デュアルアソート
8月8日、タルタロス。流星を繋ぐ道の前で自分と目が合ったのは、小さな少女だった。年齢は小学生くらいだろうか。黒く長い髪をふわふわと揺らし、青がかった黒の瞳を瞬かせているその娘が気になって、吸い寄せられるようにその女の子に近付く。
「有里くん、どこに……」
けれども、もう少しで自分の腕が女の子に届くというところで、その風景は打ち切られるように移り変わった。こんなことは今までに起こったことなどなくて、パーティメンバーも幾つか困惑している様子が垣間見える。エントランスまで戻ってきてしまった――正確には、戻らされてしまった様な気がして。困惑の空気が広がる中で紅の髪を手で後ろに流すように動かした女は、有里湊の所属している不思議な部活の部長を務めていて、そしてその部活の大多数が赴いている月光館学園高等部の生徒会長だ。女、桐条美鶴は厳しい目で湊のことを見咎める。
「有里、どうした」
「……桐条先輩、あの、タルタロスに女の子が居たんです」
「女の子? タルタロスにか」
「はい」
「見間違いとかじゃないの?」
ゆかりが一言、口に出す。普段ならばどうでもいい、で片付けるはずの湊がその言葉に反応を返すのは、特別課外活動部、S.E.E.S.に所属するメンバーから見れば、意外性の方が大きかった。
「違う。女の子が居たんだ」
しかしそこに、必死さはない。誰かに必死になって説明するようなものではなく、ただ淡々と、そこにある事実を確認するような声のトーン。鼓膜が震えて、その場に静かな沈黙が落ちる。
「有里」
「はい」
「もしも本当に、その、女の子がいるのなら、助け出さねばならない」
「そうですね」
湊の表情はやはり、変わることなく。例え何千万、何百万の人間に関心を向けられたとしてもそう心は動かないであろうこの男が興味を持った幼子を見てみたいという下心は多少あれど、タルタロスの中に永遠に居るというのは、美鶴は責任者として許容できることではなかったから。
「探してきます、明日にでも」
「すまない。頼んだ」
口を出したそうなゆかりを一瞥する。湊の脳裏にはただ、諦めたように笑う少女が記憶を圧迫するように掠めていく映像だけが残っていた。