物語が急に始まったように、二人は突然何もない部屋に閉じ込められた。
「唯一のドアも開かないし……。どうしよう……」
なまえはドアノブをガチャガチャと回すが、カギがかかっているのか、一行に開く気配はない。
「いきなり部屋に閉じ込められるなんて……。夢、じゃないし……廻はどう思う?……廻?」
困惑して考えるなまえの横で、廻には心当たりがあった。
これはあれだ――巷で噂の『○○しないと出られない部屋』だ。
その名の通り、指示されたことをしないと出られないという不思議な部屋。
問題はどんなことを指示されるかだ。
(どうしよう……。エッチなコトだったら)
どんなにエッチな指示が出ても、それをしなければ部屋から出られない。
これから、あんなコトやこんなコトをなまえとしなければならないかもしれない。
(もしかしたら、もしかして……?)
ついに俺たち、一線を越えちゃいます……!?
「……なんで廻、わくわくしてるの?」
けっこうな危機的状況だと思うのに……と、怪訝な眼を向けるなまえに、廻は笑ってごまかした。
「もしかして、ここがどこだか知ってる?」
「んー?知らないよ♪」
「……本当に?」
「ホントホント♪」
◆◆◆
「……あれ。さっきはなかったのに、壁に何か書かれてる」
いよいよ来た!廻はドキドキしながら書かれている文字を読む。
『蜂楽廻は四国四県を答えよ』
……!?
「全然エッチなコトじゃないじゃん!」
「え……なに期待してたの……?」
お約束じゃなーい!思わずそう声を上げてがっかりする廻に、なまえは呆れた視線を送った。
◆◆◆
「……とりあえず。言われた通りにしないと、この部屋から出られないってことか……」
廻から部屋の詳細を聞き出して、なまえは思考する。
『名字なまえが答えを教えたらアウト』
というルールが追加されて、直接的じゃなければヒントはOKらしい。
この部屋から出るには、すべて廻にかかっている。
なまえの視線に気づいた廻は、頭に「?」浮かべながらにこっと笑う。普段ならきゅんっとするなまえだが、今はそれどころではない。
「それで、廻……四国四県は……」
「ねえ、なまえ。四国って、四県あるから四国なんだね!」
「(そこから……!?)」
絶望的――なまえは頭を抱える。
「もうっ、諦めたらそこで試合終了だよ?」
某監督の有名なセリフを口にした廻だが。
この試合は廻次第だから、廻がそう言うのはおかしいと、なまえは思う。
けれど、絶望していても事態は変わらないのも事実。
とりあえず、なまえは玲王や凪という、天才たちと同等に思考できる頭を働かせる。
「……じゃあ、廻。四国でわかる県はある?」
一つぐらいあるんじゃないかと期待を込めて、尋ねた。
「んー……。あっ、高知!なんか歴史の授業でこの間やった!」
ピンポンとどこからか音が鳴って、壁に追加された「高知県」の文字。
「えらい!廻、よく覚えてたねっ」
「えへへ♪」
なまえに褒められて廻は照れながら喜ぶが、喜ぶのはまだ早い。まだ三県残っている。
愛媛県、徳島県、香川県だ。
「その勢いで他の県も頑張って思い出して!」
「う〜〜ん」
「ほら、みかんが有名な県とか」
「みかん?」
「うどんが有名な県とか」
「うどん……?あ、さぬきうどん!」
「そう!その県は!?」
「えっ、さぬき県じゃないの?」
さぬき県じゃないの、廻……!
普段のなまえなら可愛いと思うけど、今は脱出をかけているのでそれどころではない。
正解は香川県。これをどうやってヒントとして廻に伝えれば……
香川……?そうだ!
「廻、日本代表にも選ばれた、繊細なテクニックと攻撃センスが高くて、とくにループが上手い選手は!?」
「香川選手!」
「それ!」
「あ、香川県?」
再びピンポンと鳴って、壁の文字に「香川県」が追加された。
「よっしゃ!」
無邪気に喜ぶ廻。だが、二回目の喜ぶのはまだ早い。あと二県ある。
でも……
(こんな感じでサッカーと絡めれば、廻は答えられるかもしれない……!)
一筋の希望が見えた。廻はサッカーに関してはしっかり覚えている。問題は……
(愛媛と徳島が名前につく選手は思いつかないし……)
廻以上になまえは考える。
問題は廻に出されたが、これはある意味、なまえへの挑戦だったのかもしれない。
(四国は四国リーグがある。そして、ちょうど二つのJリーグチームも……!)
「じゃあ廻!Jリーグチームでほにゃららヴォルティスは?」
「……わかった!徳島ヴォルティス、徳島県!」
「正解!次はちょっと難しいかも。ほにゃららFC」
○○FCとつくリーグチームは多いからだ。
「横浜は神奈川県だし……」
「長友選手の出身地でもあるよ」
「愛媛県だ!」
そんなこんなでなんとか廻は答えて、二人は『○○しないと出られない部屋』から、無事脱出できた。
「ふう……。出られたから良かったけど……まさかあんな部屋があるなんて……」
「えらい目にあったね。……あ、じゃあさ」
答えられた、ご褒美ちょーだい♪
ご褒美は、もちろん。期待していたあれやこれやがなかったから、廻はここでいただく算段だ。
「ご褒美もらえるのは、私の方じゃない?」
明らかに頑張ったのは、廻ではなくなまえの方。
「それもそっか。じゃあ、俺がなまえにご褒美あげる!はい、ご褒美のチュー♪」
ちゃっかり自分がしたいことをご褒美にする廻だった。