私の隣の席の凪はずっと寝ている。
たまに「あ、起きてる」と思えば、スマホでアプリゲームをしている。
ほぼ、どっちかだ。
謎な男の子だと思うけど、一番の謎はそんな彼を好きになった私だと思う。
「凪ってよくめんどくさいって言うけど、一番めんどくさいのは人間の心だと思うな」
「……なにそれ、哲学?」
「そ、哲学」
凪とは一年経ってもたまに何気ない会話を交わすぐらいの仲だ。
それなのに好きになるってわけわかんないじゃん。
それでも――。最近、御影くんと一緒にサッカーを始めたり、新しい彼を知る度に起こる感情に「好き」なんだと実感させられる。
「サボテン、元気?チョキだっけ」
「そうチョキ。元気元気。ほっといてるだけで育つから」
育てる才能あるよ凪。
なんてったって、一年もかけてじわじわと凪は私の恋心を育てたんだから。
(そして、枯れる運命なんだろうなぁ)
このめんどくさがり人間に、好きになって貰える方法も、付き合う方法も分からない。
「……みんな、すごいよね」
「ん?」
ぽつりと凪が言った。視線は変わらずスマホ画面。
「バレンタインのチョコを貰うか貰わないか、あげるかあげないかだけであんなに盛り上がれるんだから」
「……凪もいざ貰ったら嬉しいんじゃない?」
「お返しめんどうだし……結局みんなギブアンドテイクを望んでるんでしょ」
(……よかった……)
義理チョコなら、軽い感じに凪に渡せるんじゃないかという私の考えは甘かったと知れて。……チョコだけに。
私、絶対に凪に告白しない。
フラれるのは目に見えてるのに、決定打を打つ勇気なんてない。
それならこのまま、この距離感ある関係の方がマシだ。
それに、クラスだけでなく学校全体で、私はたぶん御影くんの次に凪と会話している。凪に関しては、客観的に見てすごいことだと思う。
(……考えてたら、ちょっと悲しくなってきちゃった)
バレンタインデー当日。
「――なまえ。レオにチョコあげたんだって?」
珍しく凪の方から声をかけてきた。
私は「あーうん」と曖昧に答える。
御影くんにチョコを渡したのは、高校生あるあるの友達に「一緒に渡そう!」と誘われたのと「御影くんのお返しは高級お菓子」という言葉に釣られたという理由なので、非常に話しにくい。
「俺にはないの?」
「…………は」
思わずそんなすっとんきょんな声が出た。
「……だって凪、チョコ貰ってもめんどうって言ってなかった?」
「いらないとは言ってないじゃん。俺となまえ、仲良いから貰えるかなって思ってた」
(なんじゃこいつ)
仲が良い……?この距離ある関係が凪の中では仲良いになるの……?
確かに、そもそも人間関係をまともに作ってこなかった凪からしたら「仲が良い」になるのかも知れない。
「……凪ってホント分かんない」
「へーそんなこと初めて言われた」
その後に「あ、そうか」と凪は思い付いたように呟いて。
「たぶん、今まで俺のことを分かろうとしてくれた人がいなかったんだ」
――分かろうとしなければ、分からないなんて言葉は出てこない。
「で、じつは俺にチョコ用意してたりしてないの?」
そう、どの面下げて当たり前のように手を出してくる凪に。
「――はい」
私はチョコを手渡した。
「ポッキー?」
「私のおやつ」
「めっちゃ義理じゃん」
「そうだよ」
まあいいや、食べやすいしとポッキーを口にくわえる凪。
抑えきれない頬の緩みに、反対方向を向いて隠した。
「来年はちゃんと用意してあげる」
「んー、んんんんんんんんー」
「……。なんて言った?」
もうちょっと、この恋を育ててみようかと思う。