あんずてゃ


──彼女は、看板娘だった。

小さな町の小さなカフェ、それでもこの町ではそこに住む全員にとって憩いの場だった。
両親が営むカフェの看板娘……その子の名前はあんず。

幼い頃から両親やお客さんに愛されて健やかに成長したどこにでもいる普通の女の子だ。
幼い頃、「大人になったら迎えに来る」と約束してくれた自分と歳の変わらぬ男の子の事を待ち続けながらのんびりと暮らしていた。
約束した成人になる少し前、そんな平和な生活は突如として消えてしまった。

──少し離れた大きな街では「小さな町を狙った賊が問題になっている」という話が広がっていた。
そして、それが彼女の住む町に狙いをつけてしまったのだった。
「やめて!」なんて泣き叫ぼうが愛した町は、家は焼かれ、抵抗する人々は暴行を受けた。
そうして若い女……年端のいかぬ子供まで全員まとめて攫われてしまった。
町に残ったものは焼け落ちた家や、誰かも分からない死体のみだった。

家族の安否なんて分からない、不安になるのは自分もそうな筈なのに、周りの人を励ますように明るく振舞った。
そうして数ヶ月が過ぎ、あんずは運良くその賊の元から逃げ出すことが出来た。だけれど、彼女の心はもうとっくにボロボロだった。

そして彼女に出会いがあった。それは、彼女の運命を変えるような……そんな大きな出会い。
これは、トラウマを背負った一人の女の子のお話だ。



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