プライベートでもU-20日本代表の選手たちは仲がいい。
今日は音留、仁王、愛空の三人で集まっていた。
「ねえねえ、知ってるー?閃堂、彼女できたらしいよ」
「まさか……ハリウッド女優か!?」
「マジか」
「いやいや、普通の女の子らしいよ。でも、閃堂がベタ惚れなんだって」
「ほう〜あの閃堂がねえ。ちなみに俺は…………フラれた」
間を溜めて言った愛空は、続けて「昨日」とつけ加えた。その言葉を耳にして二人はなんとも言えない顔になる。
「……二股でもかけたんだろう」
「それは違うぞ、仁王。二股じゃねえ。じゃねえが……別の可愛い子ちゃんの名前を呼んじまったんだ」
やっちまった……と項垂れる愛空に、二人はあーと呆れた眼差しで彼を見た。かける言葉はなく、かけたい言葉もない。
「慰めて」
「どんまい」
「俺らは何回、お前を慰めればいいんだ」
***
「秋人くん、こっちこっち!」
「なまえ!ごめん、待った?」
「ううん、私も今来たところ」
閃堂秋人――念願の恋人ができて、今日はその噂の彼女とのデートだった。
「……ん、俺の顔になにかついてるか?」
「秋人くん、有名人なのに変装とかしなくていいのかなって」
「バレても構うもんか。逆に見せつけてやろうぜ」
そう言って閃堂は、彼女のその手に自身の指を絡めて握る。自分より小さな手。それすらも愛しい。
「俺のおすすめの店があるんだ。昼はそこでいいか?」
「もちろん」
微笑むなまえに、閃堂は胸がキュンとなって反対の手で押さえた。「……秋人くん?」
思えば、彼女との出逢いも偶然のような運命的なものだった。そうだ、きっとこれは……
(真実の愛――!)
なまえと出逢う前の自分はなんと愚かだったことか!やれグラビアアイドルや、やれハリウッド女優など、そんなものは肩書きでしかない。
なまえはどこにでもいる一般女性だ。
でも、見た目も中身も美しく、最高の女性だと閃堂は思っている。これから世界一のストライカーになる(※予定)の自分に相応しい女性だ。
以前の俺とは違うことを、証明してやるぜ――糸師冴!!
***
「……あ?」
珍しく日本に帰国した冴を待ち構えていたのは、閃堂であった。単独インタビューを終え、控え室を出たところで彼は文字通り待ち構えていた。
「よお。あの試合以来だな」
一体どこで自分の居場所の情報を手に入れたのか。問い質すほどには興味がないので、冴は素通りした。「ちょ、おい!無視かよ!?」
慌てて閃堂は冴を追いかける。
「俺はお前と違って暇じゃねぇんだ」
冴の物言いにムッとしながらも、閃堂は平常心を保って話す。
「マネージャーからこのあとはフリーだって聞いたぞ」
「…………」
『ごめん、冴ちゃん!お友達だと思って……』
情報はマネージャーからか、と冴はため息を吐いた。ジローランなら仕方がない。
「……俺になんの用だ」
冴は足の歩みを止めず、前を向いたまま閃堂に尋ねる。
「俺は以前、ハリウッド女優と結婚するって宣言したが……」
ああ、そんなアホな発言を恥ずかしげもなくしてたな、と歩きながら冴は思い出した。エレベーターのボタンを押す。すぐにエレベーターはやって来て乗り込めば、当然のように閃堂も同乗した。
「俺は、真実の愛を知ったんだ」
……は?
ボタンを押そうとした冴の指が、一瞬止まった。……こいつ、ついに頭がイカれやがったか。指は一階のボタンを押す。
「……念願のハリウッド女優とでもお近づきになったのか?」
「真実の愛って言っただろ?……俺の最高の彼女だ」
ドヤ顔の閃堂はスマホ画面を冴に向けた。自身の最高の彼女――なまえの写真だ。海辺の前で撮った、笑顔が眩しいお気に入りのやつ。待ち受けにもしている。
「……普通の子だな」
「バカ野郎!お前の目は節穴か!?どこからどう見ても超絶美人だろうが!?」
そんなこと言われても、冴には良くも悪くも彼女は普通の子に見える。だからこそ、素の感想が出てしまったのだが。
「あいつは見た目だけじゃねえんだ」
エレベーターが1階に到着するまでの数十秒、閃堂は彼女のどこがどう素晴らしいかペラペラと話し出した。心優しいやら家庭的やら……
ピコーン。
その時、エレベーターが一階に着いた合図が鳴りドアが開く。
「じゃあな、糸師冴。次同じピッチに立ったら、生まれ変わった俺を見せてやるよ。あ、お前も早く最高の彼女作るといいぜ」
閃堂は最後に余計な一言を添えて、冴より先にエレベーターを降りて行った。
…………。
言いたいことだけ言って行っちまいやがったぞ、あのゴミクソエース野郎。
清々しいほどの自由っぷりだ。思わず冴が呆気に取られるほどで、ドアが閉まろうする。寸前のところでその手がガシッと掴んで阻止した。
遅れてエレベーターから降りる。
時間にしてたった数分なのに、何時間も無駄にした気分だ。なんとか内に怒りを収めた冴だったが(顔には出ているので通りすがった人はビビる)今度はスマホのバイブが鳴った。
「…………」
画面を見て、さらに冴の眉間に深いシワが寄る。……見なきゃよかった。
"冴ちゃん、日本に帰ってきてるんだって?"
"俺とヤろーぜ"
"あ、もちサッカーな"
――あの悪魔、また発情してやがる。(わざわざやろーぜの"や"が"ヤ"に変換してんのがまたイラつく)
冴がうんざりする間も、次々と士道からメッセージが送りつけられる。
"おーい、見てんだろー"
"サッカー"
"未読スルーすんな"
スマホを鞄に突っ込んだ。未読スルーではなく見なかったことにしよう。
外に出ると、タクシーを停めて素早く乗り込んだ。
目的地は鎌倉にある実家だ。
しかし、実家に帰ったところで冴の苦悩は続く――。
「あ……?なんで帰ってきやがったんだ、クソ兄貴」
「ここは俺の家でもある。帰ってきちゃ悪ぃかよ」
「知るか。どっかホテルでも泊まれよ。腐るほど金持ってんだろ」
実家に帰ってきたら弟に邪険にされた。
そりゃあピッチ上ではやり合ったが、実家にまで目の敵にしなくてもよくないか。
(……反抗期か)
冴は荷物だけ家に置くと、その足は海へと向かった。
遠目に海を眺めるその横顔は憂鬱そのもの。
歩く冴が足を止めると、そこは小さい頃によく凛と海を眺めた場所だった。
懐かしい景色を見ていると、少し心が洗われる気がする。
――家に帰ってスマホを確認すると、士道から鬼電がかかってきていた。
(連絡先を教えたのはぬるかったな……)
憂鬱な冴の苦悩は終わらない。