「……フ。ついにこの日がやってきたな。お前と俺は家族であり、友だちでもあるが、今日という今日こそ決着をつけるぞ」
どっちが速いかの!!
(またやってるねぇ)
――日課の愛犬の散歩に、いつもの公園にやって来たところ。
お馴染みの光景が眼に飛び込む。
「うおおぉお――!!」
真剣に愛犬と競走しているのは剣城斬鉄くん。
小学校からの出会いで、お互い地元の中学と高校に進学したので、現在は同じクラスメイトと、私と彼はそこそこ長い付き合いだ。
「ぜぇ、ぜぇ……っ、……おぉ、なまえ、いいところに……今の競走、見てたか?俺の勝ち、ぜぇ、だよな……!?」
「まずは息を整えたら?」
斬鉄は昔から変わらない。所謂、天然バカだ。
勉強はからっきしで、言葉の使い方を間違ってたり、言葉自体間違っていたりもするけど、何故か足はめちゃくちゃ速い。
「スーハー……。で、どっちが勝ってた?」
さすがに犬には負けるけど。
「パトラッシュの勝ちだったよ」
斬鉄の愛犬の名はパトラッシュだ。その名の通り、かの有名な泣けるアニメに出てくる犬の名前が由来である。
大きくて賢くて、斬鉄の家族は犬のパトラッシュだけでなく、みんなそんな感じだ。
「……ふぅ。やはりお前は強いな」
斬鉄は負けたものの、誇らしげにパトラッシュを見つめて言った。
「俺はまだまだ努力が足りんらしい。ロンドンは一日にして成らずだ。……合ってる?」
「ロンドンじゃなくてローマね」
"ロ"しか合っていない。こんなんでも一応、うちの高校サッカー部のエースらしい。
「……ん?なんだ?もう一勝負したい?いいぞ!」
「わんっ!」
再び愛犬と真剣に競走する斬鉄の姿を眺める。
まっすぐ前を見て走る姿は、昔からちっとも変わらない。
電車の中から見えた、目的地に向かってひたすら走る姿と――。
(あとから聞いた話。お金の計算ができなかったから、移動はいつも走ってたって聞いて驚いたっけ)
「今度は負けんぞーー!!」
パトラッシュには負けているも、風を切るように走る斬鉄は、ちょっとだけかっこいいと思う。
◆◆◆
三限目、政治・経済。
日本国憲法における三大基本原則(国民主義、基本的人権の尊重、平和主義)について説明せよ。
「俺は平和主義です。何故なら平和が一番だからと思うからです」
「あはは!答えになってねーよ、バカ斬鉄!」
「バカって言うな!」
斬鉄の珍解答に、教室では笑い声が起きる。
こんな感じだから、小中高とクラスではおバカキャラで定着してしまう。愛されキャラとも言えるけど、本人は本人でちょっと気にしているようだ。
――本屋で『誰でもすぐに賢くなれる!』という本を手に取ってるぐらいには。
「……ねえ、斬鉄。そんなん読んでもすぐには賢くなれないと思うよ」
「なっ、なまえ!?こ、これは違うぞ。逆だ、逆。本が俺を呼んだんだ」
……なんだその言い訳。
「別にいーじゃん。斬鉄は斬鉄のままでさ」
そう言って。私は斬鉄が隠そうとしていた本を奪い、本棚に戻す。
「バカって言う方がバカって昔から言うし」
「そうなのか?」
「そうだよ。それに斬鉄の夢はプロサッカー選手になって『世界一尊敬されるバカ』なることでしょ。だったら今のままでいいんじゃない?」
頭のいい者が尊敬されのは当たり前だ。でも、世界一尊敬されるバカになるなんて夢がある。
斬鉄はしばし、考え込む素振りを見せた。
いや、そんな考え込ませることは言ってないと思うけど……。
「ずっと思っていたんだが……」
「なに?」
「もしかして、お前は俺のことが好きなのか」
「……はあ!?」
反射的に大な声が口から出て、思わず手で覆った。本を見ていた周りの視線が一瞬集まり、すぐに散らばる。
唐突に一体なに!?
「……なんで」
「いや、俺に優しいし、俺のことあんまりバカって言わないし……。あ、俺はなまえのこと好きだぞ!」
そう斬鉄は笑顔で明け透けに言った。一般的に人に伝える「好き」は「LIKE」と「LOVE」の意味の二種類あるのに、そう簡単に口にするところが……
「やっぱり、斬鉄くんはおバカですね」
「はっ!?」
その言葉のあとに本屋から立ち去ると、斬鉄も慌てて後ろから追ってくる。
「バカって言う方がバカじゃないのか!?」
「え、俺のこと嫌いなの……?」
そんなことを口にしながら。
(……好き?私が斬鉄を?そりゃあ確かに昔からなんとなく気になる存在だったけど、それは面白いなぁって思っていただけで……)
……嫌いではない、けど。好きでも「LIKE」の方で――
「あ、それかあれ?ヤンデレってやつか」
「それを言うならツンデレね。いや、私はツンデレじゃないけど!」
きっと、恋じゃない……はず!