりしたけど……助けてくれてありがとう」
「あ、いや……」
よ、よかった……。嫌われてはないみたい?
「もしかして、試合中でもあんな感じ?」
「えっ!?いやいや、確かに熱くはなるけど、そこまでってほどでも……」
「そうなんだ。でも、さっきのイキってる世一くん。ちょっとかっこよかったよ。ドキドキしちゃった」
マジっすか。
◆◆◆
「――って、ことがあって……」
"青い監獄"に戻ってきて「休日なにしてた?」と聞かれたので、その出来事を話した。
蜂楽と千切は微妙な顔をした。……なんで?
「潔、試合中の自覚なかったんだね〜」
「な」
「自覚?」
「お前たぶん、自分が思ってる十倍は口悪ぃぞ」
……は、嘘だろ!?
「それ絶対盛ってんだろ!」
「試合中の潔、マジエゴイストって感じ♪」
「そんなに!?」
「でも、よかったじゃん。彼女、そんな潔も好きって言ってくれたんだろ?」
「ま、まあ……」
「結局俺たち、ノロケ話を聞かされたってワケかぁ」
「んじゃ蜂楽。次の試合、恋愛脳の世一くんを潰すか」
「面白そうだね♪その話乗った!」
「恋愛脳じゃねーし。潰されもしねーよ」
――やれるもんならやってみろ。
俺は世界一のストライカーも、恋愛も……
「どっちも譲る気ねえ!」
「…………潔、スイッチ入ったねー」
「だな。イキりスイッチ」