ショウ・マスト・ゴー・オン

 ボーダーという組織には、多感な時期の少年少女が多い。今通っている本部の廊下も、辺りを見れば、ほんわかとしている女子高生が大きな笑い声をたてていて。今通ってきた場所を振り返れば、青少年が下卑た笑いを、嘲笑を、誰かへと向けている。C級からB級へ、B級からA級へと上がるにつれて、そんな人達が占める割合は少なくなっていく訳だけど、それはきっと、命掛けという本当の意味を理解する、というのもあるだろう。
 今の時間だと、この近くのブースはC級が訓練で使っているはずだ。今期のC級はどうなっているかな、とブースを覗き、そして、聞こえてきた会話に瞠目する。

「なあ、あの玉狛の、榎本春奈ってよお、――」
「あ、その話俺も知ってるぜ」

 榎本春奈、というのは。わたしと旧知の仲である迅悠一という男が拾った女の子で。過剰感応、という、非常に生きにくいサイドエフェクトを持った女の子だ―ちなみに、女の子という言い方をしているが、彼女はわたしより年上である―。迅くんはそのサイドエフェクトと人柄の所為か、救った人間に懐かれることが多い気がする。そんな春奈ちゃんとわたしは、仲がいいんじゃないかな、と言えるようになってきた友人であった。過剰感応で辛そうな春奈ちゃんの周囲を、大気変動でカバーしたことも多々ある。兄さんの幻影を見てしまって、放って置けなかったことも。だから。

「――ねえ」
「ひっ、な、七々原さん!?」
「春奈ちゃんの話してるの?わたしも混ぜてよ」

 そんな春奈ちゃんの悪口を言っているのは、少し見過ごせないな。
 そもそも本部に来て戦闘をする春奈ちゃんを見て勝てたことがないからだろうけれど、人形みたいだとか、迅くんに媚びているだとか、そんなことを聞く度に虫唾が走る。

「君、射手志望なんだっけ?ランク戦しようよ」
「あ、あの」
「早く準備しなよ。出来るでしょ?」

 こちとら、気にかけている子の悪口を言われて、黙っていられるタイプではないもので。二人組で喋っていたはずなのに、片方はわたしに話し掛けられた時点で逃げていた。情けない。なんと呆気ない友情だろうか。後で報復を受けるぞ、逃げた方。
 がたがたと身体を震えさせながら、 C級は引き笑いをする。

「え、と、5本勝負、で」
「ん?50本勝負ね。わたしが全勝したら、春奈ちゃんへのその不名誉な悪口、撤回してもらおうか」

 わたしは笑みを浮かべる。自分で結構頑張って満面の笑みを作っているんだけれど、もしかして目が笑えていないだろうか。目の前に立つC級は顔面蒼白である。

「じゃあ、始めよっか」



電光版に表示されている数字は0-50。勿論わたしが50の方だ。

「ねえ、分かった?春奈ちゃんの悪口はもう言いません、サンハイ」
「春奈ちゃん、の、」
「お前が春奈ちゃんって呼ばないで」
「え、榎本さんの、悪口は……もう言いません……!」

 「良く出来ました」、とわたしはC級の頭を撫でた。幾人かにはひそひそと話をされながら見られていたけれど、まあ春奈ちゃんの名誉を守れたので良しとしよう。