凪のお正月


「俺、今週からヨーロッパへ行くんだ!」
「あたしはタヒチでマリンスポーツ!」


 冬休みに入る直前、生徒たちは長期休みになにをするか、どこに行くかで話が盛り上がっていた。

「凪はー……って、お前は万年寝太郎だもんな」

 隣の席の陽キャ男子は凪に声をかけるも、すぐに薄笑いを浮かべて他の生徒たちの会話に混じる。
 若干失礼な態度にも凪は気にすることなく、眠たそうな瞼を完全に下ろした。

 じつは、凪にもちゃんと冬休みの予定がある。

 年末年始はさすがに家に帰って来いと両親から言われているので、冬休み中に神奈川の実家に帰る予定だ。

 だが、電車で数時間の距離でさえ、帰るのに凪はめんどくさかった。

 放任主義の凪の両親だが、その分自分のことは自分でやれ主義でもあるので、結局寮で独り暮らししているのとあまり変わらない。(それもあって通学にも楽な学生寮を選んだ)

 さすがに食事は用意してくれるので、あったかい鍋とか食べたいなーと凪は前向きに考えることにした。

(でも、カニはめんどくさいからやだなー)


 ◆◆◆


 大晦日。凪は家族で年越しそばを食べながら、普段はあまり見ないテレビを見ていた。紅白歌合戦だ。今年は好きなバンドが初登場するのでちょっと楽しみにしている。

(そういえば、なんで最後に蛍の光を歌うんだろ)

 その紅白も終わると、いよいよ年明けの気配だ。
 どのチャンネルでもカウントダウンが始まり……

『ハッピーニューイヤー!皆さん、明けましておめでとうございまーす!』

 0時ちょうどになると、明るい声が年明けを告げる。
 凪にとっては年末も年明けも正月も関係ない。ただの休日だ。あ、スマホゲームで正月イベントや無料ガチャが行われるのでそれは嬉しいけど。

(初詣でも行ってこようかな……)

 どこからか聞こえる、除夜の鐘を耳にしながら。
 いつもの休日と変わらずずっと家でごろごろ過ごしていたが、さすがに引きこもってゲームばかりするのは、人として大丈夫だろうか心配になった。


「行ってきまーす」

 遅めの朝にお雑煮を食べたあと、凪は近くの神社へと向かった。今日は天気がよく、町は正月らしくゆったりした空気が流れている。

(……げ。めっちゃ並んでんじゃん)

 ちょっとしたアトラクション並みの列に一瞬で帰りたくなった。が、せっかくここまで来たし、という労力にしぶしぶと足は列に向かう。
 お参りは四人ずつ行うらしく、思ったより自分の順番は早くきそうだ。
 お参りの仕方はよく知らないが、前の人たちのやり方を見て、凪は同じように真似をする。お願いごとはどうしよう?

(……何事もなく、平穏な一年になりますよーに)

 悩んだ末、凪はそう願った。平穏、平和な日々が一番だ。多少退屈でも、めんどくさくない生き方がいい。そして、その足で今度はおみくじを引きに行く。

(お、大吉だ)

 特に凪は占いを信じているわけではないが、大吉はガチャでいうSSRだ。ちょっと嬉しい。

【大吉:運命の出会いあり。未知なる自分と新たな情熱が待つ。怠け心を捨て、努力を怠らなければ、大きな成果を手にしよう】

 ……いいこと書いてなくね?

 大吉なのに。まず、怠け心を捨てるのなんて絶対に無理だ。努力もしたくないし、運命の出会いもいらない。
 凪は少しがっかりして、おみくじを境内の納め所に結んだ。今年もお年玉を貰えたし、早く帰って正月イベをクリアしよう――。


 その年の春。


「あ。ゴメン……」

 凪と玲王。ある意味、運命的な出会いを果たした。
 おみくじは予言していたのだが、その頃には凪はすっかり忘れている。



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