ファミレス行ったら

 久々に日本に帰国した冴は、サッカー関係の仕事をこなした後、幼馴染みであるなまえと会う約束をしていた。

 鎌倉駅に着き、歩く先は実家方面だ。

 待ち合わせは近くのファミレスで「どこでもいい」と言った冴に「ゆっくり話せるから」と、なまえが指定した場所だった。
 わりと空いていて、客層も高く、落ち着ける穴場らしい。

 風に漂う潮のにおいを懐かしく感じながら、冴は待ち合わせ場所のファミレスに着いた。

 そういえば、ここにあったな……と昔の記憶を思い出す。何度か家族で来たこともあったが、今の今まで存在を忘れていた。

 先ほどなまえから届いたメッセージには"先に着いたので席に座って待ってるね"というものだった。

 冴はガラス製のドアを開け、中に入る。

 出迎えた店員に「待ち合わせだ」と答えていると、手を振るなまえの姿が目に入った。

 数年ぶりの再会だったので、あいつに気づかないかも知れない、そしたら怒られるな――と、冴が思っていたことは杞憂に終わる。
 別に怒られることは大したことではなく、面倒くさいだけ。

「久しぶり、冴」
「ああ、久しぶりだな」

 そう笑うなまえは大人っぽくはなっていたが、ちゃんと昔の面影も残していた。
 冴が反対側の席に着くと、なまえの方から会話を切り出す。

「元気だった?」
「見ての通りだ」
「相変わらず可愛いくないなぁ」
「可愛いと思われたくもねぇ」
「凛の方は可愛いかったから」
「今のあいつに会ったか?反抗期だぞ」

 その大半は自分のせいだったが、冴は自分を棚に上げて言った。店員が水が注がれたコップを持ってきて、冴の前に置くと、再びなまえの方から口を開く。

「冴はお昼はもう食べた?」
「いや……お前と食べるつもりで来たから食ってねえ」
「ふふ、よかった。私もまだなの。ここの期間限定のメニュー、食べたいと思ってたんだ」

 なまえは開いていたメニューを冴に渡す。長らく海外に滞在していたので和食が恋しくなっていたが、そこはファミレスだ。和洋中のメニューを取り揃えている。それは、自由に選べるようになまえからの気遣いかもしれない。
 冴は和食のメニュー、なまえは期間限定のメニューと、そしてドリンクバーを二人分注文した。

「私はオレンジジュースね」
「お子ちゃまなチョイスだな」
「世界で活躍してるといえ、冴だって私と同じ年齢のまだ子供でしょ」
「精神年齢が違ぇ」

 軽口を交わしながらも、冴はドリンクバーに来ると、ちゃんとなまえの分のコップも手に取った。

(俺はなににするか……)

 昔はこんなにドリンクの数は豊富ではなかった気がする。悩んだ末、冴は結局なまえと同じオレンジジュースにした。
 二つのコップを手にし、席に戻ろうとした冴に――立ち塞がる存在が現れた。

(……なんだこのネコ型ロボット)

 ネコ型ロボットと言っても有名なドラえもんではない。人件費節約のためにファミレスで導入された、画期的な配膳ロボットだ。
 久々に日本に帰ってきた冴にとって、初めて目にするそれは、未知との遭遇だった。
 配膳ロボットの顔にあたる画面には、猫をイメージした顔が映し出されていたが、なんともいえない気が抜けたような表情になる。

「通してほしいニャ」

 …………。

 こいつ、しゃべるのか。


 ***


 冴と配膳ロボがお見合いしてる――。

 ふとドリンクバーの方へ目にして気づいたなまえは、そのままその光景を眺めていた。
 久しぶりの日本に帰ってきた冴は初めて見るのだろう。
 だが、配膳ロボットはあれでは通れない。
 まだ人を避けて通ることはできず、こちらから道を譲ってあげなければならない。

「通してほしいニャ」

 案の定、配膳ロボットはどこか悲しげな声で目の前にいる冴に言った。愛くるしい猫の姿もあって、微笑ましい光景だ――と、にこにこ見ていたなまえだったが。

「……嫌だ」

 配膳ロボットに道を譲るどころか、そう一言、無表情のまま冴は言った。

 ……。嫌だ、とは?

 ――ああ、わかった。冴は世界で戦っているサッカー選手であり、サッカーでは相手を通すということは勝負に負けたということ……。だから、どんな時でも通すことが出来ないのね。……たぶん。

「今、お料理運んでるニャン」
「だからなんだ」

 なまえは吹き出しそうになった。配膳ロボット相手にも容赦ねえ――。昔から冴は傲岸不遜なところがあったが、それはここでも発揮するらしい。そもそも、配膳ロボットと普通に会話をしている謎。

「お仕事中は危ないから、通してほしいニャン」
「勝手に横を通ればいいだろ」

 もはや、冴が配膳ロボットの前を立ち塞がっているようなものだ。

「仕事中だから通してほしいニャン!」

 ちょっと強めな口調になってる……!
 きっと、配膳ロボットなりの精一杯の抗議だろう。


 お互い譲らないまま、数秒――


「ももも、申し訳ございません!世界の糸師冴選手の前にわが社のロボットが立ち塞がるなどとんだご無礼を……!」

 膠着状態のそこに、慌てて店長らしき人物が現れた。冴と配膳ロボットの対決は、店長がロボットをどかすということで決着がついた。

 ――冴は自分の行動を弁解……説明する。

 なんでも冴も少し関わっている"青の監獄ブルーロック"プロジェクトでは、最新の技術を採用しており、しゃべれるならAI搭載で「こいつ、会話ができんだろ」と思ったとかなんとか。

「……お前、嘘だと思ってんだろ」
「うん」
「それじゃあ俺が馬鹿みてえじゃねえか」
「うん」
「…………」
「冴、よかったね。ここに若者がいたら、スマホで盗撮され、ネットにアップされて、今ごろ『糸師冴vs.配膳ロボ』ってタイトルでバズってたよ」
「……くだらねぇ」


 この店を選んだ自分の判断は(色んな意味で)間違っていなかったと思うなまえであった。



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