Departure

 その後、川沿いにある一軒の民家でアスカンタについて、ちょっとした情報を聞いた。それから外に出たときは夕暮れで、しかしながらアスカンタまではかなりの距離があった。橋を渡った先にある川沿いの教会では運良くタダで休めるとのことで、一行は教会に一晩泊まることとなった。
皆で夕食を簡単に済ませると、クローディアはようやく昼間の件を話すことにした。
「さて、何から話しましょうか……」
思案する彼女に、エイトが問いかける。
「とりあえず、昼間の魔物が群れて襲いかかってきたことから、かな」
「わかりました」
頷いて、クローディアは話し始めた。
「推測ではありますが、クロゼルクのつけた左胸にある痣、これが原因ではないかと思われます。今までこのようなことはありませんでした。この痣ができたのは、数日前の修道院襲撃の時。魔物除けの結界が張られていた修道院や町では何もないですし、旅をしている間、私を狙うように術を仕掛けたのでしょう。私に何かしら不利益があるだろうと予想はしていましたが……」
クローディアの説明に、各苦虫を噛み潰したような顔になった。
「ねえ、痣は痛んだりしないの?」
ゼシカの問いに、彼女はたまに痛むときもある、と答える。
「しかし、……マルチェロ団長に頼まなかったのか?痣を消してもらえないかって」
ククールが言いづらそうにしながらも尋ねた。エイトたちも聞きたそうに彼女へ目を向ける。クローディアは一度瞬きをして話した。
「マルチェロ様はこの痣に気づきはしましたが、それ以上は何も仰いませんでした。オディロ院長が生きていらしたならば、もしかしたら消せたかもしれませんが……。彼には出来ません。もちろん、教会の神父でもほぼ無理と言っても過言ではありません。それくらい、この痣は強い呪詛からつくられています。私でもこの痣の呪力を弱めることは出来ても体から取り除くのは不可能に近いです」
その言葉に皆息を呑んだ。それに気付きながらも、クローディアは笑みを浮かべて話を続けた。
「心配しないでください。現に私は生きていますし、これで死ぬようなことは万に一つも有り得ないでしょう。それと、皆さんにもご迷惑をおかけしないようにしますので、ご安心ください」
「それは、どういうことでげすか?」
「実は、ものすごく迷ったのですが、暫く別行動をさせてもらいたいのです。この痣の呪力を弱めるためには、ある場所に行く必要があるのです。しかし、皆さんにはドルマゲスを追う使命がありますから、一緒に行く訳にはまいりません」
クローディアの口から次々に出てくる言葉にエイトは目を丸くする。次の瞬間に彼は口を挟んだ。
「ちょっと待って、クローディア。別行動をするって、君、そんな魔物に狙われやすい状態で、しかも一人でその場所に行くのかい?魔物なら僕たちでも対処できるから、そんな無理しなくても」
「エイト、それに皆も落ち着いて聞いてください。何も私は魔物の巣窟に向かう訳ではありません。私が昔頼りにしていた人の元に足を運ぶだけです。そこに行けば、この痣を取り除く術が見つかるかもしれないので」
なだめるようにクローディアはゆっくりと、落ち着いた口調で話した。後半の台詞に、それぞれ安堵した様子を見せる。
「ということで、早速明日離脱させていただきたいのです。エイト、申し訳ないのですが、よろしいでしょうか?」
クローディアは淡々と、しかし残念そうな、無念そうな声色で言う。
「うーん、仕方ないよな。でも、いずれはまた僕たちの元に戻ってくるんだよね?このままお別れって訳ではないよね」
「それはもちろん、皆さんが嫌でなければまた旅を一緒にさせていただくつもりです」
その言葉に、皆は首を縦に振る。
「嫌な訳ないわ!折角の女仲間が離れてしまうのは寂しいもの」
ゼシカはクローディアの手を握って言う。他も同じようだ。
「ありがとうございます。寂しいですが、しばしのお別れです。なるべく早く戻れるよう最善を尽くします」
そう言って、満面の笑みを浮かべた。
「皆さんと連絡が取れないのは不便ですからね。こちらの魔法石をお持ちください」
クローディアはポシェットから小さな七色に光る石を取り出す。すると、それをエイトに手渡した。
「ずいぶん面白い色でげすな、何でげすか?」
「それは私の魔力を込めた魔法石です。その石を持っている方がどこにいるかわかる優れものです。私はルーラが使えるので、その石を皆さんが持っていてくだされば、合流することが可能です」
なるほど、と皆は感嘆の息を漏らす。その後も細かい話が続き、ようやく話が終わった頃。
「じゃあ、明日からは別行動ってことか。折角クローディアとも旅が出来ると思ったが、残念だぜ」
ククールはわざとらしくため息をついた。
「申し訳ないけど、戻ってきてからよろしく頼みます」
「ああ、待ってるぜ」
そうして話は終わり、それぞれ眠りについた。

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