"青の監獄"でのある日の日常。
僕は蜂楽くんに呼ばれた。
正確には、僕と七星くんが――。
「蜂楽さん!二子さん!今日はよろしくお願えします!」
「では、蜂楽くん。さっそく僕らを呼んだ理由を聞きましょうか」
自分も含めて珍しい組み合わせだと思う。張本人である蜂楽くんは、僕らに向けてにっこり笑って言った。
「第1回、眼フェチ同盟会だよ♪」
眼フェチ同盟会……とは……?
「そんな同盟、初耳です」
「キャラクターブック2で俺と二子っちだけじゃなくて、七星も眼フェチってことが判明したじゃん?三人になって、俺たち同盟ってこと♪」
「よくわからんですけど、お二人と同盟組めて、俺感激っす!」
キャラクターブック2……なるほど。そういうことですか。
「メタフィクションですね。漫画やアニメでもよくある手法ですし、僕は嫌いじゃないですよ」
「メタ……べか?」
「じゃあ、まずはそれぞれの眼フェチの理由を教えてよ!ちなみに俺は、"眼はその人の心が一番出るところ"だと思うから」
「俺も同じ意見っす!その人がどんな人か、眼を見ればわかる気ぃします」
「奇遇ですね。僕もお二人と同じです。『眼は口ほどに物を言う』という言葉もあるぐらいですし、眼は性格が出ます」
最後に答えると、七星くんが「三人同じ意見ってすごいっすね!」と、嬉しそうに笑って言った。
ちなみに僕の座右の銘も『眼は人を表す』だ。
眼つき、そらす、泳がせるなど、眼の表情からわかることは多い。
「あ、じゃあ俺から質問いいっすか?二人が思う『いい眼』ってどんな眼だと思います?」
挙手のように手を上げた七星くんの質問に、考える。いい眼……考えたことがなかった。というより『いい眼』として相手の眼を見たことが今までない。
「ここにいる奴らなら、俺は潔の眼かな!」
「潔くん、ですか」
確かに潔くんは『いい眼』を持っている。視力もいいし視野も広い。潔くんのサッカープレーに欠かせないだろう。
「サッカーしてる時の潔の眼って、めちゃくちゃエゴいよね」
「あーわかるっす!俺が決めてやる……みたいなエゴい眼っすよね!」
あぁ、いい眼って、そういうニュアンス的な意味か。それに、"エゴい"。また新たな単語が飛び出した。蜂楽くんだけでなく七星くんも当たり前に使っている所を見ると、流行っているのかも知れない。
確かにここ、"青の監獄"では、エゴさは生き残る為に必須のもの。
「そういう意味なら、僕は蜂楽くんの眼もいいと思いますよ」
「俺?」
「普段は天真爛漫さを表すような眼をしてますが、試合中はガラリと変わって潔くんにちょっと似てると思います」
「確かに蜂楽さんもバチバチって感じだべ!」
「お、マジ?俺も立派なエゴイストだね♪」
蜂楽くんが得意気に笑った。その直後だ。ふと、七星くんがこちらに視線を寄越し、前髪越しに眼が合う。
「俺、二子さんの眼って見たことがないんすけど、どんな眼ぇなんすか?」
なんとも直球に聞かれた。
「どんな眼って、至って普通の眼ですよ」
素っ気ない返事をしてしまったのは、他人に眼を見られたくなくて隠しているからだ。
「二子っちの眼は、俺も泣いてるとこしか見たことないからなー」
「……は……?」
今、蜂楽くんから聞き捨てられないコトを言われたぞ。
「いつの話ですか、それは」
「最初の頃の試合でチームZに負けたとき」
「……!!」
み、見られてた……!
潔くん以外にもあの泣き顔を見られていたのか……!
体がムズムズして恥ずかしくなってくる。あの時はこんなに悔しいコトはないと思っていたが、今はただただショックだ。
もしかしたら、チームZの他の人たちにも見られているかも知れない。(※見られている)
「せっかくだし、フツーの時の二子っちの眼ぇ見せてよ!」
鬼か。打ちひしがれてる身に追い討ちをかけるように蜂楽くんは言ってきた。もちろん断固拒否だ。
「嫌です。絶対嫌です」
「なんで?俺ら眼フェチ同盟じゃん?」
「それは君が勝手に作ったものでしょ。同盟を組むのは構いませんが、こればかりは嫌です」
「そこをなんとかお願げぇします!」
「そんなお願いされてもダメなものはダメです」
そもそも、そんなに期待されて見せるほどのものでもない。断固拒否の姿勢を見せると、案外、蜂楽くんも七星くんも、無理強いはよくないという風に、すぐに引き下がってくれた。この二人の良いところは素直なところだと思う。
「きっと、二子さんはまだ俺らに心の扉を開けてないんだべ」
「心の扉?」
「もっと二子さんと仲良くなったらきっと開いてくれるはずっす!」
「そっか!」
「いえ、友好度の問題じゃないです!」
なんですか、その恋愛シミュレーションみたいなシステムは。
「おでこと眼は、僕のデリケートゾーンってだけなので」
その為、顔を洗うときはいつも人がいない時間を狙っている。
「でも、おでこに前髪あるとじゅりじゅりしません?」
「じゅりじゅり?」
七星くんの口から出てきた不思議な単語に僕は聞き返したが、一方の蜂楽くんは「うんうん、わかるわかる」と頷いている。いや、絶対なにかわかってないでしょ、君。
「あ、また方言出ちまった!すんません、ズキズキって意味っす!」
なるほど、方言か。七星くんは茨城県出身だという。ズキズキも本来の意味とちょっと違う気がするけど……痒いとかも含まれているのだろうか。
「あ、七星がいつもヘアバンド巻いてるのはそのせい?」
「んだべ!それに、俺、ニキビもできやすいんす」
恥ずかしそうに笑って七星くんは言った。確かに、この前髪で僕もニキビが出来やすい。
いつも洗顔するときは、念入りにおでこを洗っているぐらいだ。
そんなことを考えていたからか、無意識に手がおでこを触っていた。……あ。
「ニキビが、出来てる……」
再び、僕はショックを受けた。もう僕はダメかもしれない……。
第一回、眼フェチ同盟会は、眼と関係ないオチで終わる。