"青い監獄"に来て、僕は本物の天才を知った。
けど、一番"ストライカー"という存在を思い知らされたのは――。
「……俺たちの敗北が決定したな。どのみち、すでにチームYは敗退が決まってたけど」
モニターに映し出された、最終結果のスコアを見つめ、大川は言った。
周りからはすすり泣く声が響く中、容赦なく絵心甚八は彼らに告げる。
『負けたチームは、最多得点者を残して帰れ。即刻、"青い監獄"から立ち去れ』
一人、また一人と部屋を出ていく姿を、二子は無言で見つめていた。
チームYの最多得点者は、二子だった。
「……じゃあな、二子。この先も生き残れよ」
最後に残った大川が、二子に声をかけた。二子は顔をそちらに向ける。相変わらずその眼は鉄壁の前髪で隠されていて見えないが、まっすぐと大川の眼と合わせていた。
「そのつもりですよ。僕は君を裏切ってまで勝ちにいったのですから……」
今までの二子のサッカーは、趣味だったカードゲームのように、自分はデュエリストで、選手というカードを巧みに使って勝ちにいく戦術的プレースタイルだった。
だが、この"青い監獄"で生き残るために、二子は変わった。
自分でゴールを奪うプレースタイルに。
必然的に大川へパスをしなくなり、チームの最多得点者として、二子は一次選考を突破した。
自虐を含ませて言った二子に、大川はふっと笑う。
「裏切りなんて思ってねーよ。みんな勝ち残りたいのは一緒だ。この結果は、お前が俺にパスを出さなくなってからわかってたのに、諦めて……出来る限りのことしかしなかった俺の負けだ」
珍しく大川は饒舌に話した。これが最後だからかもしれない。
「大川くん……サッカーを続けてくださいね」
君には才能がある。純粋なストライカーとしてなら、僕よりずっと。
「……さあな」
大川は顔だけ向け、笑って答えた。
そのまま部屋を出ていき、二子は文字通りの独りになる。
二子が変わるきっかけとなったのは、天才ではなく、凡人によってだ。
確かにあの瞬間までは凡人だったのに、ゴールを決めた彼は、非凡に変わっていた。
その彼は……
「チームZ。勝ち上がりおめでとうございます」
「二子……」
「お久しぶりです」
潔世一。あのゴールも、あの言葉も、自身の泣き顔を見られたことも……二子にとっては、忘れられない悔しさとして記憶に刻まれた。
「次は負けない。キミを潰すのは僕です」
彼とは別の形で生き残って、宣戦布告をしに来たつもりだったが……
「俺がここにいるのも、あの瞬間あの試合、お前がいたからだぞ、二子。いつでも来いよ、次も俺が勝つ」
「……ムカツク」
逆に強気で応じられ、二子は最後にその言葉を呟き、その場を立ち去る。
(絶対に、潰す)
その決意は、さらに強化された。
◆◆◆
「……ハッ……ハッ……!」
そのまま二次選考に突入するかと思いきや、絵心から言い渡されたのは、身体機能強化トレーニングだった。
二子が今行っているのは、2時間耐久走。
(死ぬ……!)
もともとフィジカルは弱く、体力もつきにくい二子は、死ぬ思いで朝から晩まで毎日トレーニングをこなしていた。
いや、絶対死ぬ!死ぬ!
一人の二子に、辛くても励ましてくれる者も、声をかけてくれる者もいない。
ぼっちは小学生の頃から慣れているのでそれは構わないが、一歩も動けないから、誰か水を差し出してほしい。
食事時でも、二子はぐったりしていた。
(気持ち悪っ……。なになら食べられるだろう……かっぱえびせん?)
食べなきゃ体力が持たないし、筋肉にならないのもわかっている。……この栄養が偏ったメニューで効果があるかはわからないが。
「……おい。前髪。ここで吐いたら殺すからな。絶対に吐くんじゃねーぞ」
そう声をかけたのは、同じくチームの最多得点者で生き残った馬狼だ。
ちなみに、チームYが唯一勝ったチームが、馬狼のいるチームXだった。このキングのワンマンプレーのおかげで。
「……君は普段と変わらず健康そうな顔をしていますね」
「当たり前だ。あんなトレーニング、俺の普段のトレーニングより生易しいな。ま、お前みてえなガリヒョロもやしには地獄か」
……ぼそ。
「脳筋、ゴリラが」
「おい、聞こえてんぞ」
どうやら、馬狼に毒突くぐらいの体力は残っていたらしい。
◆◆◆
いつ終わるかわからなかった地獄のトレーニングは約9日で終わり(僕が死ぬ前に終わってよかった……)指定された地下中央エリアへ二子は向かった。
(……おや。チームYのナンバー?……あぁ、なるほど。そういうことですか)
頭の切れる二子は、いち早くこの状況を理解した。
ちなみに二子の眼にも、見えないが他のほとんどの者と同じくくっきりクマができている。
知らない顔が多かったが、ややしてぞくぞくと知っている顔も集まってきた。
(あ、馬狼くん……)
馬狼は相変わらず顔色がよくてちょっとムカついた。
(潔くんは……)
潔は自分と同じように、眼の下にくっきりクマを作ってちょっと嬉しかった。
(彼は……不思議ちゃん)
チームZの中で、蜂楽だけが馬狼と同じく顔色がいいのは謎だった。
『やぁやぁ、才能の原石共よ。身体機能トレーニング、おつかれ』
モニターに現れた絵心は、最初にこの状況についての説明をした。二子の予想通りだ。そして、続いて二次選考について絵心は話す。
『二次選考はグズから脱落する。本物の"個"しか残らない』
……上等です。
サッカーが楽しくて、日々のめりこむだけだった二子は変わった。
自分が点を奪って勝つ、というエゴが生まれた。
(……天才は、まだまだいる)
でも、僕は僕のやり方で勝つ。
――糸師凛という、またもや規格外の才能を見せつけられてから、二子は二次選考へと進んだ。
◆◆◆
(これは、誰と組むか慎重に考えるべきですね……)
ブルーロックマン相手に100GOALをばっちり決めた二子だったが、その先で頭を悩ませていた。
(僕には無い武器を持ってる人を探すのが利口な選択……。使える人間……使える人間……)
3人1組じゃないと、次の2stには進めないからだ。……あ。
(めっちゃ足速くてめっちゃバカの人だ……)
この人ならアリかも。多少噛み合わない会話をしつつ、交渉は成立し(斬鉄くん。絶対おバカな妄想してるでしょ)二子は斬鉄と組む。
「で?あと一人は誰にする?」
さて、もう一人は――……。