鎌倉で有名な神社である鶴岡八幡宮では、毎年七夕まつりを行う。
ダメ元で冴を七夕まつりに誘ってみたら、部活の後でなら……と、返事をもらった。
学校の校門前で待ち合わせということで、先に待ちながら、手鏡で前髪を整える。
冴の姿が見えて、慌ててそれをポケットにしまった。
「待ったか」
「まあ、だいぶ?」
「嘘つけ」
うん、冗談。そして冴はさっさと行ってしまう。
気遣いは素振りだけで、冴はいつだってこんな感じだ。
まるで少年漫画の俺様キャラ。
そして、漫画の中と同じく顔は良いので、冴はモテる。
それでサッカーもエース級となれば、そりゃあモテる。
「あっちーな」
「梅雨も明けたし、もう夏だね〜」
「つき合ってやるんだから、帰りアイス奢ってくれんだろ」
「なにその断定的な言い方。……しょうがないなぁ」
当の本人は、サッカー以外興味ないみたいだけど。
――夏の夜のにおいを感じながら。
夕闇にライトアップされた、七夕飾りを見上げる。
その隣でスマホを取りだし、写真を撮る冴。
食べものとかは興味ないらしいけど、こういった景色は何気に写真に収めるタイプだ。
「あ、ねえ冴。短冊あるよ。書いていこうよ」
「書かねーよ」
「そう言わずに。はい!」
長机に置かれていた、ペンと小豆色の短冊を押しつけるように渡せば。
眉間にシワを寄せながらも、冴は受け取ってくれた。
「なに書きゃいいかわかんねえ」
「夢とか叶ってほしいこと書くんだよ」
「書く意味もわからなけりゃ飾る意味もわかんねえな」
「願掛けとか宣誓みたいなもんでしょ。冴なら……プロサッカー選手になれますようにとか」
「バカ、なれますようにじゃなくて俺はなんだよ、アホ」
「例えばの話だったのにそこまで言うのひどくない?」
バカで始まりアホで終わった。
冴はこんな風に口が悪い。ちなみに誰に対しても。弟の凛くんに悪影響だとつくづく思う。いや、もう遅いか。
「……そう言うお前はなんて書くんだ」
「彼氏ができますように、かな」
「……なんだそのクソな願いは」
「いや、間違えた。今年中に彼氏を作るにする!」
「はっ。恋愛スイーツ脳。どおりでアホなわけだな」
「ねえ、本当ひどい言われようなんだけど」
誰が恋愛スイーツ脳でアホよ。
むしろ、授業の成績なら冴よりもいいし。
恋愛だって、ただずっと……冴に片想いしているだけ。
「……冴は好きな人とか彼女作らないの」
「さあな」
いつだって冷めた態度。恋愛を成就させる一番の方法は、行動を起こすしかない。
でも、私には今までずっとその勇気がなかった。
だから今日、願掛けもとい、宣誓する。
せっかく冴と一緒にお祭りに来れたから。
(今年が終わるまでに、冴に私の気持ちを伝える)
彼が高校を卒業して、海外に留学してしまう前に――。
結果はわからないけど、この思いだけは伝えようと決めた。
そして、もし。もしも奇跡が起こって、この恋が実ったら。
遠距離恋愛になるので、空の二人に見守ってほしいと思う。
年に一度、"七夕"という日にしか会えない二人だから――。
「冴は結局なんて書いたの?」
「うるせー、見んな」
冴は見えないよう隠しながら笹の葉に短冊をくくりつける。
(……まあ、出会ったときからずっとこんな関係で、脈なしなのはわかりきってるんだけどね)
ざっと神社の中を見て回って、帰ろうとなった。
いつも通りなにも親展はないまま、コンビニに寄って、約束のアイスを買う。
「また高いの選んで……」
「俺はダッツがよかったのを、遠慮してこれにしてやったんだ」
ありがたく思えと言わんばかりに。
「お気遣いどーも。じゃあ、買ってくるから待ってて」
スマホをタッチして支払いを済ませ、
「はい」
「サンキュ」
外で待っていた冴に渡す。
「……じゃあね、冴。一応、今日はつき合ってくれてありがと」
コンビニからは帰り道が逆方向。アイスを食べ歩きながら帰るかと、背を向けた時。
「なまえ」
滅多に呼ばれない名前を呼ばれた。
「家まで送ってく」
驚いていると、冴は続けて言う。
「最近の変態野郎は見境いねーからな」
「……それ、さりげなく私のことディスってない?」
「気のせいだろ。……ほら、行くぞ」
本当はさりげなくディスったくせに。なのに、今は歩幅を合わせて歩いてくれている。
(……ずるいよ)
聞けるなら聞きたいよ。私のこと、どう思ってるのって。
翌日。ふと思い立って、再び鶴岡八幡宮にやって来た。冴が短冊になにを書いたのか、気になった。
(この辺りの葉に……あ、あった……)
サラサラと風に吹かれる笹の葉から見つけた、小豆色の短冊。
裏返して、文字を目にして心臓が止まる。
たった三文字――
"好きだ"
……誰に宛てたのかわからないのに、期待してしまう私は、冴が言ってたとおり恋愛スイーツ脳かもしれない。
(どっちにしろ聞くに聞けないじゃない。……バカ)
それを解決する方法。"早く告白して来い"という、彼の声が聞こえた気がした。