皆さん、一度は目にしたことがあると思う。
化粧水を使おうとすると、イケメン俳優扮する「ビューネくん」が出てくるCMだ。
肌荒れに効く化粧水と謳っていたので、ちょうど仕事のストレスで肌が荒れてしまった私は、試しに購入してみた。
さっそく今晩から使おうとしたら――
まさか……本当に……
「俺はビューネの妖精……。お前の名を聞こう」
ビューネくんが現れるなんて……!!!
(ていうか誰!?……誰!?)
現れたのは竹●涼真くんではなかった。
長い黒髪のすらりとした、これまたイケメンくんだ。……待って。
ビューネの妖精……!?
(……ああ、仕事のストレスで幻覚見てるのね……。ついに末期症状、が……)
目をごしごしと擦って開くと、こちらに長い腕を伸ばすイケメンくんの姿が映る。
綺麗なその指で、くいっと顎をもち上げられた。
「!?」
え、実体がある……!?と思う間もなく、今度はぐいっと顔が近づく。
美しいお顔が目の前に……!
「肌が少し荒れているな……。これではお前のオシャが霞んでしまう……」
……オシャ?あ、オシャレの略?
「安心しろ。俺は、お前の肌とオシャを守るためにいる。そして、お前をさらなる高み……ビッグオシャへ導いてやる」
「は……はい」
なにがなんだかわからないけど、頭がぽー…としてしまい、胸がきゅんと高鳴る。
「して、お前の名は?」
「あ……なまえです。名字なまえ」
「なまえか。オシャでいい名だ」
「ビューネくんは、本当にビューネの妖精なの……?」
「そうだ。ちなみに、俺の名は蟻生十兵衛だ」
「十兵衛くん……意外に渋い名前なんだ……」
「ぐはぁ!!」
!?いきなり後ろに仰け反り、ダメージを受けるビューネく……ではなく、十兵衛……くん?
「その名で呼ぶのはノットオシャ……」
「へ!?」
「迸る戦国武将感とぬぐいきれない古臭さ……その名前が、俺唯一のコンプレックス……!!」
「ご、ごめんなさい。じゃあ、蟻生くんって呼べばいい?」
「頼む……」
蟻生くんはちょっと変わった妖精だった。
「このオシャポーズでかき消す!」
……。いや、たいぶ変わってるかもしれない。
そんな感じで、不思議で変わったイケメン妖精の蟻生くんは、この日から化粧水を使う度に現れるようになった。
*
「蟻生く〜ん。仕事でミスしちゃったぁ。しかも初歩的なミスだよ?いまだにこんなミスして私ダメ人間過ぎる……」
「なまえ。ミスは人間なら誰でもするもの。ミスしたところでお前の価値になんの影響も及ばん。だが、それで自分を責めるというなら、それはノットオシャだぞ。次、同じことを繰り返さないように気をつければいい」
「蟻生く〜〜ん!私、明日も頑張れそう……」
「いや、これ以上頑張らなくていい。お前は十分に頑張っているのだからな」
「泣く!!」
蟻生くんはいつも私を優しく励ましてくれる。
またある時は――……
「蟻生く〜ん。ダイエット中なのに欲望に勝てずパフェ食べちゃった……」
「甘い誘惑に惑わされるのは人の性……。過ぎたことをいつまでも悔やむのはオシャではないぞ。代わりに俺と共にダンスを踊り、その分のカロリーを消費するか?なまえ!」
「なんてオシャなダンス……!」
蟻生くんは私の肌とオシャを守ってくれるだけでなく、私のメンタルも守ってくれる。
このストレス社会を生きる私にとって、今となってはなくてはならない存在だ。
「さあ、なまえ。そろそろ寝た方がいい。夜更かしは美の大敵だからな」
「うん。蟻生くん、おやすみ」
「ああ、オシャすみなさい……」
そろそろ化粧水がなくなりそうだから、新しいのを買いに行かないとな……
*
休みの日。化粧水を買う際、BAさんに恐る恐る聞いてみる。
「あの、ビューネくんって本当にいるんですね……?」
「……はい?」
「いえ、なんでもないです!えっと、新しい化粧水が欲しくて……」
怪訝そうな顔をしたBAさんに、慌てて話を変えた。……どうやらビューネくんは、私にしか見えない存在なのかもしれない。
「よろしかったら、こちらの新製品はどうですか?」
「新製品?」
「はい、夏限定のものなんです。ひんやりした使い心地で、この時期おすすめですよ」
「じゃあ、これにしてみます」
夏限定の化粧水か。さっそく夜使うのが楽しみ――……
「夏限定のビューネの妖精だよーん♡」
なんか別の可愛い子が現れた!!
「オシャさんから話は聞いてるよ」
「(話が伝わってる……!?)」
「なまえっちでしょ?よろしくね♪」
「(無邪気なあだ名で呼ばれた!)」
「俺の名前は……」
蟻生くんとはしばしのお別れで。新しいビューネくんと、今年は楽しい夏を過ごすこととなる。