「ごめん!無理です」
「……だよなぁ。ま、断られるってわかってたけど、そう速攻ではっきりと返事されると堪えるもんがあるな」
最後に苦笑いして言った玲王に、なまえは眉を下げて笑って再びごめん、と謝った。
玲王から熱烈な(?)オファーを受けて、最終的にはサッカー部のマネージャーを引き受けたなまえだったが、こればかりは簡単に引き受けることはできない。
関東は梅雨入りをし、雨が降る今日はサッカー部の活動は室内トレーニングだ。
外から聞こえる雨音を背景に、室内トレーニング中の部員たちの「うぉー」やら「ぬおぉ……!」など野太い声があちらこちらから聞こえてくる。
凪だけは静かにスマホゲームをしていたが。(部活には玲王に連れていかれるので、しぶしぶ参加している)
季節は6月。事の発端はその6月にちなんだことだった。
"ジューンブライド"
6月に結婚する花嫁は、一生涯幸せになれる――という古い言い伝えがある。
「ねえねえ、なまえちゃんも見に行こうよ、文芸部の衣装!」
「うん」
白宝高校にある文芸部は、高校の部活には収まらない本格的な活動をしている。部費を十分に使えるので、生徒たちはドレスや衣装を作るのに凝り、今回の作品はジューンブライドにちなんだブライダル衣装だという。
さらに今回は作っただけでなく、実際に着たモデルを用意しようとなり、頼まれたのが学校中の注目の的である玲王だった。
飾られている白のタキシードは学生が製作したとは思えない出来栄えで、
「絶対、玲王さまなら似合うわ!」
その姿を目に浮かべて興奮する玲王ファンの友人は言った。
なまえも同じように眺めて、玲王なら似合うだろうなぁと思う。白宝高校の白い制服もびしっと着こなしているからだ。
そして、その隣には目を惹く純白のベールとドレス。
タキシードの隣に並ぶウェディングドレスは、パールで彩られたオリジナリティあふれるデザインの美しいドレスだ。
「あのドレスを着て、玲王さまと写真撮影……」
「それって疑似結婚式体験よね!」
「私、立候補するわ!」
ウェディングドレスを着たいという希望者が殺到して、花嫁のオーディションが開催されることになったとか。
冒頭、なまえが玲王の誘いを断った件は、このウェディングドレスのモデルであった。
ウェディングドレスはうっとりするほど素敵だが、なまえはこのドレスを着て、玲王の隣に並ぶことは色んな意味でできない。
ただ……、ウェディングドレスを見つめるなまえの目は、他の女子生徒と同じような羨望の眼差しだった。
いつか、着たいと憧れはある。
一緒に、タキシードを着て隣に並ぶのは、もちろん……
(……?)
あれ?おかしい、うまくイメージできない。似合わないことはないと思う。似合うとは思うけど……。
そこで、なまえは人知れずくすりと笑ってしまう。
高校の制服も初日で着崩してた姿を思い出してだ。
今は、サッカーのユニフォームが、きっと廻には一番似合う。
(6月の花嫁は一生涯幸せになれるって言い伝えだけど、大好きな人とずっと一緒にいられたら幸せだよね)
◆◆◆
「結局、オーディションも揉めに揉めて、俺一人でってことになってさ」
「ドレスのモデルがいないのは残念だけど、それが一番平和かも」
「まあ、それじゃあつまんねえから、凪も一緒に着させることにした。ちょうどいいあいつに似合いそうなデザインのやつがあったんだ」
「え、凪も?」
「プロになったら礼服を着てかしこまった席に出席することもあるだろ?」
その予行練習も兼ねてだと、からっと笑う玲王に、なまえはプロになることだけでなく、その先のことも考えてるんだなぁと感心した。
「いつの間にか勝手に話が進んでるんだけど……。やだよ、そんなめんどくさいこと」
今まで黙っていた凪はスマホから顔を上げていつもの気だるげな口調で言った。
だが、なまえは知っている。
なんだかんだ凪は玲王のペースに乗せられることを。
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あでぃしょなる⚽たいむ!
#喧嘩にならない
「なまえ、俺がめんどくさがり屋なの知ってるっしょ。なんで味方になってくれなかったの」
「玲王って一度言い出したらやり遂げる人だし……私は凪も似合うと思うから、見てみたいなって思って」
「もう、それ裏切り行為だからね。あーあ、がっかりだよ。もう俺、なまえとはしゃべんないもんね」
「そんな子供の喧嘩みたいな……(元々そこまで会話も多くなかったけど)」
〜数日後〜
「ねーなまえ、ノート見せて」
「あれ、もう私としゃべってもいいの?」
「あー……そんなこと言ったっけ。なんかめんどくさくなっちゃった」
「(自由だなぁ)」