夏の帰り道に食べたくなる

 この時間になっても、まだ暑ーい……。

 7月だというのに、最高気温は35度到達。
 祝日で学校は休みだけど、運動部は関係なく練習があり、問答無用で参加だ。
 皆、熱中症にならなくて本当によかったと思う。
 家に着くまでまだ距離はあるので、私は休憩とコンビニに寄ることにした。

 一歩足を踏み入れるだけで、冷房がガンガン効いていて涼しい。

「イラッシャイマセー」と、外国人の店員さんによるカタゴトの日本語に出迎えられ、一直線に私が向かう先は、

 アイスコーナー。

 どれにしようか、アイスたちを見下ろすように眺める。定番のものもあれば、新商品もあるし、コンビニ限定のものもある。
 冬ならミルクやチョコレートといったこってりしたものを食べたくなるけど(さらにこたつで)
 今はサッパリしたものを食べたいから『ガリガリ君』を選んだ。

「アリガトウゴザイマシター」

 コンビニから一歩外に出ると、今度はすぐにもあっとした生暖かい空気に体が包まれる。
 中のイートインで食べずに外に出たのは、冷房とアイスでは外と中からと体が冷えすぎるからだ。

 歩きながら食べて、のんびり帰るかーと思っていたら……「あ」見知った顔に足が止まった。

「お疲れ。糸師くんも学校帰りにアイス?」
「……ああ」

 コンビニの入り口から少しずれて立っていた彼は、目線だけこちらに向けて答えた。食べているアイスは私と同じチョイス、『ガリガリ君』だ。

 特にこれと言って理由はないけど……糸師くんと二人分ぐらい距離を開けた場所に立って、私もここで食べることにした。

 袋を開けて、水色の四角いアイスの端っこをかじる。この外側の固い部分が好きなんだよね〜。中はシャリシャリして、口の中を急速に冷やしていく。

 糸師くんの方を見ると、ただ前を向いて、同じようにシャリシャリと食べていた。

 糸師くんは部活に入っていない。代わりにサッカーの有名クラブチームに所属している。今日学校に来ていたのは、この間のテストで赤点を取って、その補習でだろう。
 クールで、頭の良さそうな顔をしているのに意外だと、その綺麗な横顔を見て改めて思う。……アイスを食べている姿も様になっているなぁ。

「今日、めちゃくちゃ暑かったね〜」
「7月の過去最高気温だとよ」
「35度でしょ。私の平熱とほぼおんなじよ」
「……体温、低過ぎだろ」

 生きてんのか、という目が私に向けられた。

 糸師くんとは特別仲がいいというわけではない。
 同じクラスメイトというだけの関係性だ。
 ただ、中学校も一緒だったから、他のクラスメイトよりはほんの少し親しいかも知れない。

 たぶん、私が一方的にそう思っているだけだろうけど。

 会話が盛り上がることなく、二人とも無言でアイスを食べる。
 気づけば、少しだけ空は茜色を差し、夏の虫の声が聞こえてきた。
 梅雨が始まったのかさえわからないのに、一足先に夏がやって来たようだ。

 さっさとアイスを食べ終わった糸師くんは、何故かその棒をじっと見つめている。

 そういえば、ガリガリ君は棒にアタリがついていたら、一本タダで貰えるっけ……。
 私は一度も当てたことないけど、もしや糸師くん。

「もしかして、当たりが……──あぁ!?」
「?」

 ポトリ、と。棒から残りのアイスが地面に落ち、足元に悲しい光景が広がった。
 あ、あぁ……と、言葉にならない声を出していると「早く食わねぇから……」という呆れた声が耳に届いた。

「ガリガリ君が溶けやすいのを忘れてた……」
「次は溶ける前に食えよ」

 近づいてきた足音と声に、顔を上げると、なにやら差し出される。

「当たり……」

 棒スティックは『1本当たり』という文字が刻まれていた。

「やる」

 糸師くんは表情を変えず、一言。

「あ、ありがとう……」

 思いもよらない行動に、驚きつつもそれを受け取った。
 たまたま当たって、アイスを落とした私を見かねてくれたんだろうけど……

「もしかして、私のこと、好き?」
「……本気で思ってんなら病院行け。暑さで頭やられた可能性があるぞ」

 冗談だから病院は行かない。

「いや、なんかちょっと意外だなって思って……」
「ただの証拠隠滅だよ──」

 証拠隠滅……?そう言った糸師くんの眼は、どこか遠くを見つめているように見えた。

「……じゃあ。これがきっかけで私が糸師くんのことを好きになったらどうする?」

 遠くを見ているような糸師くんの眼が、今度は私にピントが合ったように見開く。
 糸師くんの驚いた顔は初めて見たかも知れない。
 しばしの沈黙のあと、その顔はいつもの無表情に戻った。

 そして、口が開くと同時に手が伸ばされる。

「くだらねぇこと言うなら、返せ」
「やだよ。もう、貰ったもん」
「だったら早く交換して来いよ」
「ほぼ一本食べたし、今度交換する」
「それじゃあ証拠隠滅にならねぇ。今すぐ交換してこい」
「え〜」

 その証拠隠滅がなんなのかわからないけど、糸師くんなりのこだわりらしい。
 しぶしぶとコンビニに戻って、交換しに行く。

「コウカン……デスカ?」

 外国人の店員さんは不思議そうに首を傾げて、交換できるか心配だったけど「ガリガリ君の……」と、説明すると、ああ〜!とすぐにわかったようだ。

 無事、二本目のガリガリ君をゲットして、コンビニを出た。

 糸師くんは待っていてくれた。

 手持ち無沙汰なその姿に、思わず笑みがこぼれる。ちゃんと私が証拠隠滅したかの確認をするらしい。


「これ、当たり出たらあげるね」
「そんな簡単にホイホイ出ねぇだろ」


 棒を持って、はしっこをかじる。

 冷たさと一緒に口の中で広がる爽やかな甘さ。

 この時から、私が一番好きなアイスは『ガリガリ君』になった。





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ガリガリ君の当たり付きは現在は終了してました。



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