狭間

「……あ、春奈ちゃん」
 
 ふら、とブースを出た。珍しくランク戦をしていて、無事勝利したわたしのポイントは、確かに増えている。ブースを出てすぐ見えたのは、辛そうに、けれど壁にギリギリ触れていない場所で寄りかかっている、彼女。過剰感応のサイドエフェクトを持った玉狛所属のボーダー隊員、榎本春奈。わたしはそんな彼女と、多少親交がある。
 大抵その原因は迅悠一という男で、わたしと彼女の関わりも、その男が居なければ、きっとなかった。迅くんが大層大事にしている女の子、というイメージが強くて、頭の中でその映像がリフレインする時も多い。迅くん、お前と言うやつはどうしてこうなんだ、と思う時もある。しかしこんなことを言っておいて何だが、わたしは彼を信頼こそしていないけれども、信用だけはしている。だからそんな彼に言われた言葉も、わたしは何かの意味があったのだと、理解している。
 
「春奈のサイドエフェクトはな」
「うん」
「生き辛いタイプの奴なんだ」
「……、それ、迅くんが言う?」
 
 迅くんは本部の屋上で休んでいるわたしの元へ来て、春奈ちゃんのサイドエフェクトについて説明した。なんでも、五感の中の一つである触覚が強化されているサイドエフェクトらしく、空気の振動や波でさえも感じ取ってしまうものだそうだ。
 
「で、なんでそれをわたしに?」
「……いーや、お前に言っておいたら、きっと春奈を助けてくれるだろうなと思って」
「過度な期待し過ぎなんじゃないの」
 
 そんな一時の会話を、思い出す。何もかも、迅くんに読まれている。わたしは迅くんのサイドエフェクトが嫌いだ。いつだって迅くんを苦しめる。でも迅くんは嫌いじゃない。わたしの代わりに泣いてくれたから。そんな迅くんを幸せにしてくれるかもしれない彼女を、見過ごす訳にはいかない。溜息を吐いてサイドエフェクトを起動させる。大気変動とかいうおっかないサイドエフェクトでも、他人の役に立つことが出来るようだ。
 
「春奈ちゃん、大丈夫?」
「……あ、羽純、ちゃん」
 
 春奈ちゃんの周りの空気だけを硬直させるだけで、随分気分も良くなるだろう。本当に皆、生き辛いサイドエフェクトを持っているな、と思いながら、わたしは彼女に笑いかける。目の前の彼女は珍しく驚いたように目をぱちぱちとさせていて、幼子のようで、少し微笑ましい。