「――諏訪さん」
「お、おう」
先日侵攻によってトリオンキューブに変えられてしまっていた、諏訪さん。その人である。ちーくんからその報告を聞いた時、わたしがどれだけ憤りを感じていたことか。
「わたしの、わたしによる、諏訪さんのための。――お説教を始めます」
「……まあ、仕方ねえな」
「仕方ねえな、じゃないの!いーい諏訪さん、もっと自覚!自覚を持って!」
「お前の方が重傷だっただろうが、特級戦功」
「今わたしのこと関係ないでしょ」
本部の食堂の片隅で、ぎり、と諏訪さんを睨む。わたしの大事なはーちゃんの唯一無二。あなたが居なくなった時のはーちゃんなんて想像するだけで痛ましくって、……だから。ていうかそう、今は諏訪さんにお説教をしているのだから、わたしの怪我の具合は関係ないのに。そう思って頬を膨らませる。
「はーちゃんの気質!性格!分かってるんでしょ!あのひとの煌めきが失われちゃったらどうすんの!まあはーちゃんがどんなはーちゃんになってもわたしははーちゃんのこと大好きなんだけど」
「話逸れてんぞ」
「いっけね……あのね諏訪さん、はーちゃんは確かに強いから、わたしだってまだちょっとしか勝ったことないし、わたしでこれなんだから諏訪さんだってそうでしょ?だからはーちゃんを守れとは言わないよ」
「(これ嘗められてねえ……?)」
「せめて!はー!ちゃん!に!心!配!かけ!ない!こと!」
「で、お前の今回の生身に受けた傷はどうなんだ?赤坂に心配掛けてねえのか」
「わたしのことは置いとくっつったでしょ」
トリオン体でここに来ているから、諏訪さんはわたしの生身のことなんて分からないはずなのに、どうしてそうネチネチと言ってくるのだろう。わたしにとってすごくすごく大切なはーちゃんのことなんだし、別段わたしのトリオン体を使ったって問題は無いはずだ。
「赤坂に心配かけてんのは俺だけじゃねえの、気付いてんだろ」
「……それでも、あなたははーちゃんを引き上げるひとで、引き上げてくれるひとだ」
「赤坂を連れ出したのはお前じゃねぇのか」
「あれはわたしが意地張っただけだもん」
「……お前なあ」
呆れた視線をわたしに向ける諏訪さんから、目を逸らす。別にわたしが居なくなったってはーちゃんは、諏訪さんの力を借りたりすれば、きっと立ち直れるじゃない。諏訪さんが居なくなったら、はーちゃんの時間はまた巻き戻って、あの時みたいになっちゃう。
「はーちゃんが幸せなら、幸せになれるなら、それでいいの、わたしは」
「、んっとにお前ら似たもの同士だな」
「良く言われる」
食堂の入り口から、はーちゃんのシルエットが見える。その隣には、……こうくん、かな。抜け出してきたことに気付かれたらしい。
「……時間切れか」
「ま、お前の赤坂への気持ちは伝わってきたぜ」
「当たり前でしょ。はーちゃん泣かせたら容赦しないからね」
「おーこえー……、泣かせるつもりもねえよ」
「信じてるからね、その言葉」
目を釣り上げてこちらを睨みつけるこうくんから逃げるべく、わたしは駆け出す。今日もゆるく微笑んでいるはーちゃんがそこに居るなら、わたしだって幸せなのだ。――後ろからわたしの名前を叫ぶこうくんには、心の中で、ごめん、と言って。
「はーちゃんが笑ってて、良かった」
先程までわたしが居た場所に、はーちゃんが居る。本人が気付いているかどうか、は分からないけれど、でも、愛しさを滲ませた微笑みを浮かべるから。わたしの口角も、上がった。