すほひょんと長女

また、やってしまった。
ほぼ毎日、バイト先で火傷してる気がする。それくらい高頻度に火傷してる…だから、私は塗り薬と絆創膏を持ち歩くようになって家に帰るときには絆創膏の数が増えて帰ってきてるのが現状。
今日は、指と手首を火傷した。それに、帰りの電車はいつもより満員で押しつぶされるし大変だったなぁ。今日はついてない日かも。

最寄り駅を降りると、すっかり真っ暗になった夜空と出会う。もうこんなに暗いんだ。早く家に帰りたくて歩くスピードを早める。重たい足と何時間もの勤務で痛むふくらはぎに無茶を言って歩いた。甘いものが食べたいのに、コンビニのロゴが見えても我慢した。とにかく早く家に帰りたい。家に帰って休みたいし癒やされたい。その気持ちが現れたのか、普段なら10分はかかる道を6分程で歩いて家についた。早すぎて自分でも笑った。

「おかえり!」
「すほちゃーん、ただいま」

やってきたのは一緒に暮らしてるスホちゃん。
黒髪が赤髪になってる。派手な髪色が似合うのもスホちゃんだからだな〜。今日も肌つやつやで白くて羨ましいし、出迎えてくれたスホちゃんは私の好きな優しい笑顔。この笑顔を見ると勤務が終わった合図と癒やしの時間の鐘が鳴る。最初は抵抗してたけど、今はお家についたらハグするのが日課になった。
「花音…その絆創膏は、また、火傷?」
「うん。すぐに薬塗ったから痛くないよ」
笑顔だったスホちゃん。すぐに顔が歪んでいく。その表情がいつにも増して怖く見えて、1歩後ろ下がってしまった。
「花音。あのね」
「はい…」
「花音は、俺の大事な女の子だ。花音が一番大切な子で、怪我をしてほしくないし健康でいてほしいと願ってる。それはわかってるよね?」
「うん…」
「火傷だって、したくてしてるんじゃないとわかってるけど…俺は花音に火傷して帰って来てほしくない。俺の大切な人に傷跡が残るようなことは無いほうがいいから……それに、女の子の体に傷がつくのは良くない」
「ごめんなさい…気をつける…」
「うん、分かればよろしい」
真剣な顔で私に気持ちを伝えるスホちゃんは、ステージの上のアイドルみたいな真剣な顔だった。私の前ではよく笑って優しい声で話すのに、さっきは違った。怒らせたんだ…。
「そんな顔しないで」
「え」
「顔がどんどん暗くなってるみたいだったから。花音、ハグしよう。それでこの話は終わり」
「わかった…スホちゃん、心配してくれて有難う」
「花音のことを心配するのは当たり前だよ。花音のことが好きだからね」
愛してるよ、花音。耳元で紡がれた言葉と、恥ずかしげもなく言うスホちゃんを見て顔が暑くなった。もう、顔が見れない。顔が良すぎて、優しすぎて、だめだ。危ない、やることを忘れてスホちゃんに夢中になりそう。
「お風呂、入る」
「火傷は!?」
「大丈夫だよ、痛くないし避ければ平気!」
「あ〜…だから花音のことが心配なんだよ……」
最後の言葉は聞かなかったことにしよう!

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