リトゥ
リトゥ(*** IAST:RI*AU)は、インドの叙事詩「マハーバーラタ」に登場する神の化身。チャンドラまたはソーマの転身した姿、及び加護を授かった英雄と呼ばれている。チャンドラは9の天体、あるいはそれを司る神々ナヴァグラハの一員であり、月曜日・月・銀・真珠・水・冬と対応する神。月を象徴する神であり、太陽を象徴するスーリヤとは一種の対となる存在。リトゥとは元よりヒンディー語で季節を意味する言葉であり、原典『マハーバーラタ』でも「リトゥが通った後には草花が芽吹き……」と記述されていたあたり、加護をさずけられた神と反して春を象徴する男なのかと伺える。
リトゥはクンティーがマントラを授かった直後にスーリヤと交わり生まれた子であるので、カルナとは双星のもとに生まれた。しかしクンティーはリトゥのことを知らなかった。リトゥはカルナから生まれたからである。カルナがクンティーによって川に流されたのち、カルナの姿は突如光りだし、その光が収まったのちに、そこにいた赤子の影は一人から二人に増えていた。その二人のうち、鎧がなく、また、突如増えた赤子がリトゥである。笑えば花が咲き、泣けば草花が枯れ果てることから、季節を意味する「リトゥ」と呼ばれた。スーリヤからの鎧を持たぬので、見かねたチャンドラが白銀の鎧を貸し出した。リトゥがチャンドラの加護を授かった、または、チャンドラの転身した姿であると呼ばれる所以である。白銀の鎧は傷こそ付くものの命は奪われないほど力が強い鎧であって、カルナの身につける黄金の鎧と対になりかけるほどのもの。完全な対でないのは、『マハーバーラタ』が書かれた時代の宗教観で見て、月よりも太陽の方が偉大だったからである。
全編通して一貫した穏やかな性格という風に描かれているが、その実薄ら笑いや営業用微笑の多い人物であるため、穏やかというよりはちょっと腹黒かもしれない。原典ではブラフマーストラや様々な奥義を授けられ大いなる戦力となった双星の兄の弓とは対となる剣の才能を開花させた。しかしながら、その生まれ方から母に認められず、インドラにもクリシュナにさえもアルジュナに害を及ぼす者として認められなかったので、リトゥはヴィシュヌ神に「せめて兄の役に立ちたい」と願った。ヴィシュヌ神は虐げ苛まれながらも兄のために願うリトゥを認め、カルナの受ける災いをリトゥに転がり移すことを約束し、また、ヴィシュヌ神が創った太陽と月が瞬く双剣を手渡す。斯くしてリトゥは兄を救うただ唯一の方法と相成ったのである。
母クンティーはリトゥのことを知らず、認めず、スーリヤの子はカルナのみで、リトゥを生んだこれらはリトゥに何かを授けることは一切しなかった。リトゥをリトゥとして見てくれたのは双星の兄であるカルナと、その親友ドゥルヨーダナ、カウラヴァ百兄弟くらいであって、リトゥ自身もカルナと共に在るべきなのは自分だと思っていた。しかしアルジュナとカルナが出会い、双敵として相対した際、自分はカルナとは対となるべき存在ではなかったことを知って、ついに命を捨てることとなる。
リトゥはクルクシェートラの戦いで兄が横槍を入れられるのを嫌うことを分かっていながらアルジュナからの一矢を肩代わりし、その矢は心臓を貫き、白銀を貫き、月を撃ち落とした。最期の力を振り絞りカルナに白銀の鎧を託すが、月は太陽の炎に燃え崩れ、リトゥはそれを見る前に絶命してしまった。双星の剣が放つ奥義はしかして使われることはなかったが、スーリヤとなったカルナが月の剣を、チャンドラとなったリトゥが太陽の剣をそれぞれ所持していることが多く、双星の絆を感じさせる。カルナはリトゥの死後、育ての親が死んだ時でさえ流さなかった涙を見せたという。動揺の隙にカルナはアルジュナの矢に射られ、死後、スーリヤと同一の存在となった。