ファミレス行こうぜ!

 今日もサッカーの練習はそこそこに。
 ベンチに腰掛けながらスマホでゲームをしていた凪は、深い意味はなく、思いついた質問を玲王にした。

「玲王ってカップ麺とか食べたことあんの?」
「なんだよ、いきなり」
「んー、ほら金持ちって庶民っぽいことをしないイメージだけど、玲王はママチャリで迎えに来たりとかあったからさ」
「いや、金持ちだからってチャリは乗るだろ。金持ち舐めんなよ?……カップ麺は食べたことないけど」

 あれはもしもの際の非常食だろ、とあっけらかんと言う玲王に(やっぱりテンプレイメージの金持ちじゃん)と凪は思う。まあ、自分も滅多に食べないけど。お湯を沸かして数分待つ行為でさえ、凪はめんどくさい。

「じゃあ、マックは?」
「あー幼稚園児の頃、限定キャラのハッピーセットが欲しくてばぁやに買ってもらったことがあるな」
「へー、ファミレスは行ったことある?」
「ファミレス……。あ、ロイホで食べたオニオングラタンスープはうまかった気がする」
「ロイホはファミレスじゃなくね」
「え、ファミレスじゃねえの?」

 ロイホの価格帯はもはや普通のレストランに近い。ファミレスでも高級ファミレスの分類で、庶民で括られるファミレスとはきっと違う。

「じゃあ、この後そのファミレスに行こうぜ!たまには学生らしく放課後駄弁るってやつ。案内してくれよ、凪!」
「俺、ファミレスあんま行かないし、早く家に帰ってゲームしたいんだけど」
「今してんだろー?」


 サッカー部へ強引に連れられたときのように。
 部活後、再び強引に凪は玲王に連れられた。――もう一人の案内人も共に。

「二人とも、ここだよ!」

 案内人のなまえはタッタと小走りになると、ビルの二階を指差した。自称庶民のなまえなら、ファミレスの一つや二つは知ってるだろう、という玲王の予想を彼女は裏切らなかった。

『ファミレス?うん、行くよー。そこでよく勉強してるから』

 雑音がある方が集中できるタイプだという。カフェは高いので、ドリンクバーのあるファミレスをよく利用してるとか。
 そんななまえを同じく部活帰りに捕まえ、そのよく行くファミレスに玲王と凪は案内してもらった。学校から歩いて数分の場所だ。

 ――低価格でおいしいものが食べられると人気の、某イタリアンファミリーレストランである。

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「3名です!」

 店員がやってきて、なまえは慣れた様子で答え、席に案内してもらう。
 ソファのボックス席に、なまえと玲王、向かい側に凪が座った。

 室内の雰囲気を物珍しげに玲王は眺める。やがて「こんな騒がしい空間で勉強できるってすごくね」となまえに言った。

「感想そこ?」
「俺、このコーヒーゼリー食べたいかも」
「おー頼め頼め。今日は俺の驕り……ってなんだこの金額!」

 凪が広げたメニューを目にした玲王は、見たことのない金額に驚愕した。
 イタリアンジェラートもついて、コーヒーゼリーが350円だと……!?いや、他のメニューも同じような金額だ。玲王にとっては雀の涙ほどと言ってもいい。

「安いのにおいしいんだよ!まずはドリンクバー頼まない?」

 ドリンクバーは単品で頼むと300円とそれでも激安だが、料理やデザートと頼むとセット価格で200円になるという。

「何故、値下がる……?」
「ん?」
「いや、ドリンク自体は原価は安いもんだからこの金額はありえなくねえ。……そうか。セット割引の心理で客単価アップを狙ってるのか。じゃあ他の料理の金額は……」

 玲王は顎に指をかけ、思案し始めたと思えば。今度はスマホを取り出し「企業規模は……。株価はどうだ……」など、ぶつぶつ呟きながら調べ始めた。

「玲王……?」
「なまえ。玲王はほっといて、さっさと注文しようよ。またあとで追加すればいいし」
「……そうだね」

 どうやら、御影コーポレーションの御曹司としての血が騒いでしまったらしい。

 なまえはドリンクバー三つと、凪のコーヒーゼリー、自分が食べるチョコレートケーキを注文した。(後に玲王はティラミスを頼んだ)


 ***


「玲王。俺、レモンティーね」
「はいはい」

 ドリンクバーを取りにいく際、当然のように凪は玲王にお願いして、玲王は凪の分も取りにいく。
 御曹司なのに、もはや玲王が凪の執事みたいだなぁとなまえは思っていると、こっちを振り向く玲王と目が合った。
 
「なまえはなにがいい?」
「あ、私も一緒にいく」

 コップを三つ持つのも大変だし。ここまで構うのは凪だけだが、基本的に玲王は平等に優しいのをなまえは思い出した。

「モテるわけだぁ」

 それも男女問わず。玲王は学校の人気者だ。

「ん?なんか言ったか?」
「ううんっ。私はなににしよっかな」

 それぞれ飲み物を手にし、戻ってくると、ちょうどデザートが運ばれてきたようだ。


 ***


「……ん、うまいな」

 玲王、ティラミスを一口食べて。

「玲王の口にあってよかった!ここの料理は本場イタリア人も唸らせるんだって」
「へ〜他のも食ってみたくなるな」
「凪はどう?」
「んーうまいよ。俺の夕食これでいいや」
「「それはダメだろ/だよ!」」

 不健康な発言をした凪に、玲王となまえは同時につっこんだ。

「サッカーはどんな感じ?」
「順調だぜ。今日の練習でも――」

 食べながら主に玲王となまえが他愛ない会話をし、時々凪に話題を降る。
 セレブな高校の制服を着ていること以外、三人はどこから見ても"普通"の高校生だ。
 それぞれ食べ終わると、凪がスマホでゲームをし始める。玲王となまえはというと、二人して目を皿のようにし、真剣に探していた。

「……見つからねえ」
「え、おかしいよ……」


 ――間違い探しを。


「よし。最初から一つずつ二人で確認していこうぜ」
「うんっ」
 
 キッズ用のメニューの表と裏に掲載されている間違い探しだ。
 色鮮やかに細かく描かれた絵は難易度が高く、全部で10個あるらしいが、二人で探しても最後の1つがどうしても見つからない。

 ちなみに、難易度が高過ぎるとSNSでも一時期話題になったほど。

「……そんなに難しいの?」

 子供向けの間違い探しなのに。さっきから悩ましげな声を出している二人に、凪はスマホから目を離して聞いた。

「最後の1つがホントに見つからなくて」
「二人でこんだけ探しても見つからねぇっておかしいよな」

 だから、俺たちはこう結論付けたんだ――と、玲王は凪に続けて言う。

「間違いは9個しかねえ」
「間違いが10個あるっていうのが間違い」
「なにその横暴な結論」

 めちゃくちゃな二人だ。9個なんて切りが悪いし、絶対にない結論だと凪は思う。どんだけ負けず嫌いなの。

「二人が見つけられないだけでしょ」
「そんなことねえよ。絶対にあと1つがねえんだ」
「凪も探しみてよ〜」
「えーめんどくさい……」

 いいからいいから、となまえにずいっとメニューを差し出され、凪は仕方なく間違い探しに目をやった。

「こことここでしょ?」
「それにここな」

 なまえと玲王は指を差し、ひとつひとつ自分たちが見つけた間違い探しを凪に教える。

「最後に、ここ。……ほら、もう間違ってるところなし」
「ここっしょ」

 さも当然のように凪が指差したそこに、二人は「あ!」と大きく声を揃えた。

「俺たちがあんなに探しても見つからなかった間違いが……」
「急に現れた……?」
「そんなわけないでしょー」

 驚愕するなまえの言葉に凪はつっこむ。間違いは案外シンプルなものだった。これぞ、灯台もと暗しってやつ?

「やっぱお前は天才だなっ、凪!」
「ちょ……」

 伸びてきた玲王の手に、凪は頭をくしゃくしゃと撫でられる。

「さすが凪!これで今夜はスッキリして眠れる〜」

 言葉通りなまえの笑顔は清々しい。
 凪にとっては、なんで二人が見つけられないのか不思議なぐらい簡単な間違い探しだった。(こんなことで天才って大げさ……)


「本当に送っていかなくて平気か?」
「うん、平気だよ〜。今日は楽しかった!二人とも、また明日!」
「気をつけて帰りなよ」


 ――お会計は宣言通り玲王がしてくれ、三人はファミレス前で解散となる。


(……放課後駄弁るってこんな感じなのかぁ)


 それは初めての経験だったが、まあ、悪くはなかったかな――そう思いながら帰宅する凪だった。



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