あれ、今日って4/1なんだ。
てことは、今日はエイプリルフールだ。
食堂に設置されている時計は時間だけでなく、日付と曜日も教えてくれる。
早いもので、もう4月。青い監獄に閉じ込められていると、曜日はもちろん日付けもバグる。
(なまえ、元気かなぁ)
エイプリルフールから、廻はなまえのことを思い出した。
エイプリルフールといえば、小学生の頃に「今日はウソをついてもいい日なんだって!なんかウソついてみようよ♪」と、廻がなまえに提案したところ……
「じゃあ……。わたし、廻のこと大キライ。もう仲よくしたくないな」
「……!!」
「……えっ、廻ウソだからね!?」
たとえ嘘だとわかっていても。なまえの口から聞きたくない言葉を言われて、あまりのショックに廻は泣きそうになった思い出がある。
それ以来、エイプリルフールについて二人の間で特に話題に上がることはなかったが、高校生になって廻はふと思い立ってなまえに仕掛けたことがあった。
「じつは……。俺、スカウトされて海外にサッカー留学することになったんだ!」
「えっすごい……!すごいよ、廻!」
なまえは信じた。廻の実力ならあり得ると脳裏にあるからだ。
「それで……スペインなんだけど、なまえについてきて欲しいんだ」
「…………」
いつもとは違う、真剣な表情で。
なまえの口からすぐに返事は出てこなかった。
ついていくということは、高校も中退して、何もかも捨てるということだ。
気持ちで突っ走れるほど、現実問題は簡単じゃない。
真剣に考えるなまえの頭に、ふと思い浮かぶ。
今日は4/1、エイプリルフールだと――
「うん、廻について行きたい」
「本当に!?」
「ちなみに廻はもうパスポート作った?」
「まだだけど……」
「パスポートを作るにはね、テストがあるんだよ」
「テスト?」
首を傾げる廻。あ、この話はエイプリルフールの嘘だと直感で気づいたなまえは、逆に嘘をし返した。
パスポート取得テストは、英語や海外の基本知識からマナー、ついでに学校で習う必須科目まで――なまえの口から次々と出てくるテスト内容に、廻は「うげえ」と嫌そうな顔をした。
「パスポート作るのってそんなに大変なの?」
「国の偉い人がね、海外から見た日本のイメージを保つのに、一定基準を合格した人じゃないと行っちゃだめって最近取り決めたの」
「偉い人!俺のことも考えて!」
廻はなまえの嘘を信じた。信じて「どうしようなまえ。俺、一生海外に行けないかも……!」と困っている。可愛い。
なまえは顔をそむけ、肩を震わせる。明らかに笑いを堪えている様子に、廻は気づいた。
「もしかして今の全部嘘!?」
「あはは、今日はなんの日でしょう?」
「……エイプリルフール。ってことは、俺のも嘘って気づいてた?」
途中から気づいたとなまえが答えると「なあんだ」と廻は残念そうな声を出した。
「でも、実際にそうなったらなまえについて来て欲しいなっ」
「うーん、ついて行きたいけど、とりあえず高校は卒業させてほしいかな」
「じゃあ卒業するまで遠距離になるのかー」
「あ、でも、白宝高校は海外にいくつか提携校があるから、もし同じ国なら転入って方法もできるかもね」
「それいいじゃん!そうしよう!」
「まずは廻がスカウトされて、海外留学が決まってからの話ね?」
――そんなもしもの話を繰り広げていたなと、懐かしい。
(エイプリルフールか……。せっかくだし♪)
なんか面白い嘘ないかな?と廻が考えていると「あー腹へったぁ。たまにはたくあん以外のおかず食いてえよ」そうぼやくイガグリの姿が目に入った。
廻はじっとイガグリを見つめる。正確にはその頭。
――これだ!
「……ん?なんだよ蜂楽、俺のことじっと見て。ははーん、さては俺のたくあんが食べたいんだろ?おかずトレードしてやってもいいぜ!」
「違うよ♪」
勘違いしたイガグリに、廻は笑顔でキッパリ断った。
「なあ、頼むよ!たまには交換してくれよ!」
「たくあん食べたい気分になったらいいよ」
「いつたくあん食べたい気分になるんだよ!」
それは神のみぞ知る。廻はイガグリを無視しながら自身のおかずのレバニラ炒めを平らげ、食堂を後にした。
目についた人からエイプリルフールの嘘を仕掛けようと廊下を歩く。
さっそく第一村人はっけーんというノリで、廻はその後ろ姿に駆け寄った。
「いーさぎ♪」
「蜂楽?」
「ねー、潔。これ知ってる?次の試合で負けたチームは、丸坊主にしなくちゃならないんだって」
廻がイガグリを見て思いついた嘘はこれだった。
「いやいや、なんだよそれ?サッカー関係ないし、デマだろ」
(うーん、やっぱり信憑性が薄いかな?)
「凛ちゃんから聞いたんだけど」
「凛から……?」
その名前を聞くて、潔が思考に入ったのがわかった。
(凛が言うなら本当か?でも負けたら丸坊主だなんて、昭和の体育会系じゃあるまいし。いや、ここはなんでもありなブルーロックだ。まだ俺が理解できてない何か意図があるのかも……)
説得力がある名前を出したのは正解だったようだ。
「……丸坊主って普通に嫌だな」
「うん、嫌だね」
「まあ、負けなきゃいいわけだし、もうちょい自主練するか。蜂楽も一緒にどうだ?」
「俺今忙しいからまた今度ね♪」
「(全然忙しそうに見えないけど……)」
再びトレーニングフィールドへ向かう潔。「潔、普通に信じちゃったなー」と廻はその背中を見送る。
あっさりな反応にちょっと物足りない。
(もっと面白い反応する人いないかな〜?)
頭の後ろに手を組んで廊下を歩く廻の前に、再び見知った姿に出会す。もはやここまで生き残った実力者に、知らない顔はいないが。
「やっほー二子」
「どうも、蜂楽くん」
「どこ行くの?」
「データ・モニタールームです。分析は僕の得意分野ですからね」
「ふぅん。そういえばこの話知ってる?」
「どの話でしょうか?」
「次の試合で負けたチームは、丸坊主にしなくちゃならないんだって」
「………………」
廻の言葉に、二子は黙り込み考えているようだ。二子も頭良さそうだからすぐに嘘ってバレるかな?
「それは由々しき事態ですね……」
(お……?)
「次の試合、負けられない戦いになりそうです」
信じた。何故、頭脳派の二子が廻の嘘を信じたのかは、真っ先に丸坊主は嫌だという感情が頭を占めたからだ。
「でも、二子なら坊主になったらさっぱりしていいじゃん?」
「蜂楽くん。僕はね、坊主にするのは地球最後の日と決めてるんですよ」
「地球最後の日……?なにそれ!」
壮大な言葉が二子の口から飛び出して、廻は興味津々に話に食いつく。
「よく言うでしょう?地球最後の日に何をするか。僕はその日に坊主にして、さっぱりします」
「にゃるほどね〜。じゃあ俺は、ドリブルでいけるとこまでいく!」
「君らしいですね」
思わぬ方向に会話が盛り上がって、廻は二子と別れる。
面白い話が聞けたけど、そうじゃないんだよな〜
「負けたら丸坊主?それは困るぞ。髪は頭を守るのに大事だからな。うし、次の試合も勝つぞ」
次に出会した我牙丸も普通に信じた。
みんな、そんな簡単に信じる?今日はエイプリルフールだよ?
我牙丸の場合、エイプリルフールという日も知らなさそうだが。
逆につまんなーいと廻がやって来たのは、トレーニングルーム。
走り込みをする雷市を見つけて、同じように嘘の話をした。
「あぁ!?てめぇさてはエイプリルフールの嘘だろ!その程度の嘘で俺を騙そうなんて100万年早えんだよ!」
これだ……この反応!嘘はバレたが、雷市のエイプリルフールらしい反応に廻は満足した。
「たとえその話がマジもんでも、俺は負けねえから関係ねえけどな!俺のセクシーフットボールでド肝を……って、いねえ!?」
――嘘だけ吐きに来たのかよ、あのオカッパ頭は!
再び廻は"青い監獄"内を巡る。
(――あ、千切んと馬狼だ)
シャワールームから出てきたのは珍しい組み合わせ。
さっそく廻は二人にも嘘の話をする。
「マジでエイプリルフールに乗っかる奴がいたとはな……。バカだろ。いやバカか」
「残念だったな、蜂楽。さっきちょうど日付け見て気づいてさ。俺たちそんな会話してたんだよ」
「ちぇー」
残念そうな声を出す廻。まあ、この二人は簡単に騙されなさそうだが。
「そもそもそんな嘘に引っかかる奴いねえだろ」
「潔は信じたよ?」
「あの野郎……!バレバレな嘘を信じやがって。俺はあんなバカに負けたのかよ!」
「素直に信じる所って潔らしいじゃん。まあ、何があってもおかしくないブルーロックだしな。蜂楽、いつものトレーニングルームに行ってみろよ。國神がいるからさ。あいつも根は素直だからあっさり信じるんじゃねーの」
廻は千切と馬狼と別れると、千切に言われた通り、いつものトレーニングルームに向かった。
「相変わらず鍛えてるねえ、國神きんにくん」
「なんだ、蜂楽か。お前も一緒にやるか?」
「今はパース。それより、次の試合のこの話知ってる?」
「……負けたチームが丸坊主?罰ゲームみたいだな。イガグリ量産でもすんのか」
千切の予想通り、國神は廻の嘘にすんなり信じた。
イガグリ量産という言葉がツボにはまって、廻は声を上げて笑う。
「にゃはは!今日はエイプリルフールだから嘘だよ♪」
「は、エイプリルフール?つい信じちまったじゃねーかよ」
よく考えればわかることだったとちょっと恥ずかしそうにする國神。
「まさか、騙されたのは俺だけか」
「ううん。今のところ、潔、二子、我牙丸も騙された」
「結構騙されてんな……」
じゃあ俺、他のみんなも騙してくるっという廻に「ほどほどにしとけよ」と國神はその元気な背中を見送った。
(……ん)
廻はまた別のトレーニングルームを覗いて見ると、そこには黙々と筋トレをする凛の姿があった。
「……なんの用だ。オカッパ」
ちらりと廻を一瞥して、凛は冷たい声を出す。大事な用がないなら話しかけるなオーラを出しているが、廻は気にせず話しかける。
「ねえ、凛ちゃん。次の試合、負けたら丸坊主にしなくちゃならないんだって。知ってた?」
「知るか。クソどうでもいい。つーか、てめえのエイプリルフールのお遊びに付き合ってるほどこっちは暇じゃねえんだよ。失せろ」
なかなかの言い種だが、廻が怯むことはない。それよりも……ピコンと頭に閃いた。
すぐにエイプリルフールの嘘とわかったということは、凛はこの日に馴染みがあるんじゃないかと。
「凛ちゃん、すぐにエイプリルフールって気づいたってことはよく遊んでたの?」
「……うるせぇ」
「嘘つく方?つかれる方?」
「黙れ」
……図星だった。それは、凛の幼い日の思い出。まだ凛が兄の冴を無邪気に慕っていた頃の話。
冴が「俺、消えるボールを蹴れるようになった」と言えば「すごいよ兄ちゃん!無敵じゃん!今度見せてよ!」そう凛はまるっと信じたし。
また別のエイプリルフールに冴が「この間、ノエル・ノアと1on1で抜いた」と言えば「さすが兄ちゃん!兄ちゃんは最強だもん!」そう1ミリも疑わず凛は信じた。
後に冴は「バーカ。今日はエイプリルフールだよ」決まっていつも凛の頭をわしわしと撫でながら、ネタばらしをする。
そして幼い凛は「あ、そっか」と、毎回素直な笑顔を浮かべて納得するのだ。
嘘をつかれても全然嫌な思いはしない。だって、
「兄ちゃんなら全部本当にできるって、おれ信じてる!」
(……くだらねえ。こんな思い出、今の俺には必要ねえんだよ)
――凛が見ているのはいつもずっと遥か先だ。廻にはその横顔がさびしそうに見えるけど、そこに干渉するつもりはない。
そっとその場を後にした。
廻のエイプリルフールはまだまだ続く。
「はは、面白い話だね。あ、でもそうか、今日はエイプリルフールだっけ?」
「俺が坊主になったら女の子たちが泣く」
「坊主……だと?この俺の美しい髪を刈り取るだと……!?いや、しかし坊主になっても俺の美しさは変わらないかもしれん。……どう思う、蜂楽廻!」
「負けたら坊主かぁ……嫌だなぁ、負けたらどうしよう……!あ、でも他の人たちが坊主になった姿は見てみたいかも。……ああっ蜂楽くん、性格悪いと思わないで!」
雪宮、乙夜、蟻生、時光。
それぞれ、一部(雪宮)を除いて個性豊かな反応が返ってきた。
「ここに残ってる奴らは、変な奴ばっかだなー」
改めて廻はそう思って呟いたが、その発言には皆「お前に言われたくねえ」と思うはずだ。
「あ、氷織ーん!」
「蜂楽くんやん」
そんな中、優しくて良い奴という氷織を見つけて廻は駆け寄る。
「なんや楽しそうやね。なんかあったん?」
「今日、エイプリルフールでしょ?みんなに嘘をついて回ってるんだ♪」
「またおもろいことを考えるね、蜂楽くんは」
「結構みんな騙されてるよ」
「僕も坊主になるのは嫌やな」
氷織とはそんな風に和やかに会話して「じゃーねー」と廻は別れる。
「凡やな」
次に烏に出会したので、同じように嘘の話をしたら、一言そう返された。
「BON?」
「凡、や。せっかくのエイプリルフールやで。もっと非凡な嘘をつかな」
「じゃあ非凡な嘘って?」
「そうやな……。勝負に負けた者は……」
負けた者は……?
「全員サッカーボールにされるんや」
「発想こわっ」
落とし合い上等の生き残りをかけてる"青い監獄"だが、これでは本当のデスゲームだ。
「どや?"ブルーロック"とかけた面白い嘘やろ」
「面白いっていえば面白いけど、そんな嘘信じる人いるかなぁ?」
…………いた。
「ん、蜂楽か。俺に何か用か?」
斬鉄だ。バカ眼鏡とも呼ばれている斬鉄なら、烏の嘘も信じるかも知れない。
「さっき、聞いた話なんだけど……」
「……!?負けた者はサッカーボールにされる……だと?」
信じた。廻の話に衝撃を受ける斬鉄。
「俺が知らない間にテクノロビーはそこまで鎮火していたのか!?……あってる?」
「んー、テクノロジーと進化じゃない?」
斬鉄と話すと相対的に廻がちょっぴり賢く見える。
「しかし、恐ろしい所だな、ブルーロックという"青い岩"は。歯医者はボールにされるのか……」
「歯医者……?あ、敗者?」
「あ、今のはあれだ。誤字じゃない。ウチの実家は歯医者だから、つい」
「へえ、斬鉄んち歯医者なんだ。虫歯にならなさそうでいいね」
「そうだな、生まれてから虫歯になったことがないのが俺の自慢だ。こんな家訓がある。『冠婚葬祭を忘れても歯みがきだけは忘れるな』って」
「かんこんそーさいって?」
「冠婚葬祭とはアレだ。……なんだっけ??」
…………。
だが、二人が会話すると話は脱線して迷宮入りするという事態が起こる。
潔か玲王辺りのつっこみ係が必要。
「ん、待てよ。さっきの話だが……ということはここのボールは元チームメイトの可能性もあるのか……!?」
「あるね。むしろ全部そうだよ」
「どうしよう。俺、思いっきり蹴っちゃった」
青ざめる斬鉄。「許してくれ、チームVのみんな……」と落ち込んでいる。
可哀想になって、廻は「今日はエイプリルフールだから全部嘘だよ。ごめんね」とネタばらしした。
「……あ、メイプルストーリーね」
エイプリルフール。
「フッ……まんまと騙されたな、蜂楽」
「えー?」
「今日がエイプリルフールだと知ってたよ。俺は騙されたフリをして、お前の裏の裏の裏の裏をかいたんだ」
「……。裏多くない?」
結局裏なの?表なの?
「本当は負けたチームは丸坊主になるんだって」
「丸坊主だと……!?まぁ、俺は負けないけどね。……ちなみに、坊主の眼鏡って賢く見える?」
斬鉄は再び廻に騙された。
――あー面白かった♪
鼻歌混じりに廻は再び食堂に行くと、ちょうど元チームVの二人がいた。
「お、蜂楽廻」
「おー……昨日ぶり」
玲王と凪だ。凪は相変わらずスマホでゲームをしている。
「ねーねー、二人は知ってる?」
もちろん、廻はこの二人にも嘘の話をする。
「それ、エイプリルフールの嘘でしょ、蜂楽」
すぐにバレた。何故なら答えは簡単。凪がやっているアプリゲーも、今日はエイプリルフール仕様だからだ。
凪がプレイしているキャラはいかにもなオタクキャラなのだが、
「いつものおっさんがイケメンになってる!」
「うん。俺も最初違うゲーム起動したのかとびびった」
スタイリッシュなイケメンが銃をぶっぱする。これによって「あー今日はエイプリルフールかー」と頭にあったのだ。
「ま、それがなくてもそんな合理性のねえ嘘に引っかからねえけどな。……そうだな。俺なら人間の心理を利用して……」
「そっちじゃないって、こっちだよ!そこ!」
「もうっ、蜂楽がうるさいせいで死んだじゃん」
「……二人とも聞いてる?」
全然聞いてない。
凪のゲームに横からちゃちゃ入れをして、飽きた廻は食堂を後にする。
なんだかんだ全員と話したかもーと考えながら歩いていると……
「俺だけ除け者にするなんて酷いんじゃね?パッツン前髪くん」
忘れ去られていた最後の一人が、向こうから話しかけられた。
「だって俺、お前のこと嫌いだもん。日サロ触覚」
「日サロじゃねぇ。太陽光だっつうの」
士道龍聖。廻にとって、士道の印象は初対面から最悪だった。
國神のことをバカにしたし、潔に蹴りを入れようとした。咄嗟に千切が後ろから潔を引っ張り、事なきを得たものの。あの蹴りが潔に入っていたら、口より先に廻がジャンピングボレーキックを士道にお見舞いしていただろう。
「負けたチームが丸坊主って本当になったら面白れぇのにな」
……なんだ、知ってんじゃん。
「俺が負けたら頭だけじゃなくて下の毛も剃ってやるぜ」
「うっわ、下ネタ最低ー」
やっぱこいつ最悪だ。廻はべーっと舌を出して、早々にその場を立ち去った。
「あっ蜂楽がいたぞー!」
「お前さっきのアレ嘘だったんだってな!」
「まさか蜂楽くんに騙されるとは……。不覚です」
「二度も騙すとは許さん!あ、いや、一度目は騙されてないぞ。これは言葉の鮎だ!」
「言葉の綾、な」
立ち去った先には、蜂楽の嘘に騙された者たちがいた。どうやら被害者?の会が出来上がっていた模様。
最後の斬鉄の言葉には、千切が訂正。
「今日はエイプリルフールだから、許してちょんまげ♪」
てへぺろ。そう可愛く謝って許してくれるのはなまえと氷織ぐらいだろう。
その廻のおちゃらけた態度は火に油を注ぎ、彼らの説教が始まろうとしたところ――
『やぁやぁ。ずいぶんと楽しそうだね、才能の原石共』
パッとモニターから現れたのは絵心だ。
『罰ゲームも時に闘争心を煽る材料になる。お望み通り5対5のミニゲーム形式で、負けたチームは丸坊主にしようか』
「「はああぁ!?」」
予期せぬ絵心の提案に、その場にいた者たちの声が重なった。
「オイ、蜂楽!てめえが余計なことすんからとんでもねえことになったじゃねえか!?」
「アイムソーリー、雷市にソーリー、じんごめん!」
自分の下の名前とかけたふざけた謝罪にブチッといった雷市。「ブッ殺す」「落ちつけ雷市!」それを押さえるのは潔。
ぎゃあぎゃあと騒ぐその場に、なんだなんだと他の者たちも集まってきた。
「くだらねえ。勝てばいいだけの問題によくもこんだけ騒げるな」
「だったら下まつげの天才くんよォ。お前負かして坊主にしてやんよ」
「……やってみろよ。ギザっ歯」
凛と雷市の間にバチバチと火花が弾ける。
「負けて坊主になったところで俺は元から坊主!俺の一人勝ちってわけだな!」
「いや、サッカーで勝とうぜ……イガグリ」
勝ち誇るイガグリに潔は呆れて言った。
いつもとはちょっと雰囲気の違う熱い勝負が始まる――。
さて、敗北したチームは……
「だっーー!!なんでこうなんだよ!イガグリ!あん時ミスボールしたお前のせいだぞ!」
「人のせいにすんじゃねえよ!これから坊主仲間になるんだから仲良くしようぜ、ら・い・ちくん」
「凪!お前本気出しやがって……!」
「だって負けて坊主になるの嫌だったし」
「髪洗う手間が省けるんだから、面倒臭がり屋には打ってつけじゃね!?」
「これマジで坊主になんの?いやだぁ」
「大丈夫だって潔!髪なんてすぐ生えてくる♪」
「蜂楽!元々はお前が蒔いた種だからな!?」
「僕が坊主にする時は地球が終わる時です。……今日、地球は終わりますよ?」
負けたのは、潔・玲王・二子・雷市・イガグリの五人のチーム。
『お疲れ、才能の原石共。なかなか良い試合だったじゃないか。さて、問題の罰ゲームだが……』
再び現れた絵心。五人はごくりと息を呑んだ。
『お前ら今日はなんの日だ?……そう、事の発端のエイプリルフールだ。てなわけで、罰ゲームも嘘でした』
そこでプツリと映像は切れた。
………………は。
ある者は安堵し、ある者は憤怒し、ある者は呆れる。
そして皆は「嘘かよ!!」と叫んだ。
今日はそんなエイプリルフール!
◆◆◆
「絵心さんがエイプリルフールに乗っかるなんて意外でした」
「まあ、本当に坊主になってもらっても良かったんだけど、保護者のクレームが増えるからね」
「(クレーム、少しは気にするのね……)」